南シナ海を巡ってフィリピンが申し立てた裁判で、仲裁裁判所は「中国側が主張する歴史的な権利には法的根拠が無い」とし、中国の管轄権が全面的に否定されました。この結果に中国は激怒。今後も裁判所の判断には従わないとしていますが、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、この強硬な姿勢がますます中国を孤立化させると論じています。
南シナ海仲裁判断、中国、情報戦・法律戦で完敗
おそらく、日本でも大きく報道されていることでしょう。常設仲裁裁判所(PCA)が、南シナ海をめぐる中国の主張には「法的根拠がない」と判断しました。今回は、この問題について考えてみましょう。
なぜフィリピンは、仲裁裁判所に提訴したのか?
複雑な話ですので、基本を抑えておきましょう。ロイター7月12日付が詳しいです。まず背景として、資源が豊富で、重要な航路である南シナ海には、多くの領有権問題が存在しています。
重要な国際海上交通路にまたがる南沙(英語名スプラトリー)諸島を中心に、南シナ海は長い間、緊張状態にあり、近年はその度合いが一段と高まっている。
中国、台湾、ベトナム、マレーシア、ブルネイが、スプラトリー諸島とその周辺海域、あるいは周辺海域の領有権を主張している。
中国、台湾、ベトナムは、南シナ海北方の西沙(同パラセル)諸島を自国の領土だと主張している。
(ロイター7月12日付)
「近年になって緊張状態が高まっている」といいますが、その唯一の理由は、中国です。中国は、南シナ海のいわゆる「九段線」を主張しています。九段線は、もともと中国共産党の前に中国を支配していた中国国民党が1947年、「11段線」として発表したものがもとになっています(国民党は、共産党との戦いに敗れ、台湾に逃げた)。
しかし、当時の中国は、自国の統一すらされていない状態。もちろん、南シナ海も支配していなかった。要するに、この「11段線」というのは、法的根拠に基づくわけではなく、将来「支配できたらいいなあ」という「夢」や「願望」の類だった。世界的戦略家ルトワックさんは、この「11段線」について、「酒を飲んで酔っ払った勢いでこのようなものをでっち上げた」と断言しています(『中国4.0』p37)。
1953年、既に国民党を打ち破り、中華人民共和国を建国していた共産党は、国民党の11段線から二つ抜いて「九段線」としました。これも、たんなる「願望」であって、なんら法的根拠があるわけではありません。日本の尖閣同様、中国が弱いうちは、あまり問題になりませんでした。
しかし、中国は2010年に世界2位の経済大国になり、自国の利益を遠慮なく主張するようになった。南シナ海の他の国々は、中国と比べれば皆小国。かなうわけがない。そこでベトナムと共にもっとも中国の脅威を感じているフィリピンは2013年、仲裁裁判所に提訴したのです。
フィリピンは2013年、中国の主張が国連海洋法条約(UNCLOS)に違反し、同条約で認められた200カイリの排他的経済水域(EEZ)に含まれる南シナ海で開発を行う自国の権利が制限されているとして、仲裁裁判所に提訴した。
(同上)
仲裁裁判所ってなんでしょう?
1899年に設立された常設仲裁裁判所(PCA)は、最も歴史ある国際司法機関。PCAは、中国とフィリピンが署名するUNCLOSのような国際条約の下で紛争を解決することがしばしば求められる。
(同上)
では、国連海洋法条約(UNCLOS)とはなんでしょうか?
UNCLOSは主権に関する問題は扱わないが、海上における行動のみならず、さまざまな地理的特徴から国が主張できることを規定している。
同条約は島嶼(しょ)や岩礁から12カイリを領海とし、ヒトが持続して居住可能な島から200カイリをEEZと定めている。EEZは主権のある領海ではないが、同水域内において漁業や、石油、ガスなどの海底資源を採取する権利は与えられる。
中国とフィリピンを含む167カ国がUNCLOSに署名している。
(同上)
最後の部分。中国はUNCLOSに加盟しているのですね。とても重要です。