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日産の「縦割り企業体質」をたった1年で変えたゴーン社長の凄腕

燃費不正問題以降、地に堕ちてしまった「三菱自動車」のブランド。そこに手を差し伸べたのが日産社長のカルロス・ゴーン氏です。定評の高いゴーン氏の経営手腕は、三菱自動車を復活させることができるのでしょうか? 無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』の著者・浅井良一さんが今後を占います。

企業文化の変革

心理学者が習慣についておもしろいことを言っています。それはある行動を繰り返すだけでは習慣にはならないそうで、そこに何らかの「見返りがあった場合にはじめて習慣として定着するのだそうです。

カルロス・ゴーンさんが今まさに三菱自動車を傘下に加えて、さらなる強みを持ちに跳躍しようと試みています。つくづく思うのですが、経営者の持っているその「メンタルの強さです。とは言うものの、多くの名経営者が幾度も自身の会社の倒産を夢に見て目覚めて、現実でないことを確認してほっと胸を撫で下ろすのだそうです。

カルロス・ゴーンさんの経営法を見ていると、松下幸之助さんやGEのジャック・ウェルチのような一桁上の賢さと勇敢さが感じられます。「勇敢さ」は「死生観人生観」が大きく関わっているようです。松下幸之助さんや稲盛和夫さんは以前にも話題にあげさせていただいたように、肺疾患を自分の意志の力で克服したという生い立ちを持っておられます。孫正義さんは在日韓国人の境涯を司馬遼太郎の「竜馬が行く」を読んだことで飛躍され、三木谷浩史さんは阪神・淡路大震災で敬愛していた叔父叔母を失ったことで感じることがあり日本興業銀行を退職し起業しています。

「経済学者が、経営者になって会社を潰した」というので、その昔に意外に思ったことがありました。今は「経営学者が会社を潰した」と聞いたらそれは当たり前で「うまくいった」と聞いたら「そんなこともあるんだ」と思ってしまいます。経営は知識も必要としますが、それよりも知恵や熱情や勇敢さがなければやれない予測不能の泥臭い行為だと思われます。

孫子の兵法の九地篇のなかに「死地では死中に活を求めるべくひたすら突撃あるのみである」という一節があります。カルロス・ゴーンさんは日産「リバイバル(再生)プラン」の実行において、その実現を「コミットメント(誓約)」して自身の逃げ道を封じています

日産は創業期より先進技術の吸収に積極的で「技術の日産」と呼ばれる高いポテンシャル(潜在力)のある企業で、弱いのは販売力やデザイン力をはじめとするマネジメント力とその負の蓄積である「企業文化」でした。最も問題であったのが「他責の文化であり緊張感のなさ」です。「日産のような大きな企業は潰れない」、責任を他人のせいにして「自分は悪くない」として「部門の壁」を築けば安楽でいられたのです。

みんなが楽でそれなりにやっていけるのなら、人間の悪い面の性(さが)で「習慣」化して「企業文化」にならない方がおかしい。日産には、本来的に「リバイバル(再生)プラン」で再生できるポテンシャルがあり、短期でこのようなプランづくりができる人材も多くいました。少し付け加えるのなら、松下幸之助さんは成功の条件の第一に熱意を挙げることが多かったそうで「熱意があれば知恵が生まれてくる」と言われています。

人は「死地」に追い込まれたとき「ひたすら突撃」するしか選択の余地はなく、大将その人自身がコミットメントして「死地」に追い込んでいるなら自分の運命とそのなすべきことは自ずから決まるというものです。そして、いくら困難なことであっても、その道筋が明確で具体的で到達する地平に希望があるなら人の習慣も変わらざるを得ないでしょう。

ゴーンさんは松下幸之助さんに劣らぬ知恵の持ち主なのでしょう。白紙からはじめて、現場の人の話を聞きながら1年かけて解決策を探りだし生き残りさらに成長できるプランを作成して、剛腕の知略と実行力で最も困難とされる「企業文化」を変えてしまったのですから。そのプランの作成については、社内人材でプロジェクトチームをつくり大筋を明確にして他の機関に任せず自分たちで完成させています。企業改革で一番難しいのは人の習慣化した考え方を変えることです。

image by: Wikimedia Commons

 

戦略経営の「よもやま話」
著者/浅井良一
戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。
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