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安保法案、先にオバマに約束したのは「国会軽視」にならないの?

様々な批判もある中、先日衆院を通過した安保法案。安倍首相が言うように、それは日本の国益にかなうものなのでしょうか。そもそも国内での合意形成の前にオバマ氏に「夏までに通す」と約束したことは、国会軽視につながるのでは? これらの疑問について、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の中で作家の冷泉彰彦さんがで詳しく解説しています。

安保法制、先にオバマ氏に成立を約束したのは順序がおかしいのでは?

Question

衆議院特別委員会で安保関連法案が自民党の単独で可決されました。この件に関しては、やはり疑問が2点あります。

1つは、国会で論議する前に、オバマ大統領との首脳会談で、今夏までの法案成立を約束してしまったこと。これだけ国論が分裂した問題に関しては、日本国内での合意形成が先で、それを後回しにして対外公約をしてしまうことは、立法府の軽視といわれても仕方がないし、全く順序が逆だと思います。

もう1つは、アメリカの政策決定、とくに軍事的な意志決定には、ある種の危うさがあって、現状でアメリカと安全保障上の連携を強化することは、必ずしも日本にとってプラスにならないと思われることです。

それを強く感じたのは、イラク戦争にほかなりません。9.11事件の後、ビン・ラディンらイスラム原理主義勢力と十把一絡げにサダム・フセインのイラクに戦争を仕掛けたことは、アメリカ政府は本来、水と油ほど違うイスラム原理主義とイスラム世俗主義の区別もつかないのかと、私はたいへん驚きました。

案の定、サダム・フセインのもとで、それなりの安定を保っていたイラクは無政府状態になり、中東から北アフリカまで、収拾が付かない混乱状態を招いてしまいました。

アメリカ社会にある、ある種の自己復元能力には深い敬意を抱いていますが、イラク戦争は一種の集団的ヒステリー状態の中で、冷静さを欠いた無謀で無意味な戦争だったと思っています。

中国との緊張関係を集団的自衛権を認める理由に挙げる人もいますが、今の中国は毛沢東時代の何をやらかすかわからない不気味な存在ではなく、基本的に経済原理で動く国家です。小規模な偶発的武力衝突の可能性はないとは言えませんが、互いに国家としての存亡をかけるような全面戦争は考えられません。いたずらに緊張を煽るような政策は逆効果だと思いますがいかがでしょうか。

>>次ページ 冷泉さんの回答は?

冷泉彰彦さんの回答

まず後半のご指摘に関しては、正にその通りだと思います。イラク戦争が「911テロと無関係」「イラクを混乱に陥れるだけ」「そもそも大量破壊兵器はなかった」という「誤った政策」であっただけでなく、アフガン戦争も「タリバンを敵視する根拠は希薄(現在は交渉相手にしている)」「ゲリラ戦で敗北」「報復的な色彩の強い違法な戦争」として、「間違った戦争」だということでは、イラク戦争と同等という見方もできます。

ですから、独立国である日本としては、そのようなアメリカの行動に関しては是々非々で臨むべきでしょう。例えばイラク戦争に関しては、フランスは参加しませんでしたし、スペインも途中で引き上げています。では、西側陣営の結束が崩れたかといえば、決してそんなことはないわけです。

むしろ、歴代の自民党政権が行ってきた「大義なき戦争」「日本とは無関係の戦争」であっても、アメリカの戦争を支持して、その支援を行うことは「安全保障上の貯金となる」という、国の根幹に関わる「取引の発想」は問題であると思います。

特に安倍政権に関してはどうしても「その安全保障上の貯金をして」おけば、歴史認識での「修正主義も国際的には人畜無害だと目をつぶってもらえる」という「甘い発想」があるようで、私は大変に気になります。それは、大変に危険なゲームなのだということです。

また中国に関しては、正にご指摘の通りだと思います。空母がどうのとか、空母打撃群がというような話も流れてきますが、こうした話はあくまで中国の軍部と政権が「心理戦」として流しているだけであって、日中関係の「実体」というのは、巨大な「ヒト、モノ、カネ」の流れであり、その流れは両国にとって国家存立の前提になっていることは疑い得ないと思います。

ところで、最初にご指摘のあった「最初に相手国に約束するのは国会軽視」というお話ですが、こちらは少し整理してお話しておきたいと思います。というのは、今回の米国が参加しているイラン核合意もそうですが、外交交渉というのは、先に行政府が合意をして、その上で立法府が批准するというのが民主国家の習わしであるわけです。

この点を踏まえれば、仮に安倍首相がアメリカに何らかの約束をしたとして、その後で、国会で「批准を否決」して、その約束を反古にするという流れになった場合には「その順番でいい」のであって、何も議会軽視だということにはならないのではないかと思います。

今回の場合は少数意見への誠実な姿勢ということで、安倍政権には強引さがあり、その点に関しては大いに批判がされるべきと思いますが、その「行政府の外交と、立法府の批准(あるいは法制化)」という順序の話に関しては、外交というのはそのようなものだとして、理解するしかないように思われます。

image by: YouTube

 

冷泉彰彦のプリンストン通信
著者:冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院卒。米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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