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ソーシャルワーカーは見た。不登校を生んだ教師の「ひいきの現場」

はっきりした理由もなく、子どもが学校に行きたくないと言い出す―。この段階でしっかりと原因を突き止めなかったがために、完全な不登校になってしまうケースは少なくないといいます。無料メルマガ『いじめから子供を守ろう!ネットワーク』に寄稿したスクールソーシャルワーカーの村崎京子さんは、そのうちの数%は担任が原因であるとした上で、教職に就く人間がもつべき心構え、身につけるべきスキルについて述べています。

不登校の隠された要因、先生側の事情

学校に行きたくない」と小学5年生の拓哉くん(仮名)がお母さんに話をしたのは、10月の半ばのことでした。何を聞いても、「とにかく学校に行きたくない」と言うだけで、理由がわかりません。11月に開かれる学芸会の準主役を演じることも決まっており、ご両親が「楽しみにしているよ」と、拓哉くんに話したのはつい最近のことです。とうとう1週間も学校を休んでしまいました

お母さんは、これまでの子どもへの関わり方を反省しました。忙しかったとはいえ、「あのね、学校でね…」と話しかけられたとき、「夕飯の仕度で忙しいから、後で…」と話をさえぎりしかも後から聞くのを忘れてしまったことなどなど、思い当たることが沢山出てきました。

お母さんからお話を聞いた後、私は拓哉くんと2人で話してみました。

お母さんは僕の話をきかない。このあいだも、勇介くん(仮名)のことで困ったとき、お母さんに話をしたら『勇介くんのイジメのことでしょ。前は、たたいたり、嫌なことを言われたりしたけど、今は仲直りしたって、聞いたよね』と僕に言ったし、忙しそうにして話を聞かなかったので、言うのをやめたんだ」

と淋しそうに言いました。拓哉くんは決してお母さんのことが嫌いなわけではなく、忙しいお母さんを気遣って、心配かけたくないと、たくさん説明するのをやめたのでした。また、話したからと言って解決することではないようにも思えたので、自分の気持ちを押し殺している間に気力がなくなってしまい学校に行けなくなったようなのです。

「勇介くんのどんなところに困っているの?」と聞いてみました。拓哉くんは、

「勇介は、授業中も休憩中も、いつも嫌なことをしてくる。ノートに落書きしたり、やぶったり、せっかく作った工作の作品をわざとこわしたり、本当は友達じゃないのに、家まで来て、『ゲームを貸して』と言ったり…。先生も周りもわかってくれない」

お母さんの話では、夏休み前に先生に相談し、勇介くんの嫌がらせについては、話し合いの結果、「ごめんね」と言いあって仲直りしたということでした。しかし、拓哉くんは、本当は納得していなかったようです。

「このあいだの学芸会の練習中、みんなが座って静かにしているときも、ひとりだけ勇介が騒いだりした。先生は何も言わない。でも、勇介が僕の首に腕を巻き付けてきたから、僕が『やめろ!』って大きな声をだしたら、先生は僕の名前を言って、僕のほうを叱ったんだ。僕は悪いこと、ひとつもしていないのに…。先生は勇介をひいきしている僕は嫌われているんだ

と号泣しました。拓哉くんは、不登校になった本当の理由を、勇気を持って述べたのでした。

私の親友で、別の小学校で担任をしている若い女性に本音を聞いてみました。「先生は児童生徒の好き嫌いあるの?それが原因で不登校になることあるかな?」と。「不登校の児童生徒中の何%かは、担任の先生が原因ということ有ると思うよ。隠されているけれど」(注1)

しかし、児童生徒に対する教師の好き嫌いは主観的なこともありなかなかむずかしいところがあります。第一、「子どもたちには平等に接しています」とほとんどの先生方は建前しか言いません。毎日接している子どもたちにはわかっても、たまに授業参観する程度の保護者にはそういったことは見破れません。もし発見したとしても、必ず先生は否定するでしょうし、改善の見込みは薄いのです。

当初、拓哉くんの不登校は、小学校から「主に家庭側の要因」とされました。泣き寝入りをしていたお母さんに、「教育委員会に相談するように」と私はお伝えしました。

すぐさま、お母さんは教育委員会に相談し、その結果、ソーシャルワーカーとしての私に依頼がきました。不登校の解消の名目のもと、校長の許可を得て、学校開放日、授業参観の教室に入ってみました。

たしかに、問題の勇介くんは、運動神経が良く、体育の授業では輝いています。一方で、算数などの授業では、集中力がきれ、保護者の前でも、立ち歩いたり、周りの子に消しゴムを借りようとしたり、いそがしく動いています。先生は一応、注意はするものの、いかにも表面的です。勇介くんも慣れっ子になっているようで耳に入っていない様子でした。先生のおざなりな注意は周囲への「私はやってますよというアピールにしか見えません

つまり、ここで教師の指導上の問題が浮かび上がってきたのです。口頭で注意して行動抑制につながりやすい、いわゆる「指導のとおる」子だけに注意をしており、ADHD傾向の子ども向けの指導が行われていないのでした。

授業後に、同行した教育委員会の教諭から担任の先生に質問してもらうと、予想通り、こう返答がかえってきました。

「だって、勇介くんのような子に大声で注意すると、怒り出したり、かえって危ないことをするので逆効果になるのです。だから注意しません。それよりも、時間をかけて愛情を注ぎ、信頼関係を築くことに重点を置いてきました。だから、勇介は担任である私の言うことを聞きます」

と誇らしげに言いました。どうやら、先生は、注意や指導が通りやすい、拓哉くんのほうに指導をしたようです。叱られる拓哉くんが「不公平だ」と感じるのは当然のことです。注意をしても行動抑制のきかない勇介くんの指導をあきらめ、何も言わない、怒鳴らない、と決めたようです。たしかに愛情は大切ですが、やっていいことと悪いことを教えないのであれば、子どもが自ら学習し成長する機会を奪っていることにもなります。

勇介くんからすれば、先生はいつも自分の味方で甘えて良い先生大好きな先生。拓哉くんからすれば、ひいきでイジメを止めてくれない自分を嫌いな先生、というわけです。

現代、日本の教室の中では、このような風景はめずらしくありません。多くの先生は、子どもが大好きで、先生になった方々です。しかし、「子ども自身の本性を愛する気持ちを大切にすること」と、「間違った行動を叱る厳しさを放棄すること」は違う、ということを見極めなくてはなりません。「思いや考えについての善悪を教えること」、と同時に、「行動を押しとどめるためのとおる指導や教育スキルを身につけること」は、必ず両立できます。毎日忙しくクタクタであることは重々承知していますが、教師たる者は、尊い道徳を学び、自らスキルアップする努力を怠ってはなりません。

私は、専門家として、その小学校の校長に、担任の先生を指導すること、世界標準のゴールデン・ルールに則った児童への道徳教育の実施、及び、認知行動療法を基盤とする、社会性やコミュニケーション能力の向上を目指したソーシャルスキルトレーニングを用いた、私のオリジナルの「ソーシャルスキルズ教育」をご提案しました。(注2)

先生が徳ある人として教えるスキルがアップし、教室に正義を取り戻し、子どもたちが成長し、世界の未来に貢献する人々となれますよう心から願っています。

スクールソーシャルワーカー 村崎京子

(注1) 参考記事
不登校『先生が原因』 認知されず 学校調査と本人調査のギャップから考える」2016年10月16日付ヤフーニュース

(注2)このゴールデン・ルールとは、黄金律(おうごんりつ)とも呼ばれ、多くの宗教、道徳や哲学で見出される「他人にしてもらいたいと思うような行為をせよ」という内容の倫理学的言明である。

image by: Shutterstock

 

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「いじめ」と学校の「いじめ隠ぺい」から、子供たちを救うための、父母によるネットワークです。いじめの実態やいじめ発見法、いじめ撃退法、学校との交渉法、いじめ相談などを掲載します。
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