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中国を激怒させた安倍総理、南シナ海判決での「挑発」は正解なのか?

先日掲載の記事「南シナ海裁定で完敗した中国、世界の『判決を支持』反応に逆ギレ」でもお伝えしたように、南シナ海の一件を巡り中国と周辺各国の間に暗雲が垂れ込めています。さらに追い打ちをかけるように先日開催されたASEMでは、安倍総理が中国を挑発。これについて、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、どのように見ているのでしょうか?

安倍総理、ASEMで中国を挑発し、激怒させる

中国の挑発が激化しています。比較的最近の例をあげれば、

やられっぱなしの日本ですが、最近よいニュースが入ってきました。そう、仲裁裁判所が、「南シナ海における中国の主張完全否定」したのです。

CNN.co.jp7月13日付から。

中国は、海南島の南方から東方にかけて、南シナ海の9割を囲い込む「九段線」という境界線を設定し、資源採掘や人工島造成を行う権利の根拠としている。仲裁裁はこの権利を認めない立場を示した。

 

仲裁裁はまた、中国が人工島から200カイリまでを排他的経済水域(EEZ)としてきた主張に対し、人工島はEEZ設定の根拠にはならないと判断した。

 

さらに、中国は人工島周辺で自然環境を破壊しているとの見方を示した。

さて、安倍総理は15日、モンゴルで開かれたアジア欧州会議ASEM)に出席しました。そこで、仲裁裁判所の判断を使って、「逆襲」を試みます(ASEMは、20年前の1996年に、第1回会議が開かれました。49か国+2機関=アセアン事務局、欧州委員会が参加する巨大会議です)。

安倍総理、中国を激怒させる

安倍総理は、15日のASEM首脳会議で、仲裁裁判所の判決を無視する中国を批判しました。

安倍首相、中国に判決順守促す=ASEM首脳会議で

時事通信7月16日(土)11時6分配信

 

【ウランバートル時事】安倍晋三首相は16日、モンゴル・ウランバートルで開かれているアジア欧州会議(ASEM)首脳会議で、南シナ海問題をめぐる仲裁裁判の判決について、「最終的なものであり、紛争当事国を法的に拘束する」と述べ、中国に順守を求めた。

 

首相は、この問題が「国際社会共通の懸念事項」であると指摘すると同時に、「法の支配は国際社会が堅持していかなければならない普遍的原則だ」と強調。「当事国が(仲裁裁判所の)判断に従うことで、南シナ海での紛争の平和的解決につながることを強く期待する」と述べ、判決の受け入れを拒否している中国に軟化を促した。

仲裁裁判所の判決を守りましょう!」ということですね。こういう議論だと、チャイナマネーが欲しく、中国と争いたくない国々でも、反対できません。安倍総理の主張は、議長声明にも盛り込まれることになりました。

「法に基づく解決重要」 ASEM声明、南シナ海念頭

朝日新聞デジタル7月16日(土)13時50分配信

 

モンゴルで開かれていたアジア欧州会議(ASEM)首脳会合は16日、海洋の安全保障について「国連海洋法条約など国際法に基づく紛争解決が重要」とする議長声明を採択し、閉幕した。声明は首脳らが「航行や上空飛行の自由を確保することを確認した」としている。名指しは避けながらも、南シナ海での中国の領有権の主張を否定した常設仲裁裁判所の判決の尊重を促したとみられる。

ちなみに安倍総理は、李克強さんにも、面と向かって「あんた裁判所の判断に従いなさいよ!」と言いました。

<首相会談>安倍氏「判定受け入れを」 中国は不快感

毎日新聞7月15日(金)21時43分配信

 

【ウランバートル田所柳子、西岡省二】安倍晋三首相は15日、中国の李克強首相とモンゴルの首都ウランバートルで会談した。

 

南シナ海問題を巡る仲裁裁判所の判決を受け、安倍首相は「法の支配と紛争の平和的解決が重要だ」とする日本の立場を伝えるとともに、判決を受け入れるよう求めた。

 

中国外務省によると、李首相は南シナ海問題について「中国側の立場は完全に国際法に符合している。日本は当事国ではなく、言行を慎み、問題を騒ぎ立てたり、干渉したりすべきでない」と強い不快感を表明した。

李克強さん、安倍さんに「大国のメンツ」をつぶされ、激怒しました。

ポイントは、「私」か「私たち」か?

私は常々、「日本は、アメリカ以上に中国を挑発すべきではない」と書いています(アメリカは、しばしば梯子を外す。例:ロシアバッシングの駒として使われたジョージアやウクライナ。サウジアラビア、イスラエルも捨てられた)。

今回安倍総理は、ASEMという国際舞台で、堂々と中国を挑発」しました。私は挑発をお勧めしませんが、挑発の「仕方」はよかったと思います。

なぜでしょうか? 安倍総理の論理が、真っ当で正義だからです。総理の主張は、国際司法機関である「仲裁裁判所の判断を重視しましょう」ということです。この論理に反対できる人は、誰もいません。

一方、中国の主張は何でしょうか?そう、「南シナ海は、誰が何と言おうと『私』(=中国)のものです。国際司法機関がどんな判決を出しても、知ったこっちゃありません!」。

安倍総理と中国の主張、どっちが正しいか、一目瞭然でしょう。安倍総理の主張は、「私たち」であり、中国の主張は」です。皆さんの会社でもそうでしょう? ある人が、自分勝手な主張をし、会社全体を敵にまわした。その人が勝利したことありますか?

日本もかつて、今の中国と同じ間違いを犯しました。そう、「満州国は私(日本)だけのものです!国際連盟加盟国が全部反対しても、関係ありません!」。確かに、満州は、しばらく日本だけのものでした(いろんな民族の人が移り住み、経済発展もしたが、実権は日本人が握っていた)。しかし、長くなかったですね。

日本と中国、どっちが有利?

仲裁裁判所で勝利したフィリピンや、東南アジア諸国、欧州があまり「反中」で盛り上がらない。それで、「孤立しているのは逆に日本だ!」という人がいます。

しかし、「南シナ海は全部俺のものだ!」と主張する中国、「仲裁裁判所の判決を尊重しましょう」と主張する日本。これで日本が孤立するはずはありません。盛り上がりがイマイチなのは、「距離」の問題です。

距離」とは何でしょうか? 欧州は南シナ海から遠いので正直どっちでもいいのです。日本だって、「遠い」ウクライナとかシリアとか、正直関心ないでしょう? だから、メルケルさんが、眠そうにしていても仕方ありません。

アジア諸国は、第1に中国が怖いし、第2にチャイナマネーが欲しい。だから盛り上がりにかけても仕方ありません。それでも大切なのは、誰にも反論できない、「私」ではなく「私たち」(国際社会の利益になる主張を続けることです。

「日本は、仲裁裁判所の判決を尊重するように主張しているから、『制裁しよう!』」とは決してなりません。人間社会でも、国際社会でも、同じですね。「エゴで突き進むと潰される」。日本も気を付けたいものです。

image by: 首相官邸

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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