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激務の公認会計士が、いかにしてTOEIC200点アップを実現したのか?

英語を公用化する企業も珍しくなくなり、昇進にTOEICの点数が加味される会社も増えてきた昨今、働き手の頭を悩ますのがその勉強方法。仕事と語学の両立はとてつもなく大変なように思えてしまいます。そんな方の参考になるのがメルマガ『六本木の公認会計士いきぬき(生き抜き)』で紹介されている、無理せずTOEIC200点アップを実現した公認会計士式英語学習法。発想の転換が勝利を呼び込みます。

僕が英語の勉強を中断した理由

僕のいた法人は、国際系のグループはともかく、旧国内系のグループでも英語力必須で、職位の段階ごとに目安となる英語力をTOEICスコアをベンチマークで出しています。例えば、シニアはTOEIC650点以上、マネージャーTOEIC750点以上、パートナーはTOEIC850点以上の英語力が必要といった目安感で。

公認会計士試験に向けて日夜試験勉強に没頭していた監査法人の若手は、入社時にそれほど高い英語力は持っていません。僕の場合、入社時期の英語力がTOEIC500点前後だったと思います。大学生の頃からまったく勉強していませんでした。

試験合格後に一通り遊んで法人に入社してから1年目は一生懸命、英語の勉強に取り組んでいました。

教材は定評のある「DUO3.0」。DUOは1センテンスに複数の単語が散りばめられて構文が作られた効率的なもので、これを毎日3文ほど暗記して、帰り道には暗記した構文について、CDをMP3にリッピングしたものを聞いてシャドウイングをしました。記憶を定着させるために考えた受験時代の勉強方法で。

しかし、監査法人に勤務しだした会計士試験合格者は、学生とは違います。入所して暫くの間は、分からない事ばかりで、業務時間外に知識をどんどんアップデートしていかないと、落ちこぼれになってしまうのが監査法人の環境です。そして、初年度に落ちこぼれという評価がついたら覆すのは容易ではありません。

難関試験の合格者のみで構成される監査法人のメンバーの平均的な学力は高く、期待水準も高いので、並みの脳味噌・態度では上司や先輩の期待に応えることは出来ません。そのため、上司や先輩の期待に応えるために、クライアントに関連する税制や会計、過年度の監査調書などを勤務時間外に勉強していくことになるのですが、当然、時間を費やします。

気が付けば、英語の学習をする時間が飛んでしまいました。

試験勉強との狭間で

英語の勉強がとまったところで、今度は仕事を通じて英語の勉強をしなければならない事態が突然やってきました。入社3年目、インチャージとして担当した上場会社でJ-SOXが適用された際、海外子会社の1つが「重要な事業拠点」に該当してしまい、現地出張を含めた監査を行う必要が出てしまったのです。

更に、海外投資家向けのIRに取り組むということで、アニューアルレポート(英文財務諸表)を作成して有報と同時に開示する方針を発表し、任意監査対象になりました。初めての上場インチャージで四苦八苦しているところで、海外拠点に往査したり、英文財務諸表の表示をチェックしなければなりません。

期待されているのに「出来ない」なんて言えません。

そして12月には公認会計士になるために必須の試験もあり会計実務や税務実務の試験勉強も必要なのです。合格できなかったらどうしましょう。

そんな中で、1から英語勉強などやってられません

時間が極度に不足している中で応急手当で対処したのが、会計英語に限定して覚えていく方法でした。今思えば、TOEICの得点稼ぎ勉強を諦めて、実務ですぐに役に立つ即効性の高い勉強に舵を切ったことは、まったく正しい選択だったと思います。

>>次ページ 英語に対する拒絶感の和らげ方

会計英語の短期勉強

会計・監査実務を通じて必要な英語勉強と、TOEICのような試験で得点を上げる英語勉強は異なると思います。

僕のいた監査法人の国際部では、誰が作ったか「会計用語集300」という研修用資料の英単熟語集を持っていました。

例えば、Accounting policy(会計方針)、Accounting principles(会計原則)、Accounting period(会計期間)、Bad debt expenses(貸倒引当金)、Capital stock(資本金)…

というように、ABC順で会計に関する必須英単熟語が網羅されて記載されています。

更に、「英文フレーズ集」という資料もありました。

例えば「Controls are designed,implemented and operateing effectively」(統制は有効にデザイン、業務に適用され運用されている)といった具体のセンテンスがひたすら書いてあります。

つまり、監査の各局面で必要になる言い回しに特化して使える英語のフレーズをまとめた資料でした。これらを国際部の同期にシェアしてもらい、短期集中で覚えると同時に、常に持ち歩き参照していました。

もちろん、これらを覚えたからと言ってTOEIC頻出ではありませんし、更に一般的な英語とは違いますから、英会話でもあまり役に立ちません。

しかし、目の前にある実務での役立ちは抜群で、メールを読んだり、アニュアルレポートや英文会計資料に何が書いてあるのかを理解したりというスピードが高まりました。

結果、TOEICの点数は600点台前半に留まる状況でしたが、差し迫る実務は乗り切ることができたのです。英語に対する拒絶感もかなり和らぎました

>>次ページ 海外研修で英語力不足を感じ…

公認会計士になってから考えたこと

こうして、ズタボロになりながらも上場インチャージを通年回して、監査実務を一通り経験し、見習い期間が終わって無事に公認会計士資格を得て職位もシニアに昇進していました。

法人からのご褒美でプレゼントされた短期海外研修に参加して、欧米に数週間、ホームステイをしながら、今後の英語との付き合い方についてはどのようにすべきか考えていました。メール対応など最低限の英語能力のハードルは思ったより低く、他の会計士としての実務勉強と同じように短期間でのインプットも可能といえます。

しかし、こうして海外で数週間暮らしてみると、テレビの内容もよく分からないし、現地で意思疎通も出来ません。とても、一般的な英語力は身に付いているとはとても言えず、継続的な努力が必要だということを、痛感しました。

ここで、普通なら帰国後の感想文で「実力不足を痛感したのでもっと努力する」という内容を報告して、ますます英語勉強に没頭していくのでしょうが、物事を斜めから疑う性格の僕は違いました。

今後、形式的な面で自分の市場価値を上げるための英語力、つまり、一般的な転職市場や社内昇進で必要な指標であるTOEICを800点レベルまで引き上げるには相当な努力が必要でしょう。

事実、モチベーションの高い先輩や同期たちは、電車内でヒアリングをして、業務終了後にスクールに通い宿題をこなし、スパルタで有名な社内英語特訓に参加しようとして努力をしており、仕事以外の多くの時間を英語に費やしています。

ただし、そのために監査・会計の更なる専門性の高い勉強が後手に回っているように見えました。

「例えば、社団・財団法人の会計税務に関する勉強に100時間投入すると、それで十分詳しくなれて監査法人内では専門知識があるように思われる。それを、宣伝して希望すれば、部内の関連ジョブを独り占めすることもできる」

しかし、英語では、会計士試験に合格する並み、ひょっとしたらそれ以上の時間投入が必要です。

「…つまりこれは『ラットレース』なんじゃないか。」
「…時間の投資収益性でいえば英語よりも高いものは無数に見当たる。」

こう考えた僕は、英語で人より秀でるための競争をやめて、日本の公認会計士として価値の高い分野の勉強と実務経験の機会を求め、価値を高めていこうと考えました。

それでも1か月単位で集中勉強して海外英語研修から帰ってきていましたから、シニア2年目で受験させられたTOEICの点数は700点ほど。この点数なら、ひとまず恥ずかしめられるレベルではないので、この時から僕は点数稼ぎの英語勉強をやめました。サボる訳ではなく、実務で使える将来性の高い専門知識の習得を優先したのです。

自画自賛がちな意見ですが、英語勉強を放棄してその時間を未経験分野の勉強と実務経験に費やしてきた僕の知見は、同時期に会計士になったメンバーに比べて広くて深いと思います。その成果も、メルマガでは様々な分野についてフィードバックできていると思います。

しかし、昨今は少しずつ英語を学ぶライフワークを戻してきています。若手にも今は英語力を身に付けた方がいいということをいいます。なぜでしょうか。

>>次ページ 中国語を身につければ収入は増えるのか?

英語力とキャリアの方程式の発見

公認会計士にとって、英語力があった場合のメリットってなんでしょうか。

1つ明らかな効果は、受注機会が増えるということだと思います。英語ができるということは、英語が必要な仕事を受注する機会ができます。アクセス可能なマーケットが多くなるのです。

しかし、だからと言って、既に受注機会を頂いている案件で、英語力があったからと言って受注率は上がらないでしょう。なぜなら、英語力の有無は募集要件の段階で既に問われているからです。

ここで一旦、両辺から受注単価を消して整理すると以下となります。

受注機会×受注率=稼働日数(200日限度)

このように稼働日数で見てしまうと、既に限界稼働200日超の引き合いがあるフリーランスにとって、受注機会を高める英語スキルはすぐには必要ないと言えます。

多くの独立している公認会計士が英語を積極的に勉強しない理由がこれです。

中国語を勉強しても市場価値が高まらないのはなぜか

こんな話があります。僕の大学時代の第二外国語でもっとも人気であったのは中国語でした。これからは中国が台頭する時代だと考えるひとが多かったのです。

友人の1人は中国語学習に力を入れており、今では中国人向けの観光ビジネスに雇われています。中国が台頭するという予測は当たり、今や中国は世界第2位の経済大国です。

しかし、彼個人の年収は400万円程度だと思います。なぜなら、中国語ができる日本人は確かに希少なのですが、中国人の中で日本語ができる人材が簡単に採用できるので、彼らとの競争になってしまい価値が高まらないのです。

需要側の話をすれば、今は円安が長期間続きそうな傾向です。グローバル企業の稼ぐ外貨は増えています。監査報酬やコンサル報酬もこうしたグローバル経済から得られるものに置き換わっていくでしょう。

しかし、日本語と英語ができるアジア人の労働力が豊富です。それならば、例えば、日本企業の海外拠点の監査は海外事務所にお任せすれば安い。実は日系企業でアジアに進出している会社も、日本人のプロフェッショナルではなく、現地人で日本語が堪能なスタッフを抱える安価な事務所に流れているといいます。

更に、現在のところ若手が積極的に英語力をみがいていますので、英語ができる日本の公認会計士の供給は増加するでしょう。

僕は、英語と国際会計基準の勉強に明け暮れる監査法人の若手をみていて常々、こう思っていました。

「英語とIFRSをコアに勉強する彼らは、同じスキルを持つインド人や韓国人と競争したいのかな。インド人や韓国人の年収は日本の公認会計士より激安なのに」

英語ができる公認会計士がかなり不足していた10年以上前ならいざしらず、今は英語ジョブだからといって特に高単価である訳ではなくなりました

ビジネスを志向したら英語は有望

では、僕がなぜ英語に触れだしているかと言えばビジネスになるからです。

例えば、円安でインバウンドの投資が増えています。

典型的な監査法人ビジネスのチャンスは、中国人などがシンガポールの法人などを通じて日本のリゾート地や不動産に投資する際に設立される、SPCの任意監査業務でしょうか。これを受注するために、日常的な電話対応や英文報告書を書けて英語の質問に返答できる程度の英語力が必要です。そして、監査法人のホームページを英語にして、彼らの飲み食いに付き合えば機会が出てきそうです。

と、いう訳で太郎は英語の学習を再開した訳です。他にも英語の受注機会を利用したビジネスというのは、考えられるんですよ。

>>次ページ 英語学習で注意すべき4つのポイント

戦略的な英語習得に向けての4つの助言

英語を学習するにせよ、気を付けなければならない点としてあげたいのは、以下の4つだと思います。

  1. グローバル競争からの防御
  2. 英語学習のリスク
  3. 国内市場の斜陽
  4. テクノロジーへの注意

第1にグローバルな低付加価値な競争に巻き込まれないように注意してキャリアを進めるべきだということです。

例えば、海外勤務した経験のある公認会計士は、日本税制について以前よりも力を入れて学習します。それが現地のローカルスタッフに比べた差別化になるからです。インバウンドの会計業務で強みを持てるのは、日本の会社法・税務への対応力です。

この点、今のパートナー層の年齢の方は、海外のサービスや仕組みを勉強して日本市場にローカライズして売って、儲かった成功体験があります。したがって、英語を勉強して海外を学ぶように指導してくるかもしれませんが、これからの時代、海外での成功事例の持ち込みがキャリアに役立つのか考えてみたほうがいいかもしれません。

英語を勉強してMBA取得というキャリアはどうでしょうか。あるいは、英語を勉強してファイナンスの実務経験というキャリアはどうでしょうか。グローバルで損しませんか。

次に、副作用への注意です。

効率的な英語学習法はたくさんあるのでしょう。それでも英語の学習にはものすごい時間がかかる点は如何ともしがたい問題です。とにかくそこに時間を配分しすぎると、他の勉強はもとより、もっと大切な人脈や経験、情報源といった資源構築が足りなくなります。

これは、監査法人マネージャーたちに不足している意識で、要するに「仕事が取れないタイプのプロフェッショナル」となります。「仕事が取れないタイプのプロフェッショナル」は「英語ができないプロフェッショナル」よりも将来性がありません。

英語の学習時間を優先して、無趣味で流行に疎くなったり、人付き合いが悪くなったりという、副作用がでないようにしなければなりません。

効率を考えた場合、手っ取り早いのは、前述のような、大手監査法人で開発された会計監査にフォーカスした英語学習ツールを入手しておいて、実務でアサインしてもらい、TOEICではなく、その経験を主張するという方法が良いと僕は思います。

TOEICでも、スマホで空き時間に勉強するツールもありますし、スカイプ英会話でもいいでしょう。とにかく効率を追求していくしかありません。

3つ目に、長期的な展望とエギジットで、すなわち国内市場の衰退問題です。世界の人口は増えて日本の人口が減る未来を想像して、日本の衰退を織り込みます。

なにも斜陽を悲観するべきじゃなくて、豊かな日本が衰退する中で、出世欲や向上心を抑えて生きるなら、楽でゆとりのあるキャリアを志向することができると、僕は思います。

例えば、重厚長大の完成した大企業の経理は楽だし福利厚生も良好です。ただし、組織の高齢者が多いのでポストは限られています。

町の会計事務所や中小監査法人で勤務していて低年収でも、やがて代替わりが来るとおもいますし、積極的に営業して拡大しようとしなければ楽ですよ。

要は、公認会計士資格を利用して、既得権を得られるように動けばよいのです。これらのキャリアに英語は必要ありません。

一方で、今よりも裕福な暮らしを求めたいなら、海外の経済成長の中に身をゆだねるべきだと思われます。外人からおカネを貰えるようにしたいですよね。英語にチャレンジです。

最後に、テクノロジーです。

ドラえもんの「翻訳こんにゃく」みたいなアプリやツールが10年単位では完成する可能性が高いという、ある理系学者やベンチャー投資家の話があります。テクノロジーの力で言語の壁が取り払われたら、IT革命に匹敵する衝撃でしょうね。世界中で、言語に対する研究開発では多額のカネが投じられているといいます。

「翻訳こんにゃく」は、「タイムマシン」より実現可能性はかなり高いでしょう。

電卓の登場でソロバンのスキルは陳腐化しました。同じく、語学スキルが陳腐化する未来の可能性はどうでしょうか。もしも、そういうテクノロジーが出たときに、強みが残るようにキャリアを考えておくことが必要だということです。なにせ、みなさんはあと半世紀近く働くのですから。

image by: Shutterstock

『六本木の公認会計士いきぬき(生き抜き)』 より一部抜粋

著者/JoJoの奇妙な公認会計士
事業会社、ベンチャー企業を経て大手監査法人へ。採用担当やIPO担当、大企業の主査業務を経験後にアドバイザリーチームに移籍。さまざまな業界とつながりを持つ著者のメルマガは具体的ですぐに使えるビジネスヒントに満ち溢れている。
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