2013年に施行された「いじめ防止対策推進法」。導入から3年が経過しましたが、いまだにいじめを苦に自らの命を落とす子供たちが後を絶たず、ここに来て法案を見直しする方向での検討が進められています。無料メルマガ『いじめから子供を守ろう!ネットワーク』では、その会議の内容を紹介するとともに、文部科学省は「逃げる教師」への処置を考えるべきだと指摘しています。
いじめ防止対策推進法 改正か?
今、いじめ防止対策推進法(以下「いじめ防止法」)の見直しが検討されています。2013年9月にいじめ防止法が施行されて3年、しかし、いまだに、いじめを苦にした自殺は続いています。いじめ防止法では、施行後3年をめどに、施行状況等を検討し、法改正も含めて必要な措置をすると規定されています。
実際に「いじめ防止法」を改正するかどうかは国会議員が判断しますが、文部科学省においても、教育関係者や大学教授、医師、弁護士等を委員とする「いじめ防止対策協議会」の中で検討が進められています。
今年度は、すでに、6月30日と8月22日に、同協議会が開催されました。6月の会議では、「いじめの定義」の解釈について検討されました。いじめ防止法における、いじめの定義は、「一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」とされています。
当日の配布資料によると、今年3月~6月に行われたヒアリングでは、
「定義が広いため、解釈の仕方が教師によって異なっている」
「いじめの定義どおりに認知を行えば、小学校の低学年では、毎日1クラスで10件以上のいじめが発生していると言える」
などの意見が報告されています。委員の中からは、教員のいじめに対する捉え方に個人差があるとして「教員研修の充実」を求める意見が出された、とも報道されています。文科省としては、いじめの定義を明確化させるため、いじめ防止法に基づく基本方針の変更などを検討すると言います。
現在の「いじめの定義」には、たとえ、本人が「いじめられていない」とか、「つらくない」と言ったとしても、「客観的にみて、いじめと言えるものは『いじめ』なんだ」という視点が、不足していると思っています。いじめ相談の中には、「本人がいじめられていないと言っているので、いじめではありません」と、いじめの訴えを受け付けない教師がいるのです。しかしながら、現在の定義は、「被害者を守る」、「被害者の側に立つ」という観点から見ても充分にその機能を果たしていると言えます。いじめの定義の問題ではありません。「それぞれの教師が、自分の都合の良いようにいじめを解釈している」という現実があるというだけのことです。
付け加えれば、すでに、文科省は、毎年実施しているいじめ認知件数の調査結果の中で、「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」「軽くぶつかられたり、遊ぶふりをして叩かれたり、蹴られたりする」等、「いじめ」と認めるべき行為を極めて明確かつ具体的に提示しています。学校では、年に何回も生徒からアンケートもとっています。まずは、その結果を学校がストレートに正直に報告することが重要です。
ところが、言い訳にしか過ぎないような回答が出ています。「いじめには、行為に至るまでの人間関係や背景が必ず存在するはずである」とか、「子供の成長にとって、人と人のぶつかり合いや葛藤等も必要である」とか、こんな理由で、「これはいじめではない」として、いじめから逃げることを正当化しようとしている教師がいます。これでは、どのような施策を行おうとも効果が出るはずはありません。文科省は、教師としての姿勢、責任の明確化を第一優先で考えていただきたいと思います。必要なのは「教師への道徳教育」です。
教育新聞などによりますと、8月の会議では、いじめ問題に対する「組織的な対応」や、「いじめ防止基本方針の浸透状況」などについて議論されています。いじめ防止法は、いじめに対して組織的な対応をするために、学校にいじめ対策組織を常設することを義務づけています(同法22条)。現場からは、
「いじめは指導力不足で発生するという一般的な考えがあって、特に責任感の強い真面目な教師がその考えに陥りやすく、いじめを一人で抱え込む」
「いじめの定義に該当するものをすべて学校のいじめ対策組織に報告すると、生徒指導担当者の負担が膨大になる。授業を担当せず、生徒指導を専任する教師が配置されれば対応は可能かもしれない」
「小学校でいじめ対策の体制が弱いのは担任制であることが一つの要因である」
等の意見がありました。また、委員からは、「文科省は、いじめはどの学校でも『起こり得る』としているが、どの学校でも『起きている』との認識を持つべきで、その点について見直してもらう必要がある」などの意見もあったと報道されています。
これを受けて、教師のいじめの抱え込みを防ぐためには、
- いじめは教員の指導力不足で発生するとの考えの払拭
- 生徒指導を専任で担当する教員の配置
- 管理職や教委らによる「指導力不足ではない」との声かけ
などが提案されたとのことです。結局、「教師の指導力不足」と言われるのはいやだということでしょう。「いじめが起きるのは教員の責任ではない」というお墨付きをもらいたいと言っているように聞こえます。恥ずかしい限りです。
いじめの解決能力も指導力のひとつですし、日頃の指導力によっていじめの発生件数が左右されることはまぎれもない事実です。私たちの所に助けを求めて来られる内容を見れば、指導力のない先生によっていじめが解決されずに、不登校になったり、指導力のない先生のクラスが荒れて、いじめが次々に起こるという相談がほとんどです。安心して学ぶことのできる学校にすることは、教師の責任です。当然のことです。そこから逃げるのであれば、「先生」ではありません。
文科省には、「逃げる教師」を「責任を取る教師」に育てるというところを真剣に考えて欲しいものです。「いじめ」が減らせるかどうかは「教員の熱意をどのように喚起できるか」というところに尽きます。
なお、超党派の国会議員の方々においても、学校がいじめを把握した場合には「保護者や教育委員会へ報告することを義務化する」ことを検討していると報道されています。
「教師の熱意が大事だ」と述べましたが、この点を補完するためにも「いじめ防止法」の中に、いじめの隠蔽、黙認、いじめへの加担や助長した教師に対する処罰規定が必要です。「逃げる教師」を減らし、「熱意ある教師」を評価することで、「いじめの抑止効果」が期待できます。
私たちは、教師と保護者、大人たちが力を合わせて、いじめのない学校をつくるために運動を展開しております。いじめ相談も承っております。ぜひ、ご遠慮なくご相談下さい。
いじめから子供を守ろう ネットワーク
井澤・松井
image by: Shutterstock
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