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原発ゼロにかじを切った台湾。資源の少ない「島国」の決断は吉か凶か

先日、台湾の蔡英文総統は2025年までに原発ゼロとする政策を閣議決定しました。しかしながらある試算によれば、原発を全廃した場合、台湾のGDPは4,400億円も減少するとのデメリットも取り沙汰されており、事は簡単に進みそうにはありません。メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では、未だ絶大な発言権を持つ李登輝元総統の発言を引用しつつ、蔡政権のエネルギー政策について論じ、日本も台湾の動きを注視していく必要があると語っています。

【台湾】蔡英文の原発全廃は吉か凶か

<台湾>台湾が原発全廃へ 福島第一事故受け、25年までに停止

蔡英文総統が、2025年までに原発全廃を目指すと発表しました。台湾には現在4基の原発があり、そのうち第1~第3原発が稼働しています。第4原発は、市民の反対により稼働を凍結している状態です。

日本の東日本大震災での事故を受け、日本と同様に地震の多い台湾では原発に対する反対気運が高まっていました。2015年には、第4原発稼働に向けて数万人が参加した大規模な反対デモが行われ、稼働は凍結されたままです。

一方、アジアでは中国やインドが原発を増設させており、原発推進傾向にあるなか、台湾はそれに逆行する形です。

しかし、日本でも同じような議論がされていますが、原発をなくすということはエネルギー問題を問い直すこととなります。蔡政権が代替エネルギーとして提案しているのは以下のような計画です。記事の一部を引用しましょう。

原発に代わる電力源として再生エネルギーに力を入れる。太陽光と風力発電を再生エネの柱とし、発電容量の割合を現在の4%から25年には20%に拡大することを目指す。石炭発電は30%、天然ガス発電は50%とする。また太陽光発電を今後2年で152万キロワット増やすなどといった短期的目標も設定。電力購入価格の20年間保証や融資優遇策などで民間投資を呼び込む。

毎年、台風で甚大な被害を受ける台湾で風力発電に力を入れるというのは、あまり現実的ではない気がします。電力については、台湾では現在、公営企業の台湾電力が一手に引き受けて独占していますが、電力の自由化も視野にいれているようです。

これは2013年に発表された資料ですが、台湾の原発を全廃した場合、2025年の国内総生産(GDP)が1,345億元約4,400億円減少するとの試算があります。

原発の廃止により台湾電力の発電コストが15~20%上昇することで電気料金が引き上げられ、消費者物価指数が上昇して企業の国際競争力が低下するため、GDPが低下すると予測している。同時に2万2,600人が失業すると見込んだ。経済建設委員会の関係者は「第4原発の建設中止を巡る議論が活発であるが、建設中止により経済に大きな影響があり、建設会社(日本企業等)への賠償問題が表面化する。代替電源次第では、電力不足に陥る可能性がある」と原発の必要性を強調している。
(「台湾、原発廃止による経済的影響を試算して発表」)

原発をなくすと言うのは簡単ですが、それによってどんなメリット、デメリットがあるのかを熟考して決断しなければなりません。台湾が先進国の一員として原発問題に立ち向かう姿勢は評価できます。いつかは直面すべき問題だからです。しかし、蔡政権は始まったばかりです。あまり焦って変化を生もうとすると、社会のバランスが崩れどこかに弊害が生じます

失業問題、エネルギー問題、シーレーン問題などは、じつに微妙な問題であり、焦ってできるものではありません。それ以前に、何の準備も何の根回しもなく、いきなり原発廃止を宣言するのは時期尚早だとしか言えません。

2014年、台湾の第4原発をめぐる騒動で李登輝氏の発言が注目を浴びました。その李登輝氏の発言の一部を以下に引用します。

福島で原発事故が発生して以後、世界中で原発の安全性についての再検討が進められたが、隣国である台湾では特に強烈な反応を引き起こした。

 

「第4原発」の建設を中止すべきか否か、人民が最も憂えているのは安全の問題であり、生命に対する脅威の問題である。

 

「無原発社会」は、林義雄氏がこれまで長らく主張してきたことであり、林氏が第4原発建設中止を求めてハンストすることを決定したのであれば、指導者たる者は人民の声に耳を傾け、人民がどのような意見を持っているか、多くの人民が林氏と同じような憂慮や主張を持っているかを聞くべきである。そして、第4原発の建設を中止するか否かは、人民が直接決定するよう委ねるべきである。

 

仮に、最終的に民意が第4原発建設中止を選んだのであれば、政府は思考を一歩進め「原子力発電を放棄した場合、それに代わる発電方法は何か」「原子力発電がなくなったら我々の生活に必要な電力はどう確保すればよいのか」などの課題について積極的に対応策を練らなければならない。例えば、以前から私が提言している次のような方法が考えられる。

 

  1. 台湾電力の民営化を進め、六地域に分割することで営業コストを下げ、南北間の送電ロスを抑えて発電効率を上げる
  2. 現在、台湾国内で20万ヘクタール以上ある休耕地を利用し、バイオエネルギーの原料を栽培する。

さらに、他の専門家が提案する太陽光、風力、水力、地熱などの代替エネルギー方式の利用や、再生エネルギーの発電比率を向上させると同時に、再生エネルギーの新技術研究への奨励政策を推し進め、エネルギー節約の広報を強化することで、これまでのエネルギー配分の構造改革を行わなければならない。

 

最後に、私の「原子力発電」に対する立場を明らかにしておきたい。私は、危険度も汚染度も高いウラニウムを原料とした第4原発には反対だ。しかし、このウラニウムを使った方式が唯一の原子力発電の方式ではない。より安全で汚染度の低いトリウムを使った原子力発電方式の研究を考えるべきだ。

 

ここで私は強調しておきたい。人民こそが国家の主人である。人民が第4原発の安全に対して憂慮しているのであれば、政府は民意に耳を傾け、最終的な決定を人民に委ねるべきだ。同時に、指導者は社会の各界とともに積極的にあらゆる解決法策を模索する義務がある。
(「『台湾の声』李登輝元総統が第四原発に関する発言について声明を発表

まさに、李登輝氏の言う通りで、原発のない社会は理想です。2011年、私は台湾の民視テレビと、ドイツのハンブルグで行われた原発をめぐるシンポジウムに登壇しました。周りを見る限りでは、原発に賛成していたのは私だけでした。そんな私の主張に賛同したのは、原子力研究を専門とする物理学専門家数人のみでした。

EUを見るとドイツは反原発、スペインは太陽熱エネルギー過剰、デンマークは風力と、フランス以外は原発以外の電力を確保しています。一方、中国は、核廃棄物をどうしているのかというと、チベット高原のインド向きの斜面に放置しています。そのため、大雨になると核物質がインドへ流れ出してしまいます。これに対して、インド政府がどれだけ抗議をしても、知らんぷりでいるばかりか、文句があるならかかってこいといった勢いです。

台湾の原発反対運動は、環境保護運動の延長として長い歴史を持っています。それはまた、反国民党体制運動の一環としての意味も持っていました。

かつて、私も反原発運動のリーダーである林義雄氏とエネルギー問題について議論したことがありました。反対派が原発に反対する最大の理由としては、地震と台風が多い上に、台湾は人口が都市部に密集しており、4基ある原発のうち3基が台北に隣接しており、危険だということです。また、核廃棄物の処理について、現状では離島の蘭嶼島に廃棄していますが、今後はどうするのかという問題もあります。

どんなエネルギー源も一長一短な面があります。李登輝が言うように、国民の選択を尊重し、それぞれの国にあったエネルギーを慎重に選んで行くべきでしょう。

総統選挙の際、すでに問題となっていた第4基原発をめぐり、候補者たちは原発に対する立場を表明することを強いられました。蔡英文は原発ゼロを公約にして当選しました。蔡氏は公約を実行したにすぎず、原発ゼロによる経済的負担も当然想定内でしょう。

懸念すべきは安全保障の問題です。どこまで自然エネルギーが代替となりうるのか。自前でエネルギーを調達できなければ、石油や天然ガスを輸入せざるを得ないということになります。

しかしその場合、台湾海峡を中国に封鎖されるようなことがあれば、台湾はエネルギーで重大な危機に直面することになります。日本同様、そうしたこともきちんと考えなくてはなりません。

2025年に向けて、蔡政権がエネルギー政策でどのように舵取りをしていくのか、日本も注意深く見ていく必要があります。

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image by: 123Nelson / Shutterstock.com

 

黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』より一部抜粋

著者/黄文雄
台湾出身の評論家・黄文雄が、歪められた日本の歴史を正し、中国・韓国・台湾などアジアの最新情報を解説。歴史を見る目が変われば、いま日本周辺で何が起きているかがわかる!
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