トランプ氏の米大統領選勝利を受け、日米関係も大きく変わろうとしていますが、それは米中関係とて同様です。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では、著者の北野幸伯さんが、現在の米中の微妙な関係と中国サイドの思惑を分析、さらに日本が今後アメリカとの良好な関係を維持するためのポイントについても考察しています。
トランプと習近平が電話会談
トランプさんと習近平さんが、電話で会談したそうです。何を話したのか?
習氏、トランプ氏と電話会談「協力こそ唯一正しい選択」
朝日新聞デジタル11/14(月)19:42配信
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は14日、米国のトランプ次期大統領と初めて電話会談した。国営新華社通信が明らかにした。
習氏は「協力こそ両国の唯一の正しい選択」と述べ、トランプ氏も「米中両国はウィンウィンを実現できる」と応じた。
両氏は早い時期に会い、両国間の問題について話し合うことでも一致した。
もう少し具体的に見てみましょう。
習氏は米大統領選での当選に祝意を述べた上で、両国の協力には重要なチャンスと巨大な潜在力があると指摘。「中米関係をきわめて重視しており、米国側とともに関係推進に努力したい」と呼びかけた。
また、「双方が協調を強め、各分野での交流や協力を広げていきたい」と訴えた。
(同上)
これが中国の偉いところですね。中国は、心の中でどう思っているかは知りませんが、「アメリカと仲良くしたい!」というメッセージは一貫しています。ヒラリーさんを含む政治家、マスコミ、教授などにも金をばらまき、しっかり取り込んでいる。
トランプさんは、どう応じたのでしょうか?
新華社によると、トランプ氏は「習氏の米中関係の見方に賛同する」とし、「中国は偉大で重要な国家だ。あなたと一緒に米中両国の協力を強化したい。関係がさらに発展できると信じている」と述べたという。トランプ氏側は会談内容を明らかにしていない。
(同上)
「中国は偉大で重要な国家だ。あなたと一緒に米中両国の協力を強化したい。関係がさらに発展できると信じている」だそうです。トランプさん、選挙戦中は結構中国を批判していましたが。
トランプ氏は大統領選で中国が輸出を有利にするため、人民元安に誘導しているとし、中国を「為替操作国」に認定すると公約。中国では、中国製品に高い関税を課すと主張してきたトランプ氏の保護主義的な姿勢に警戒感が広がっているが、両氏の初会談では、まずは協力という原則論を確認したとみられる。(北京=西村大輔)
(同上)
トランプさん、勝利後の言動を見ていると、過激さは全然なくなっています。
米中関係の推移
ここで、米中関係の推移についておさらいしておきましょう。
1991年末、ソ連が崩壊して冷戦時代(=米ソ二極時代)が終わった。そして、「アメリカ一極時代」がはじまりました。しかし08年、アメリカ発「100年に1度の大不況」が起こり、「アメリカ一極時代」は終わった。世界は、「米中二極時代」に突入しました。しかも「沈むアメリカ、昇る中国」という関係。
習近平は2013年6月、国家主席として初めて訪米。大歓迎されます。習は、こんなことを言いました。
世界は、中国とアメリカが牽引していくG2時代を迎えた。これからは太平洋の東側、すなわちアメリカ大陸とヨーロッパは、アメリカが責任を持って管理する。一方の太平洋の西側、すなわち東アジアは、中国が責任を持って管理する。つまり東アジアのことは、基本的に中国に任せてほしい。そのような「新型の大国関係」を築こうではないか!
これは、「縄張り提案」ですね。要するに、「東アジアは中国の勢力圏だから、俺に任せてくれ!」と。日本も東アジアなので、「中国勢力圏」に入ってしまいます。
親米派の皆さんは、「そんなのは、アメリカが許さないぞ!」と思うでしょう? ところが、オバマさんは2014年11月、北京で習と会談した際、こんなこと言っています。
中国との二国間関係は、アメリカにとって最も重要な二国間関係だ。だからアジア地域のことは、基本的に中国に任せたい。だがその代わり、周辺諸国と摩擦を起こさずやってほしい。その意味で、「新型の大国関係」という構想に賛意を示したい。
「アジア地域のことは、基本的に中国に任せたい」(オバマ)
おい! 「アジア地域のことを中国に任せたら」、「東シナ海は、その名のとおり中国の海」、「南シナ海は、その名のとおり全部中国領」となるに決まっているでしょう?????? オバマさん、困ったものです。
しかし、米中関係は、2015年3月の「AIIB事件」以降、急速に悪化していきました。2015年9月に習近平が訪米した際は、「新型大国関係」(G2)の話ができなかった。オバマさんは、ひたすら「南シナ海問題」「サイバー攻撃問題」などで、習近平を批判し続けたのです。夕刊フジ2015年9月28日を見てみましょう。
一方、目立ったのは、米国内の習氏への冷ややかな反応だ。米テレビは、22日から米国を訪問しているローマ法王フランシスコの話題で持ちきりとなっており、習氏のニュースはかすんでいる。
中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「習氏にとって一番の期待外れは、全く歓迎されなかったことだろう」といい、続けた。「ローマ法王はもちろん、米国を訪問中のインドのモディ首相に対する熱烈歓迎はすごい。習主席は23日にIT企業と会談したが、モディ首相もシリコンバレーを訪れ、7万人規模の集会を行う。米国に冷たくあしらわれた習氏の失望感は強いだろう。中国の国際社会での四面楚歌(そか)ぶりが顕著になった」
まとめると、習近平が中国のトップになってから、米中関係は、13、14年良好。15年3月以降悪化、となります。しかし、オバマさんはまもなく去り、トランプが大統領になる。習近平としては、米中関係を「再起動」させたいところでしょう。
日本政府が最も注目すべきは?
トランプさん、今は中国に穏やかです。しかし、彼のスローガンは、「偉大なアメリカを取り戻す」。アメリカが「偉大」になるのを妨げているのは、中国でしょう。大統領選挙を見ればわかりますが、トランプさんは、徹底的に戦います。いずれ中国とはケンカ(主に経済面での)になると思いますが、現段階では、断言できません。
日本政府は、「トランプ ― 中国」関係を、常に追い続けるべきです。そして、トランプさんとの良好な関係構築に全力を尽くし、同時に、中国批判をやめましょう。
トランプさんは、かつて「朝鮮半島で戦争が起こっても、アメリカは関わらない。日本と韓国にはグッドラックだ!」と言った人であることを決して忘れるべきではありません。「尖閣を守ってアメリカになんのメリットがあるんだ? 尖閣のために、アメリカは中国と第3次大戦を始める気はない!」と言われる可能性があります。
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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