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いいことないぞ。ミスタードーナツの「値下げ」戦略は、失敗に終る

米大手のクリスピー・クリーム・ドーナツの大幅な店舗数削減、新規参入したコンビニ各社のドーナツの売上不振など、ドーナツ市場に陰りが見られる中、ついにミスタードーナツも値下げによる売上アップ戦略に打って出ました。しかし、無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』の著者でMBAホルダーの安部徹也さんは今回の値下げについて「あまりに短絡的」と厳しい見方を示しています。

ミスタードーナツの値下げ戦略が失敗する理由とは?

ミスタードーナツが、11月8日からおよそ8割にあたる商品を値下げしました。たとえば、人気商品であるポン・デ・リングはそれまで130円だったものが100円に…。実に23%もの大幅な値下げになります。

ミスタードーナツは、今回の値下げにより、これまで月に1回程度実施していた100円セールを廃止し、いつ行っても手軽に買える価格で、集客、そして結果としての売り上げアップを図る戦略に舵を切ったのです。

なぜ、ミスタードーナツは100円セールを廃止するのか?

これまで、販売戦略で重要な役割を果たしてきた「100円セール」ですが、ミスタードーナツは、なぜ今後「100円セール」を実施しないという決断を下したのでしょうか? その背景には、顧客は「100円セール以外はドーナツが高く感じる」という不満をもらしていて、セール以外の日に足が遠のく一因になっていたという事実が挙げられます。

たとえば、せっかくドーナツを買った次の日から、同じものが100円で売られ始めると、顧客はやはり損をしたような気分になります。このような経験をすれば、次からは100円セール以外の日は購入するのを控えようと思うことは当然のことといえるでしょう。結果として、ミスタードーナツは、100円セールをしない限りは、売り上げをアップすることは難しくなるという悩ましい状況に陥ってしまっていたのです。

このような顧客行動は「アンカリング効果」と呼ばれ、同じ商品であれば最安値が顧客の購買基準に設定され、それを上回る価格の場合、余程の緊急な必要性が起こらない限りは購買に結びつかなくなります。つまり、セールは短期的な売り上げアップに貢献するというメリットがある反面、一旦行ってしまうと、やり続けなければ消費を刺激することはできなくなるというデメリットもあるというわけです。このようなセールのメリットとデメリットを天秤にかけた結果、デメリットの方が大きいという結論に至り、100円セール廃止を決定したのでしょう。

今後、ミスタードーナツが展開するのは、いつ行っても安いというイメージを顧客に植え付けて来店頻度を高め、売上アップを図る戦略です。これはEDLP(Every Day Low Price)と呼ばれる価格戦略で、アメリカではウォルマートが取り入れて、大きな成功を収めたことでも有名です。

ミスタードーナツも、8割もの商品の値下げに踏み切り、毎日割安感を感じてもらうことによって、減少傾向にある売り上げに歯止めをかけたいところなのでしょう。

ミスタードーナツが苦戦する真の原因はどこにあるのか?

これまで高級路線でドーナツ市場をほぼ独占してきたミスタードーナツですが、ここにきて低価格路線に舵を切った背景には何があるのでしょうか? 多くの方は、セブンイレブンを始めとしたコンビニがドーナツに力を入れ始めたからではないかとお思いかもしれません。

確かに、コンビニのドーナツが、ドーナツ市場を侵食していることは確かでしょう。ただ、あのセブンイレブンでさえ、ドーナツ市場で売り上げを伸ばすのに苦戦していることは間違いありません。その証拠として、最近ではこの11月に新たな商品を投入するなど頻繁にリニューアルを行い、試行錯誤していることが挙げられます。うまくいっていれば、このように頻繁にテコ入れを行わなくてもいいはずです。

恐らく、ミスタードーナツが苦戦する真の原因はドーナツ市場自体の縮小にあるのではないでしょうか。ドーナツのメインターゲットといえば、ファミリー層や女性層です。少子高齢化により、ファミリー層は減少していますし、健康志向の高まりによってカロリーの高いドーナツは女性にも敬遠される傾向にあります。このようにメインターゲットの購買意欲の減退により、市場規模の縮小が顕著になってきているのです。

同じドーナツチェーンでは、かつて行列の絶えなかったクリスピー・クリーム・ドーナツなども、一時期全国に64店舗を展開して急成長を遂げましたが、最近では閉店が相次ぎ、現在では46店舗まで急速に規模を縮小してきています。

つまり、ドーナツ業界は、世の中のトレンドに逆行していて苦戦するのは自然の流れといっても過言ではないのです。

ミスタードーナツは果たして値下げで成功するのか?

現状、ミスタードーナツを展開するダスキンの業績は飲食部門が大きく足を引っ張っています。10月31日に発表された2017年3月期の第2四半期の決算内容は、売上高が1.7%減の811億円、本業の儲けを示す営業利益は6.2%減の25億円と伸び悩みが鮮明になっています。特にミスタードーナツを主力とする飲食部門に限って見れば、売上高は前年同期比8.3%減の203億円、営業損益に至っては赤字幅が拡大し、6億円近い損失を計上しているのです。

このような危機的な状況を脱するために、ミスタードーナツでは、値下げを武器に来店客を増やして売上アップを図ることにより、損益分岐点を大幅に超えて黒字化を目指していく戦略に舵を切りました。恐らく値下げをすれば、購買単価は下がるかもしれませんが、当初は思惑通りに顧客数がアップして、最終的な売り上げの向上が見込めるでしょう。

ただ、心配な要素は、これまで値下げで成功し続けた企業はほとんどいないという事実です。飲食関連企業でいえば、マクドナルドや吉野家はデフレの勝ち組と称されましたが、値下げにより「安物のイメージが定着して、値上げ局面で大きく顧客を失うことにつながりました。また、最近では同じようにデフレの勝ち組だったユニクロも値上げで失敗し、業績に暗雲が立ち込めています。

これら低価格で成功し、その後苦戦する企業の過去に学ぶならば、一旦値下げすると、もう値上げすることは難しく、値下げ直後に一時的な成功を収めるかもしれませんが、将来的にはさらに難しい経営の舵取りが求められることは想像に難くないでしょう。

売り上げが伸び悩むから値下げして需要を刺激しようという戦略はあまりに短絡的です。本来であれば、既存製品の売り上げが頭打ちになった時には、イノベーションによって新たな需要を創造することが理想ですが、ミスタードーナツは新製品開発でいろいろとチャレンジしたものの手詰まりとなったということなのでしょうか。

いずれにしろ、すでに賽は投げられました。ミスタードーナツが、先達と異なるどのような次の一手を繰り出すのか注目していきましょう。

image by: TK Kurikawa / Shutterstock.com

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著者/安部 徹也
テレビ東京『WBS』への出演など、マスメディアで活躍するMBAホルダー・安部徹也が、経営戦略やマーケティングなどビジネススクールで学ぶ最先端の理論を、わかり易く解説する無料のMBAメルマガ。
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