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相模原事件で浮き彫りになった「緊急措置入院」という制度の問題点

障害者施設「津久井やまゆり園」で起こった痛ましい大量殺人事件。動機や背景などの真相究明はまだ途上ですが、植松聖容疑者は今年2月、緊急措置入院となっていたことが明らかになっています。そもそもこの「緊急措置入院制度」とはどのようなものなのでしょうか。無料メルマガ『知らなきゃ損する面白法律講座』で、現役弁護士が詳しく解説しています。

緊急措置入院とはどんな制度?

7月26日午前2時半頃、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」に刃物を持った男が侵入し、多数の入所者らが刺されるという恐ろしい事件が発生しました。これまでに19人が死亡、26人が負傷したと報道されており、戦後最悪の事件とも言われています。被疑者については、身柄を横浜地検に送られ、被疑者が障害者に対して殺意を抱くに至ったいきさつなどについて、詳しく調査が行われている模様です。

被疑者は、事件が起こった施設の元職員で、今年の2月に精神保健福祉法に基づいて緊急措置入院となった経緯があります。この被疑者の措置入院が適切であったかどうかについても現在も調査が進められているところですが、政府は、再発防止に向けて措置入院の制度や運用が適切であったか再検証を行い、必要な対策を検討すると発表しています。今回は、精神福祉法及び「措置入院」について見てみたいと思います。

精神保健福祉法とは、正式な法律名を「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」と言い、精神保健と精神障害者福祉について規定した法律です。昭和25年制定当時は「精神衛生法」という名称でしたが、何回かの改正を経て、平成7年に現在の名称となりました。法の目的も、「自立の社会参加の促進のための援助」という福祉の要素を位置づけて、従来の保険医療施策に加えて、精神障害者のための福祉施策の充実も法律上の位置づけが強化されることになりました。

精神保健福祉法の対象とする精神障害者は、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者と定められています(法5条)。法は、都道府県に対して、精神障害に関する相談や知識の普及を行う精神保健センターを設置することを義務付け(法6条)、また精神科病院の設置も義務付けています(法19条の7)。

精神障害者の入院形態として、自分の意志による入院である「任意入院」(法21条)、警察官等からの通報や届出によって都道府県知事が精神保健指定医に診察をさせ、自傷他害のおそれがあると認めた場合に行う「措置入院」(29条)、急速を要し、措置入院に係る手続を採ることができない場合に行う「緊急措置入院」(29条の2)という形態を定めています。今回被疑者に対して行われたのがこの緊急措置入院です。

一旦措置入院が成立すると入院措置の解除があるまでは退院することができません。なお、措置入院、緊急措置入院の入院に要する費用については、都道府県が負担することになっています(法30条)。これらの制度については、現在も検討が進められており、改善すべき点などについても盛んに議論が行われています。

措置入院の課題について挙げられているものとしては、退院後の訪問指導や社会復帰・社会生活支援について不十分ではないかといったものが挙げられます。措置入院患者の人権の問題についても考えなければならない問題があると言われています。

恐ろしい事件からは目をそむけがちですが、事件が再度起きないようにするためにも、私たち一人一人が事件の背景に目を向け、わたしたちを取り巻く制度についても知識を深めておくことが必要ではないかと思います。

image by: Shutterstock

 

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