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新聞各紙は、陛下の「深い反省」をどのように理解したか?

去る8月15日、71回目となる終戦の日に、政府主催の「全国戦没者追悼式」が例年通り日本武道館にて行われ、天皇陛下は「お言葉」の中で2年続けて「深い反省」について言及しました。その一方で、安倍晋三首相は「不戦の決意」を表明したものの、4年連続でアジア諸国への「加害と反省」については一言も触れませんでした。追悼式から一夜明け、主要新聞4紙はそれぞれ「天皇陛下の“深い反省”というお言葉」をどのように伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが、自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』で詳細に比較、分析しています。

各紙は、陛下の「お言葉」中、“深い反省”をどのように理解したか

【ラインナップ】

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「加害言及なし 安倍カラー定着」
《読売》…「五輪 綱渡りの運営」
《毎日》…「終戦71年 語り出す」
《東京》…「戦後71年「平和」強く願い」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「対話見据え 配慮見え隠れ」
《読売》…「近隣外交 配慮の夏」
《毎日》…「政策頼み鮮明」(GDP伸び縮小)
《東京》…「象徴行為の中心行事」

ハドル

やはり、昨日の陛下と総理の“対照”が各紙の中で大きなテーマになっているのが分かります。他方、《読売》のように、そこには直接目を向けず、片や「五輪」に読者の目を向けさせ、片や「近隣外交」に配慮する安倍政権を持ち上げたりしている新聞もある。「五輪」も「近隣外交」も大きな問題ですが、各紙、重み付けが微妙に異なっているようです。

というわけで、きょうは天皇の「お言葉」のなか、特に「深い反省」を巡って、各紙が何を書いているか、この点を中心に見ていきましょう。

今日のテーマは…

各紙は、陛下の「お言葉」中、“深い反省”をどのように理解したか、です。

中韓に示した「深い反省」

【朝日】の「終戦記念日」関連の記事は、まず、1面トップ安倍総理が式辞でアジア諸国への加害と反省に触れなかったことを伝える。関連で2面の解説記事「時時刻刻」は、日中韓それぞれの政治的な「配慮」について書き、3面に天皇陛下「お言葉」の内容についての分析記事と全文、31面には特攻隊員を決める役を担った海軍大尉の話など。

3面記事の見出しは以下の通り。

陛下、戦没者へ強い思い

追悼式おことば 再び「深い反省」

uttiiの眼

《朝日》は、天皇陛下が「昨年の戦没者追悼式で新しく用いた「深い反省」の表現を再び選び、改めて戦没者への強い思いを明かした」としている。「深い反省」という表現は、もともと92年の中国での歓迎晩餐会と、94年に韓国大統領を迎えたときの宮中晩餐会で用いられた表現。昨年の全国戦没者追悼式の「お言葉」には70周年ということもあり、様々な新しい表現が入ったが、今年はそのなかで「深い反省」が残った、というのが《朝日》の理解。

随分遠回しな言い方になってしまうのだなあという感想を抱いた。中国と韓国に向けた挨拶の中で使った「深い反省」が、総理大臣ら政治家が示してきた「侵略と植民地支配」に対する「お詫び」や「反省」に対応するものであることは、《朝日》の説明からも明らかで、その表現をわざわざ使う意味は、これ以上ないほどにクリアーだと思う。

昨年の追悼式の前日に発表された安倍氏の「70年談話」には、「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」との文言が入っていた。翌日、天皇の「お言葉」に「さきの大戦に対する深い反省」が入っていた。

思いを致しているか?

【読売】の「終戦記念日」関連記事は、まず、1面左肩に追悼式についての記事、2面に韓国の朴大統領の光復節演説についての記事と閣僚の靖国参拝についての記事、3面の解説記事「スキャナー」は近隣外交という観点からの記事及び社説、6面は特別面で、「父の戦争 母の終戦」の第九回、精神科医師で小説家の帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)さんへのインタビュー。憲兵だった父についての壮絶な話。読むべき記事。32面社会面には、引き上げの悲惨さと苦労についての記事。

uttiiの眼

《読売》も、陛下が「深く反省」という言葉を昨年に続けて「お言葉」に盛り込んだことを伝えている。ただし、記事の中に、それ以上の説明は無い。では、標題が「深い反省と不戦の誓い新たに」となっている社説の方はどうか。てっきり、この「深い反省」がテーマかと思いきや、「「深い反省」は、戦後70年の昨年のお言葉に続いて、用いられた。先の大戦に対する陛下のお気持ちに思いを致したい」と書いているだけ。その後は先日のビデオメッセージと象徴天皇の務め、特に慰霊の旅について記し、御製に触れ、なぜか昭和天皇の軌跡、遺族の高齢化と「惨禍」の記憶の伝承云々でマス目を埋め、お仕舞いにしている。

ところで、社説の最後には気になる表現があった。

そこには「戦後日本の繁栄は、多大な犠牲の上に成り立つ。その事実を再認識するためにも、惨禍の記憶を後世に伝えていくことが、ますます大切になっている」と書かれている。だが、戦争の犠牲の上に繁栄があるという認識を、今上陛下は表明していない。即位直後に、それに近い表現をしたことは一度だけあったように思うが、それ以降は「犠牲があったから今の繁栄がある」と受け取られるようなロジックは使っておられないと思われる。戦後の繁栄については、「終戦以来すでに71年、国民のたゆみない努力により、今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられました」とし、戦陣に散り戦果に斃れた人々に対しては、「心から追悼の意を表」す。これが一貫した、天皇のお言葉に流れるロジック。

戦死者を顕彰、つまり「よく頑張った」と誉め称え、感謝し、英霊として祭り上げるのは、「靖国神社のロジック」であって、天皇のロジックではない。天皇の言葉についての文章の中に、そのようなものを混ぜ込むのは、メディアの姿勢として、正しくない。ついでに言えば、その表現が意味していることは、間違っても「事実」ではない。

戦争の、何を伝えるか

【毎日】の場合は、まず1面トップで、戦争体験を伝えなければとの焦燥感から、新たに活動を始めた人々の話を伝えている。その下に、昨日の追悼式についての短い記事。ここで、陛下のおことばと総理の式辞についても簡単に言及。2面には、光復節での韓国朴大統領演説について書いた記事。5面は閣僚などの靖国参拝を巡る記事、29面には「列島包む平和の願い」と題した終戦記念日についての記事。武道館、広島・長崎、戦没者墓苑での取材、さらに、真珠湾攻撃にも参加した94歳の元海軍兵士への取材。瀧本邦慶さんは、国が国民に嘘をつき続けていたことなどを戦争体験者として証言してきたが、最近、学校などから依頼されていた講演が突然キャンセルされるようになったという。特定秘密保護法や安保法ができ、再び戦争に向かって「時代の空気」が変わってきたように感じていると。

uttiiの眼

1面の短い記事の中で、「おことばには、戦後70年の2015年に「さきの大戦に対する深い反省」との文言が初めて使われた」とし、一方、安倍総理は「歴代首相が言及したアジア諸国への加害責任や謝罪には4年連続で触れなかった」と書いているのみ。それ以上の分析なども一切ない。今朝の《毎日》は、この問題に関心を示していない

逆に、《毎日》が関心を集中させているのは、戦争体験の継承ということ。1面の記事は東京大空襲の体験者による伝承の話、社会面は、証言活動を続けてきたが、時代の雰囲気が変わり、「事実も言えない世になりつつある」と感じている、もと海軍兵の話。

ここで伝えるべきだと考えられているのは、《読売》が言うような、一般的な悲惨さや苦難の経験ではなく、事実を隠し情報と食料を管理して国民を戦争に動員していこうとする国家政府への警戒心だ。また、かつてと同じようなことにならないために、国家、政府を監視しなければならないからこそ、何が起きたかを知るものが、その経験を伝えようとしている、ということだ。《読売》と《毎日》の間には決定的な差があると言わなければならない。

言外に政権に対する警告まで

【東京】は、1面トップで、追悼式での天皇の「お言葉」を詳細に報じている。2面には高市、丸川の2閣僚が靖国神社を参拝したことについての記事、3面の解説記事「核心」は、戦没者追悼式と天皇陛下に関する詳しい記事。陛下は自ら、パソコンで推敲を重ねているという興味深い内容。24面25面の「こちら特報部」は、昨日の靖国神社のルポ。そして26面と27面には、天皇の「深い反省」を識者、遺族、式典参加者らはどう聞いたかなど。

uttiiの眼

3面の「核心」には、「昭和天皇から平和への思いを引き継いだ陛下にとって、戦没者追悼式は象徴天皇としての行為の中心にある」と書かれている。生前退位の意向が表明された今、重要な指摘だと思う。

その大切な追悼式については、厚労省の社会・援護局が「宮内庁を通じて、毎年、天皇、皇后陛下にお出ましをお願いしている」のだそうだ。また元側近によれば、陛下はお言葉を自らパソコンで書いているそうで、宮内庁関係者は、「完成原稿まで推敲を重ねられる。お疲れになるはず」と話しているという。

これで、毎年似た内容だが微妙に違うことの理由がハッキリした。また、昨年の戦後70年、今年の71年に、「さきの大戦に対する深
い反省」という言葉が入ったことは、まさしく、天皇による「推敲」の結果だったということになるだろう。

社会面。識者が「深い反省」をどう聞いたか。

ノンフィクション作家の保阪正康さんは、2014年までの「歴史を顧み」が「過去を顧み」と変わったことにも注目。過去は現在・未来とセットの比較的新しい歴史のこと、つまり、「深い反省」の対象は、昭和の戦争を指していることが明らかだと指摘。神戸女学院大学の河西秀哉准教授は、「深い反省」に日本の加害責任を含めて過去を忘れてはならないという陛下の思いを感じるという。国民だけでなく次世代の皇族にも語り掛けているのではないかと。また、漫画家のやくみつるさんは、「今年のお言葉にはそれほどメッセージ性はなかったが、天皇と首相では平和希求の在り方が違う。言葉は穏やかだが言外に政権に対する警告があるのではないか」と。

保阪さん、河西さん、やくさんの読み方は三者三様だが、「深い反省」の対象となっているものについての考えは基本的に同じだと思われる。素直に聞けば、どなたでも、答えは同じになるだろう。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

天皇のお言葉に対する《読売》の「知らん顔」ぶりが際立った8月16日の紙面でした。テレビの世界は基本的に「リオ五輪漬け」でしょうから、秋風が吹く頃にならなければ論点は定まっていかないのかも知れません。

image by: Wikimedia Commons

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/8/16号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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