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ソニーのロボット復活の裏で起きていた、「人類の歴史的転換」

イギリスのEU離脱にマスメディアの注目が集まっていますが、NY在住でメルマガ「ニューヨークの遊び方」の著者・りばてぃさんは、いま人工知能関連の話題こそ、「歴史の節目になるようなニュース」がいくつもあると語っています。さらに、「アイボ」の生産・開発をやめてしまったソニーを例に出し、人工知能社会に向けて「人間側に必要なこと」とは何かを解説しています。

AIが普及・発展すると人間らしさが大事になってくる?

今、イギリスで起こってる出来事は、たとえ、一見、矛盾とか問題があるように見えたとしても、「不確実性による危険性を排除する」ために、やっていると考えると、だいたいどれも合理的で、そりゃそうなるよねって感じな気がする。

その一方で、人工知能(Artificial Intelligence、以下、略してAI)関連の話題は、また今週も、歴史の節目になるようなニュースがいくつも報じられていた。

なので、今週もこの話題を見ていこう。

まず、大きな話題になったのは、マイクロソフトのCEOのサティア・ナデラ(Satya Nadella)さんがAI側に6つ、人間側に4つ、合計10個のAIのルールを提言したこと。

ナデラさんが個人ブログに書いたもので、AI側の6つは、当たり前のことばかりだが、マイクロソフトのCEOが・・・ってことと、人間側の4つが、結構、意味の深いものになっており、アメリカでは、いろいろとニュースになった。

皆さんも、今後、何かの機会に「AIのルールを決めるなら、どんな内容が良いと思いますか?」なんて聞かれることもあるかもしれないので、一応、その内容を軽くご紹介しておこう。

≪AI側に必要になるもの≫

【第1条】
AIは、人間性と人類の自動化を支援するためにデザインされること
(AI must be designed to assist humanity and to respect human autonomy.)

【第2条】

AIは、透明性があること

【第3条】
AIは、人間の尊厳を傷つけずに効率を最大化すること

【第4条】
AIは、信頼を得るために、知的プライバシーを保護すること
(AI must be designed for intelligent privacy -中略-that earn trust.)

【第5条】
AIは、人間に危害を与えた場合に撤回できるよう、アルゴリズム的な責任(誰がどのように作ったかということ?)をはっきりさせること
(AI must have algorithmic accountability so that humans can undo unintended harm.)

【第6条】
AIは、差別や偏見を防ぎ、適切で見本となる研究を守ること

・・・という感じ。

まぁ、当たり前のルールばかりで、特にコレと言って疑問に感じるものや、内容の分からないものはないだろう。

続いて、結構、意味が深いのが、以下の「人間側」についてのルール。

≪人間側に必要になるもの≫

【第7条】
★共感力、他者の考えや感情を感じ取る能力
(Empathy, perceiving others’ thoughts and feelings, collaborating and building relationships will be critical in the human-AI world.)

【第8条】
★教育、教育への投資

【第9条】
★創造性
(Creativity. Machines will continue to enrich and augment our creativity.)

【第10条】
★判断力、結果への責任
(Judgment and accountability- We may be willing to accept a computer-generated diagnosis or legal decision,but we will still expect a human to beultimately accountable for the outcomes.)

〔ご参考〕
AI experts weigh in on Microsoft CEO’s 10 new rules for artificial intelligence

ご覧のとおり、人間側に必要になるルールは、先週、このメルマガの特集で取り上げた日本の総務省の情報通信政策研究所が公表した「AIネットワーク化検討会議 報告書2016」の中で、今後、さらにAIが発展・普及した「智連社会」(Wisdom Network Society:WINS)に変わっていったとき、私たちが求められることになる能力、すなわち、

と、かーなり重複している。提案の方向性という意味では、もはやまったく同じ方向と言っていいくらいだ。

特に、一番最初に「共感力」をあげているところや、どちらにもまったく同じく「創造性」、クリエイティビティが出てくるあたり、実に興味深い。

たぶん、AIが今より発展・普及すると、つまり「智連社会」になってくると、そもそも人間とはどういう存在なのかについて、私たちはもっと真剣に考えなくてはいけなくなるということかもしれない。

うーむ。

さて、このマイクロソフトのナデラさんによるAIのルールを踏まえたうえで、もう1つ、今週、報じられたAI関連の大きなニュースを見てみたい。

ソニーが再び「ロボット×AI」の開発に復帰すると発表した、というニュースだ。

日本人の皆さんには、こっちの方が大ニュースだったようで、日本のマスコミでも、関連報道が多々あった。

ソニーで「ロボット×AI」と言えば、犬型ロボット『AIBO(アイボ)』

どこよりも早く、人工知能搭載のロボットの量産に成功したソニーは、1999年6月にオンライン販売限定で初代アイボを発売。1台(1匹?)25万円という価格だったにも関わらず、瞬時に売り切れとなったほど人気が高かった。

そんなわけで、「ソニーが人間と感情的に結びつくロボットの開発へ」のようなタイトルでこの一報を報じたメディアも、アメリカには多かった。

〔ご参考〕
Sony to Develop a Robot That Can Connect Emotionally With People

人間の感情を理解するAIを開発する前に・・・

AI関連情報への注目が高いという背景や、ソニーは、アメリカでも有名で、今回の発表前にCogitaiというアメリカのAIベンチャー企業に出資も行っているということもあって、ソニーが「ロボット×AI」開発にカムバックしてくるというニュースは、アメリカの各種メディアでも、様々な角度から大きく報じられており、一応、うちのブログの方でも、ごく基本的な情報を取り上げた。

〔ご参考〕
ソニーがAI技術による高性能ロボットの実用化を目指し再参入

で、ソニーが「ロボット×AI」開発に帰ってくるというニュースは、いろいろな関連報道を読んでいくと、1つの素朴な疑問が沸いてくる。

それは、「なんでアイボやめちゃったの?」という疑問だ。

かつてソニーは、他社よりも大きく先行して「ロボット×AI」の研究開発を進めていて、だからこそ1999年にアイボを販売できた。

しかし、その後、今から10年ほど前の2006年にアイボの生産や開発を一旦やめちゃったのだ。それに伴い、すでに販売済みのアイボに対する修理などのサポート窓口も閉鎖してしまった。

一目見たら誰でもお分かり頂けるとおり、これまでに作られたアイボは、「ペット」として作られたAIロボットだ。ペット以外の使い道はない、と言ってもいい。その点、スマホやパソコンなどの他のハイテク電子機器とはかなり違う。

なので、ソニーが修理などのサポートを辞めてしまえば、ペットとしてアイボをずっと可愛がってきた飼い主の方々は、とても困ることになる。

スマホやパソコンなどが故障してもショックはショックだが、ペットを失うということは、スマホやパソコンなどが故障するのとは比べ物にならないほど、ショックだろう。

だから、ソニーを定年退社した元社員のエンジニアの方々などが中心になって、ジャンク品などから部品をかき集め、自分たちでアイボの修理を請け負うようになり、そのことがニュースになったりもしていた。

素晴らしい。でも、それが人情ってものだろう。

可愛がってきたペットが動かなくなったら、どんなに悲しいことなのか、人間だったら、誰だって分かると思う。

ところが、ソニーの経営層の方々は、そんなアイボの飼い主の方々の気持ちにちゃんと向き合うことなく、この状況を10年もほったらかしにしてきた。

で、最近になって、アメリカで、AI関連技術に、まるでカンブリア紀のような劇的な進化・発展が起こった。

〔ご参考〕
今、アメリカの人工知能業界はまるで「カンブリア紀」?

そして、ソニーは、とってつけたかのように、今後「ロボット×AI」を経営の柱の1つととらえ、「AI技術による高性能ロボットの実用化を目指し再参入する」などと、今回、発表したのだ。

もし、ソニー内部に、

「アイボをかわいがってきた飼い主の方々の思いに応えよう・・・」

といったような気持ちを持つ人々がいて、つまり、他の人々の気持ちに対して「共感力」のある人々がいて、自社内でアイボの
修理などのサポート窓口を作ったら、もっと早く、何年も前に、彼らは「ロボット×AI」の重要性に気づけていたかもしれない。

そもそも、アイボを一旦辞めずに、そのまま続けていれば、ソニーの「ロボット×AI」開発は、他社よりもずっと先に進んでいたかもしれない。

今回の「ロボット×AI」へのカムバックの発表だって、もし、ソニーに共感力のある人々が大勢いれば、何よりもまず、ソニーがサポート窓口をやめてしまった後も、アイボを可愛がり続けている飼い主の方々へ向けたメッセージからこの発表をはじめていたかもしれない。

ソニー内部の人々は、人間の感情を理解するAIを開発する前に、自分たち自身が、もっと人間の感情を理解する必要があるのかもしれない。

これは、先ほど紹介したマイクロソフトのナデラさんが指摘した人間側に必要となるAIのルールの1つ、「共感力」そのものだ。

もし、ソニー内部の人々に、共感力が乏しいというのであれば、「ロボット×AI」の開発に戻ってきても、たぶん、うまくはいかない。

というか、こんなことすら分からないのでは、AI抜きにして、普通のビジネスとして考えても、いずれ重要な判断を間違え、確実に失敗するだろう。

ソニーが、かつてのような輝きを失ってしまった原因も、ここに起因する気もする。

あと、大企業病の本当の問題点も、そこで働く人々から、人間らしい共感力を奪っていくことにあるのかもしれない。

とにかく、AIが普及・発展していくと、もっと人間の感情を理解する必要がある。

人間らしさを取り戻す必要が出てくると言ってもいいのかもしれない。

人間がどのような行動をするのか?

今週あったニュースの中から、もう1つ、もっと人間の感情を理解する必要がある・・・ということを考えさせられる話題をご紹介しておこう。

テスラ・モーターズ(Tesla Motors)の半自動運転車(ベータ版)が、フロリダ州の一般道で走行中に、急に横から飛び出してきたトレーラー車に突っ込んで、「自動運転初の死亡事故」を起こしたというニュースだ。

7月1日、米国道路交通安全局(NHTSA)が公表したこの事故は、瞬く間に全米で報じられた。

たぶん、日本では、

「テスラって何? 新しいスイーツの名前?」

みたいな反応の方々もいるかもしれないが、現在、アメリカでは、この電気自動車に特化した2003年創業のベンチャー企業、テスラの動向は何かと大きな注目を集めている。

社会人なら、知っとかなきゃヤバイ会社の1つだろう。

このメルマガでは、先週までに、CEOのイーロン・マスク(Elon Musk)らが、10億ドルを拠出し、AI開発のための新たな組織、「オープンAI」(OpenAI)を設立したことや、思いっきり機械化、ロボット化、AI化の進んだフレモントの工場で、実質的な雇用を増やしていること
などご紹介してきた。

〔ご参考〕
テスラ・モーターズ

で、その「自動運転初の死亡事故」だが、人間が運転していれば、普通に避けられたのではないかという指摘が出ている。

事故にあったトレーラーの運転手の証言で、自動運転中のテスラ車に乗ってた運転手が、DVDを鑑賞してて、ちゃんと注意して乗っていなかった可能性があるというのだ。

〔ご参考〕
自動運転で死亡のテスラオーナー、DVD鑑賞中だった可能性。トラック運転手が証言。側面からの衝突検知も機能せず

テスラは、2015年10月14日に、Model Sのソフトウェア・バージョン7.0をリリース。このソフトには、初めて半自動運転モードが搭載され、運転手はハンドルに手を載せておけば、ほぼ自動で道路を走行することが可能になっていた。

しかし、この自動運転モードは、まだベータ版の扱いで、運転手はきちんとハンドルを握り前方を注視していなければならないのだが、どうやら、この運転手は、自動運転モードを過信し、日常的に車内でDVDを鑑賞していた疑いが出てきたというのである。

実は、現在、AI搭載の自動運転車の開発には、大きく分けると2つの流派がある。

2つの異なる考え方に基づいた開発が進められていると言ってもいい。

1つは、Googleの自動運転車に代表されるような、完全な自動運転車だ。

AIでは判断できない何か特別な状況になったとき、警告が表示され、人間に運転を任せるという仕組みを取り入れると、理論的には、その方が安全なように思われる。

しかし、人間はロボットじゃない。実際に試験運転を続けてみると、本職のテスト・ドライバーですら、自動運転を過信し、試験運転中にスマホをいじったり、注意を怠るようになり、急にAIに運転を代わってと言われても適切に対応できないということが分かってきた。

また、自動運転車で人間が運転を代わることになる場面は、AIでは判断できない複雑な状況ということになるので、人間だってミスするかもしれない。

要するに、この方式だと、事故が起こるリスクはさらに高くなるだろうから、完全な自動運転を目指すという考え方だ。

これについては、Googleが開発を進めているGoogle Car関係者が熱く語ってる報道が多々あり、また、Googleが自動車を作るということ自体、注目されているので、聞いたことがあるという方も多いだろう。

〔ご参考〕
Googleのロボットカーは日本の『カワイイ文化』を取り入れた?!

特に、有名なのが、Googleが先端技術の研究開発のために設立した「X」(以前は「グーグルX」と呼ばれていた)で、実現不可能と思われるような大胆な技術目標「ムーンショット」の研究グループを率いる「キャプテン」、アストロ・テラー(Astro Teller)氏だ。

今年2016年2月には、バンクーバーで行われたTEDの会議で講演し、自動運転車の「グーグル・カー」、荷物の自動運送を担う無人飛行機「プロジェクト・ウィング」、眼鏡型情報端末の「グーグル・グラス」などを含むムーンショット研究プロジェクトを紹介した。

そこで、テラー氏は、

我々は検討を始めてすぐに、完全自動運転以外には意味がないと気づいた

と断言し、今、アメリカでは大きな注目を集めている。

〔ご参考〕
The unexpected benefit of celebrating failure
中途半端では意味がない…Googleが「完全自動運転」にこだわる訳

もう1つの考え方は、

「いやいや、完全な自動運転の方がやっぱり危ないよ」

というもの。これについては別に説明不要だろう。

理想として完全な自動運転を掲げる気持ちはよく分かるけど、実際、この世の中に、1つもエラーを起こさない完璧なものなんてあるわけがないっていう考え方に基づいて、完全な自動運転ではなく、部分的に自動運転機能を取り入れていくという方針だ。

中心になってるのは、今や世界一の自動車メーカーとなった日本のトヨタ自動車

ちなみに、トヨタさんは、昨年2015年11月に、今後5年間、シリコン・バレーでのAIの研究開発のために10億ドルを拠出すると発表。その後も、なんやかんやとAI関連の話題が続いている。

〔ご参考〕
Here’s why Toyota is spending $1 billion on AI in Silicon Valley

Toyota Expands AI, Robotics Research to Third Facility

というわけで、現在、アメリカの自動運転車開発の世界では、「完全自動運転以外には意味がない」と「完全自動運転はやっぱり危ないよ」という2つの考え方(枠組み、問題の定義の仕方)が、真っ向から対立している図式

自動運転車以外でも、AI技術を導入するときに、どの程度までAIに任せるのかを考える必要はあって、その際、この2つの考え方や、その間のどこにするか、そのさじ加減が重要になってくるだろう。

また、この2つの考え方の対立をよくよく突き詰めて考えてみると、結局、要するに、人間がAI技術を使うとき『人間がどのような行動をするのか?』とか、さらに突っ込んで考えると、『そもそも人間とは?』といった話になってくる。

だからこそ、今後、AIが普及・発展していくと、私たちは、もっと人間の感情を理解する必要がある・・・、つまり、「共感力」とか、感受性などがますます重要になっていくだろう。

そっか、ということは、”The MFA is the New MBA“(MFAが新しいMBAだ)という近年の流れにも・・・・。

〔ご参考〕
創造力は知識よりも重要です

おぉー。これはちょっとすごいことになるかもしれない?

でも、大分、長くなってしまったので、今回は、このへんで。

image by: WikimediaCommons

 

メルマガ「ニューヨークの遊び方」』より一部抜粋

著者/りばてぃ
ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。読んでハッピーになれるポジティブな情報や、その他ブログで書けないとっておきの情報満載のメルマガは読み応え抜群。

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