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大塚家具・久美子社長に聞いた「過去最悪の赤字」でも前向きなワケ

昨年の騒動でにわかに注目を集めた大塚家具が先日発表した、2016年12月期の業績予想の大幅な下方修正。各メディアはセンセーショナルに取り上げましたが、そこからは肝心な大塚久美子社長の「生の声」は聞こえてきませんでした。そこでMAG2 NEWS編集部は、MBAホルダーの安部徹也さんとともに久美子社長へのインタビューを敢行。直接伺った「赤字に陥った理由とその受け止め方」、そして社長が描く「大塚家具の将来のビジョン」など貴重な発言内容が、安部さんの無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』で公開されています。

業績の大幅な下方修正を発表した大塚家具

大塚家具は、2016年12月期の業績予想の大幅な下方修正を発表しました。

2月の予想では売上高586億円、最終利益3.7億円を見込んでいましたが、今回の修正発表で売上高は47億円減少して539億円、最終利益は16.6億円の赤字に転落する見込みであることを明らかにしたのです。

リーマンショック後の消費の落ち込みで2009年に最終赤字として14.9億円を計上したことがありますが、今期、大塚家具はそれ以上の激震に見舞われることになります。

過去最悪の赤字の原因は何か?

この過去最悪の赤字を計上する大きな要因として、ビジネスモデルの転換によるオペレーションの混乱が挙げられます。

昨年大塚家具で経営権をめぐるプロキシーファイトが繰り広げられた結果、株主は新たな時代のビジネスモデルを提案する久美子社長を支持しました。この株主の期待を一身に受けた久美子社長は大塚家具の改革に着手。店舗リニューアルを始めとする既存店の改革や新たなポイントシステムであるIDCパートナーズを生かした顧客との長期的な関係構築、そして法人需要取り込み強化に向けた諸施策を次々と打ち出し実行に移してきました。そして、実際に2月には全店舗をリニューアルオープンし、商業立地にある路面店などでは来店客数が増加するなど、顕著な効果も見られました。

ただ、これまで大塚家具が行ってきた会員制の受付機能など旧オペレーション体制から大きく変化した顧客対応に従業員がまだ順応しきれておらず、増加した来店客に対して適切な販売ができる体制が整っておらず、来店客増を売上増につなげることができなかったのです。

今年度の決算が赤字でも問題ないワケ

今回の業績予想の下方修正を受け、大塚家具の経営を不安視する報道もありますが、財務分析を行う限りは、経営に関して当面大きな不安要素はないといえるでしょう。

前期末の段階で安全性の指標である自己資本比率は75.4%と非常に高い水準にあり、短期に返済しなければいけない流動負債88億円に対して、現金が110億円、流動資産に至っては293億円の残高があり、やはり安全性の指標である流動比率(流動資産÷流動負債×100:最低でも100%以上が安全の目安)を計算すると332%となり、短期的には経営が立ち行かなくなることはまず考えられないからです。

加えて、大塚家具は現状無借金経営であり、万が一の時は金融機関からかなりの規模の融資を引き出すことも難しいことではなく、財務体質は今のところ健全といっても過言ではないのです。

赤字は大塚家具が生まれ変わるための生みの苦しみ

さて、このような黒字予想から一転過去最悪の赤字に沈む大塚家具の今後について直接大塚久美子社長から伺う機会をいただきました。

大塚社長によれば、これまでも大塚家具の長い歴史において節目節目で赤字になったとのこと。

大塚家具は家具のディスカウンターとして創業しますが、時代の流れを見極めて前社長である勝久氏の時代に会員制に移行。このビジネスモデルの転換時に、当初は赤字に陥りますが、その後大塚家具は非常に高い利益率を生み出す会社に生まれ変わります

同じように今回の赤字も新たなビジネスモデルが浸透するまでの一つの過程であり、新生大塚家具が世の中に認められるまでの生みの苦しみを経験しているというわけです。

もし、新生大塚家具のビジョンが全社員やお客様に正確に伝わり、浸透するのなら、大塚家具は新たなステージへと進んでいくことになるでしょう。

今後大塚家具は何をすべきか?

現状、大塚家具は変わりゆく市場環境の中で、うまく適応し成長を軌道に乗せるために数々の新たなチャレンジに取り組んでいます。

たとえば、BtoBの強化策として企業向けには高級レストランを展開するひらまつと業務提携し、ひらまつが新たに推進するホテル事業のパートナーとして家具の提供を開始しました。また、7月末に開業するザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町の全客室とパブリックスペースの主な家具、小物、アクセサリーを大塚家具が納品。他にも地方百貨店や住宅メーカー、マンションディベロッパー、福利厚生を手掛ける企業との提携なども積極的に展開しています。

また、価格や価値に敏感なお客様に対しては、リユース事業を通してリーズナブルな価格で質の高い家具を提供することにも注力。昨年10月に「リンテリア」というリユース家具を取り扱う子会社を設立して事業に本腰を入れます。また、本体ではリユース品を取り扱う店舗も8店舗まで拡大し、好調な売り上げを背景に今後はさらに拡大していく予定です。このリユースの開始に伴って修理メンテナンス部門を強化するなど、顧客へのアフターサービスの充実も図っています。

他にも、様々な形でポイントが付与されるポイントシステム「IDCパートナーズ」を開始したり、それまでは70種類しかなかったネット店舗の品揃えを2,400種類にまで拡大したりと顧客満足度を高めていく施策も次々と実施しているのです。

ただ、一つ問題点があるとすれば、それはメディアの影響で消費者の抱くイメージと実際のビジネスに大きなギャップがあることでしょう。

「大塚家具=高級家具」というイメージを持つ消費者が多いかもしれませんが、実際に店舗に足を運んでみると、高級家具ばかりでなく、実にお値打ちな家具も数多く展示されていて、「大塚家具=コストパフォーマンスの高い家具」という実際の姿を伝えていかなければ、新生大塚家具の成功はありえないのです。

今後はメディア戦略をうまく活用して、大塚家具の真の姿を消費者に理解してもらえるかが一つの鍵となるでしょう。

「新生大塚家具」は1日にしてならず

今回の取材を終えて、大塚久美子社長の「大塚家具はニトリやIKEAのような方向を目指しているわけではない。大塚家具は家具の販売業ではなく、お客様の生活を豊かにする住生活ソリューションを提供する会社になりたい」という言葉が強く印象に残りました。

家具というモノを販売するのではなく、「『生活の豊かさ』というお客様のクオリティ・オブ・ライフを向上させるお手伝いをする」というコンセプトでビジネスを展開するためには、社員の意識改革を始め、大きな変化が求められます。

急激に変化することが難しいということを考えれば、その過程で様々な問題が発生することは事前に予想されていることであり、今回の赤字も想定内のことといっても過言ではないでしょう。ここで浮足立たずに、浮き彫りとなった問題を一つ一つ解決していけば、いずれは思い描いたビジョンを達成することができるはずです。

「ローマは1日にしてならず」という諺があるように、独自の道を行くという覚悟を決めた大塚家具もその実現には時間がかかり、今後も数々の試練が襲ってくることは間違いありません。

果たしてその試練を乗り越え、思い描いた新生大塚家具を実現することができるのか?

今後、大塚久美子社長の真価が問われることになります。

画像提供: 大塚家具

 

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テレビ東京『WBS』への出演など、マスメディアで活躍するMBAホルダー・安部徹也が、経営戦略やマーケティングなどビジネススクールで学ぶ最先端の理論を、わかり易く解説する無料のMBAメルマガ。
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