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新型の特急ロマンスカーに採用された「夢の素材」は何が凄いのか

小田急電鉄は、箱根と東京都心をつなぐ「特急ロマンスカー」の新型車両を、2018年3の月運転開始を目標に開発すると発表しました。この新ロマンスカーは派手な外見に注目が集まりがちですが、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で鉄道に造詣が深い作家の冷泉彰彦さんによると、本当の凄さは「炭化ケイ素」を使用した半導体部分にあるとのこと。冷泉さんは、なぜこのケイ素が電車にとって「夢の素材」といえるのか、その理由を詳しく解説しています。

新ロマンスカーに採用されたSiC半導体とは?

小田急電鉄は「新型の特急ロマンスカー70000形」の開発を発表しました。2018年3月の営業運転開始を目指して製造するというのですが、目玉は何と言ってもデザインで、バラ色の派手な外観が特徴的です。

新型特急ロマンスカー「70000形」の製造を決定(※注意:PDFが開きます)

また「ダイナミックな景色が堪能できる展望席」を設置するほか、車両側面の窓には高さ1メートルの「連続窓」を採用するというのですから、全車両で外への視界を楽しむことができそうです。

更に、「車両の左右の振動を抑制する装置」つまりフルアクティブか、セミアクティブのサスペンション(恐らくはどちらも加速度センサー制御)を搭載するようですし、仮にそうであれば居住性と乗り心地は大きく向上することでしょう。

ところで、この70000形ですが、床下の電源回路システムにSiC(炭化ケイ素)半導体を全面的に導入すると発表されています。これは、小田急では既に8000系で部分的なテスト、1000系電車でフル導入のテストが進んでいたものですし、JR東海の最新型の新幹線「N700S(2018年営業運転予定)」でも本格導入されるものです。

では、SiCというものは何なのでしょうか? 

そもそも現在の電車のモータというのは交流式モータが主流です。ところが、小田急もそうですが、都市部の電化というのは直流1500ボルトとなっています。そこで、昔は直流モータを使っていたのですが、1990年代ぐらいから、直流から交流に電子的に変換して、交流モータを駆動するいわゆるVVVFインバータ制御というのが普及しました。

その「直流から交流に」変換するための電子回路では、半導体の素材としてはシリコンが主流でした。家庭用の電子機器の回路にしても、コンピュータの部品にしても半導体というのはシリコン製というのがコストも安いし耐久性もあるからです。

ところが、このシリコンには問題があります。というのは熱効率が悪いのです。例えば、コンピュータに負荷をかけるとチップが加熱して、それを冷やすためにファンがブンブン回るわけです。オーディオ機器でも、例えばアンプなどは、大音量を出すと熱くなるし、その熱を放射冷却するためのフィンが付いていたりします。PA用の大出力アンプの場合はやはりファンが付いています。

電車のパワー制御などという使い方をすると、シリコン半導体は、それこそ多くの熱を出します。ですから、コンピュータどころではない、大きな放熱用のファン(ブロワと言います)をそれこそブイブイ回して冷却するわけです。

ですが、そもそも半導体が熱を出し、しかもそれを冷やすのにモータでブロワを回すというのは非効率です。

炭化ケイ素(SiC)というのは、この点で「夢の素材」ということが言えます。とにかく、熱効率がいいのが特徴なのです。つまり、パワーを入れても発熱量が少ない、つまり熱による損失がシリコン半導体より少ないのです。一部の研究データによれば損失は10分の1という数字もあります。その一方で、熱に強いという特質もあります。シリコンと比較して3倍の強度があって、しかも放熱が早い性質があるのです。

つまり、このSiCというのは、「熱を出さないし、熱に強い」わけで、これを使った電源回路では冷却機構を省略できるということになります。ムダな熱を出さないし、熱を冷やすためのブロワを回す必要もないわけです。今回発表された70000形のロマンスカーは、旧型比での省エネ効果については、まだ明らかにされてはいませんが、恐らくは30%前後のエネルギー節約が可能になると思われます。

image by: 小田急電鉄プレスリリース(PDF)

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋
著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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