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忍び寄る「極右」旋風。世界はやはり第二次大戦前夜に酷似してきた

衝撃の英国EU離脱と、それに伴い混乱必至の世界経済。もちろん日本も無関係ではいられません。メルマガ『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さんは、以前の記事でも指摘した通り、この経済の混乱が巡り巡って中国にナショナリズムの台頭を引き起こし、南シナ海・東シナ海で紛争となる可能性があると分析しています。

ドイツ帝国完成が悲劇の始まり

ブレグジットにより、英国が抜けてEUの支配権を完全にドイツが握った。第2次大戦ではドイツは欧州を支配できなかったが、平和の構築というEUにより支配できたことになる。しかし、このことが今後、大きな悲劇になる可能性が出てきた。その検討。

英国の離脱でドイツの支配権確立

英仏独の3国のパワー・バランスで、EUは運営されてきた。この中から英国が離脱すると、EUの中心はフランスとドイツであるが、パワー的にはドイツが優勢になり、ドイツの意見が通り、ドイツの支配権が高まる。

これは、ドイツ帝国、神聖ローマ帝国の復活を夢見たヒトラーの夢が実現できたことになる。戦争で得られなかった欧州を、平和の構築という理想で欧州の支配権を手に入れることになったのだ。

しかし、このドイツの支配権が確立すると、ドイツの我が儘が明確化することになる。安いユーロ通貨で輸出して経済的な恩恵を受けながら、総体的に高いユーロ通貨で、輸出ができないその他の国を支援しないことや財政的な制限を設けて経済的発展ができない状態にするため、ドイツ以外の国では不満が増すことになる。

英国はユーロ通貨を採用せず、ドイツの通貨支配権がなかったのでいいとこ取りの経済発展してきたが、その英国が最初に離脱したことで、他の国はより一層の離脱思考になるようだ。

フランスやオランダなどでは、極右政党が勢力を増している。イタリアでも同様である。しかし、東欧は、移民を送り出し本国送金やドイツ企業の工場進出で潤っているので離脱はないが、南欧などでは労働賃金が、相対的に東欧より高いので工場の進出もなく、ユーロの通貨高でのマイナスが出ていることで離脱思考になる。

ドイツが対応を誤ると、離脱の方向に南欧などのEU諸国が向かう可能性が否定できない。このため、EUの多様化を推進して次の離脱を防ごうとしているようである。

しかし、英国の離脱は、金融危機を伴う経済的な混乱を起こす可能性がある。

ソロスの行動

著名投資家ジョージ・ソロス氏は、欧州議会で演説して、英国のブレグジットは、金融と難民の2つの迫り来る危機を悪化させるとした。

そして、ソロスは、24日のブレグジットでドイツ銀行株の大量空売りを仕掛けたようである。この行動からブレグジットの次の焦点が、ドイツ銀行のデリバティブ取引の損害やハイブリッド証券の暴落などに市場関係者の関心は移っている。なんせ、ソロスが現役復帰して、その最初にドイツ銀行の大量空売りであるから、これは大変である。

ポンドの暴落で、デリバティブ取引で大損をした可能性がドイツ銀行にはあるのではないかと見ているようである。

デリバティブの市場規模は巨大だが、証券取引所などの公開市場を介さない取引が主流である。当事者同士が相対で取引を行うデリバティブのことを「店頭デリバティブ」と呼ぶが、店頭デリバティブの取引残高は493兆ドルに上る。

店頭デリバティブ取引の主役は、米シティグループやJPモルガン・チェース、ドイツ銀行などの国際金融グループである。

ドイツはファンダメンタルズの面で、先進国の中で最も良好とされているが、そのドイツの株式市場が暴落した。

その理由について、「ドイツ銀行に対する漠然たる不安」を挙げる声が少なくない。ドイツ銀行株は、リーマンショック後の最悪期よりも割安になっている(6月29日付ブルームバーグ)。ドイツ銀行が保有するデリバティブの残高が巨額であることに加え、レバレッジ比率(企業の自己資本に対する有利子負債等の割合)が47倍と高い(世界大手金融機関のレバレッジ比率の平均は24倍)と推測されているからである。

デリバテイブを扱う大手金融機関に巨額損失が発生している可能性が高いが、デリバテイブの多くは数カ月後に満期を迎える。このため数ヶ月後に巨額の損失を抱えた金融機関がハイブリッド証券のトリガー発動に追い込まれるのではないかとの観測が高まるようだ。

また、ドイツ銀行と英国の銀行は同様である。そして、銀行が発行した偶発転換社債(ハイブリッド証券)のパニックによりリーマンショクと同様な金融恐慌が起きる可能性が出ているようである。そこに目をつけて、ソロスは勝負を仕掛けてきたのかである。

リーマンショック時、その危機を回復させたのは、シェールオイル企業と中国であるが、その2つともに、現在、調子が良くない。

英国離脱で石油価格が下落して、シェール企業が大量に発行しているジャンク債の恐怖指数が急上昇しているし、中国の工業指数は50と、ここ数年の最低になっている。

自由主義経済の終焉

英国の離脱や米国のトランプ氏が大統領候補になるなど、経済合理や今までの寛容を基礎とした自由主義とは違い、人種差別やナショナリズムで理念や経済合理性ではなく、国民感情で動く政治になってきた。

英国EU離脱で、最初の国民感情での動きが金融破綻に結びつき、その金融危機で、経済的に苦しくなり、次のナショナリズムの動きが出てくることになる。

特に、日本にとっては中国が危険な感じがする。

金融危機になれば、経済的に苦しくなるので、フランスやオランダでもEU離脱派が選挙に勝利する可能性も出てくるし、中国の民衆が騒ぐので、習近平政権も国内対策としての南シナ海東シナ海の紛争を起こす可能性もある。特に7月上旬に国際仲裁裁判所の判断で、中国の南シナ海権益を無効とすると、中国国内の反発で、大変なことになる。

まるで、1930年代から1945年の繰り返しを世界は演じているような感じになってきた。

経済的な相互依存を、国民感情がナショナリズムの感覚で破壊して、その破壊でより経済的に厳しくなり、その厳しさで、ナショナリズムがより沸騰してしまい戦争という手段に出てしまうことになる。

富者が、貧者の配分を減らし富者の配分を増やしたことで、貧者が経済合理性を無視した反乱をして、その反乱で経済的に苦しくなり、特に貧者が苦しくなり、より大きな反乱を企てることになるようだ。その行き着く先が戦争ということになる。

益々、イヤな感じになってきた。

さあ、どうなりますか?

image by: Shutterstock

 

国際戦略コラム有料版』より一部抜粋

著者/津田慶治
国際的、国内的な動向をリアリスト(現実主義)の観点から、予測したり、評論したりする。読者の疑問点にもお答えする。日本文化を掘り下げて解析して、今後企業が海外に出て行くときの助けになることができればと思う。
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