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閉店の嵐。なぜクリスピー・クリーム・ドーナツは日本に負けたのか?

本場アメリカのドーナツが食べられる店として日本に上陸した「クリスピー・クリーム・ドーナツ」ですが、一時の熱気はすでに冷め、店舗数は減少傾向にあります。上質なコンビニドーナツなども登場する中、同社が生き残るには何をすべきなのでしょうか。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが分析しています。

閉店の嵐「クリスピードーナツ」は再出発を図れるのか

クリスピー・クリーム・ドーナツ(以下、クリスピー)の横浜みなとみらい店が6月26日に、アリオ倉敷店が7月3日に閉店しました。

今春、クリスピーの閉店が相次ぎました。2015年11月時点では全国に64店舗を展開していましたが、16年7月4日時点では47店舗にまで激減しています。事業の見直しのための閉店としています。以前は行列ができるほどの人気がありましたが、今では光景は一変しています。

クリスピーは1937年7月に米国ノースカロライナ州で1号店がオープンし、地元の食料品店へのドーナツ販売を開始しました。その後、世界各地に出店していきました。日本では06年6月にロッテが70%を出資して会社を設立し、同年12月に東京・新宿サザンテラスに1号店を開業しました。

クリスピーは今年で創業79周年、日本上陸は10周年となります。本来であれば記念すべき年となるはずですが、どうやらそうもいかないようです。ドーナツ業界の雄「ミスタードーナツ」の存在や、「セブンイレブン」や「ローソン」、「ファミリーマート」などのコンビニ各社のドーナツ業界への参入により、クリスピーを取り巻く環境は厳しさを増しているからです。

勃発したドーナツ戦争

近年の「ドーナツ戦争」の中でクリスピーは生き残っていくことができるのでしょうか。参戦各社を比較してみます。

まずは「価格」です。主要価格帯は、クリスピーは税抜180~210円なのに対し、ミスドは120~140円、セブンは100~120円、ローソンは90~130円、ファミマは100~110円です。クリスピーの価格の高さが際立っています。気軽に購入できるとは言い難いといえます。

米国クリスピーのドーナツはスーパーなどでも販売されていて、価格帯は日本よりも低くなっています。日本のクリスピーは価格帯が高く、ドーナツとしては高級路線を歩んでいます。

味が甘すぎ??

次は「」です。味覚は個人の嗜好が強く影響するため、個人的な感想の側面が強くなってしまう事を前提として記します。クリスピーは1937年以来のオリジナルレシピからつくられたドーナツを基本とするため、アメリカ人の味覚に合わせたものになります。日本人には甘みが強すぎ大味に感じられます。

クリスピーに対し、ミスドやコンビニ各社のドーナツは日本人の味覚に合わせた味になっており、甘みは適度に抑えられ、繊細な味付けになっています。日本人の味覚に合った味を徹底的に研究してドーナツを開発しています。

クリスピーは口溶けの良さによる食感をアピールしていますが、この点においてはミスドも負けていません。同程度とみていいでしょう。

ドーナツの製造工程を確認します。コンビニ各社は店舗から離れた工場で製造したのちに店舗に配送しています。クリスピーは工場を併設している店舗と併設していない店舗が混在しています。コンビニ各社と比べれば、「できたて」のドーナツを提供できそうです。一方で、ミスドでは全店ではないものの、一店一店で店内調理を行っています。ミスドと比較した場合、できたてを提供するという点では優位性があるとはいえません

最後に「利便性」です。現在の店舗数は、ミスドが1,200店超、セブン・ローソン・ファミマの合計は4万店超です。しかし、クリスピーは47店に過ぎません。利便性という点においては競合に対してどうしても見劣りしてしまいます。

ドーナツだけを食べにわざわざ外食する人はどれだけいるのか

消費習慣として、ドーナツだけをメインに外食するという考え方が消費者に根付いていないこともクリスピーは不利といえます。これはクリスピーだけでなく、ミスドにも当てはまります。事実、ミスドの業績は下降傾向にあることからもわかります。

コンビニ各社の優位性は、コンビニコーヒーなどとの組み合わせ購買による「ついで買い持ち帰り需要に対応しているところにあります。ドーナツはあくまで脇役という位置付けです。もちろん、クリスピーでも持ち帰りはできますが、店舗数の少なさから気軽に持ち帰りできるとは言い難いといえます。クリスピーはあくまで外食産業という位置付けで考えるべきでしょう。

以上から考えると、クリスピーが生き残っていくためには「価格」と「利便性」で勝負することはできません。「で勝負しなければならないことがわかります。ドーナツを食べるためだけに労を惜しんででもクリスピーに足を運びたいと消費者が思うことができる強い誘引が必要です。

日本人の味覚に合わせるべき??

クリスピーはジレンマを抱えています。クリスピーの売りは「アメリカ発祥のオリジナルレシピによるドーナツ」にあります。しかし、その売りが日本人に受け入れられているとはいえません。一方で、日本人の味覚にあったドーナツの開発は根幹を揺るがすことにつながります。安易に日本人の味覚に合ったドーナツを販売できないというジレンマがあります。

クリスピーはこのジレンマを解消し、新機軸を打ち出すことができるのでしょうか。事業を立て直して再出発を図るためには、何よりも先にドーナツの「味」の立て直しが必要といえそうです。

 

店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業
著者/佐藤昌司
東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。
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