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すき家が強気に出た。1080円の高級弁当に隠された3つの意図

牛丼をメニューに加えた回転ずし店などといった異業態の飲食店に顧客を奪われたり、深夜のワンオペが問題視され評判を落とすなど、近頃は散々だった「すき家」。そんな中、同店は突如1杯1,080円という「黒毛和牛弁当」の販売を始めました。ここに来て「超高級牛丼」を提供する思惑とは? 無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』の著者・安部徹也さんが、MBAの視線で分析します。

すき家が1,000円を超える「高級牛丼」で狙う3つの意図とは?

すき家は、11月17日から期間限定で、1個1,080円の黒毛和牛弁当を各店20個の限定で販売しています。

この「黒毛和牛弁当」は、赤身と脂身の絶妙なバランスで旨みが凝縮された国産黒毛和牛を特製のタレで煮込んだこだわりの逸品。すき家の牛丼は並盛で1杯350円なので、およそ3倍の価格の高級牛丼」といえます。

このすき家の「高級化路線」への転換に、ネット上では「迷走している」や「誰もすき家では1,080円の牛丼など食べないから、売り上げアップにつながらない」など否定的な意見も散見されます。

ただ、すき家自身はこの「黒毛和牛弁当で直接売り上げや利益アップを図る意図はないと思われます。それは期間限定で、各店わずか20個しか販売しないことからも明らかです。

すき家がこれまでの低価格戦略から超「高級化路線」に転じて、「黒毛和牛弁当」で売り上げアップを図るようであれば、より事業にインパクトを与えるような販売計画を策定するはずです。つまり、すき家にとって通常の牛丼のおよそ3倍の価格である1,080円の高級牛丼は、何らかの意図を持った「戦略商品」ということなのです。

高級牛丼を利益度外視で発売したすき家の「隠された意図」とは?

それでは、「黒毛和牛弁当」の発売にはどのような意図が隠されているのでしょうか? 浮き彫りにしていくことにしましょう。

1.話題性―ギャップによるプロモーション効果

まず、1つ目の大きな意図は、話題性によるプロモーション効果を狙ったものといえるでしょう。

これまで低価格の牛丼を販売してきたすき家がいきなり3倍以上の価格の牛丼を発売すれば大きなインパクトがあります。

プレスリリースを流せば、多くのメディアでニュースとして取り上げられるでしょうし、このニュースを受けてSNSや掲示板などで盛り上がりを見せることでしょう。

つまり、コストをあまりかけることなくより多くの人にすき家で高級牛丼が発売されることをプロモーションすることが可能になるというわけです。

2.差別化―ブランディング

2つ目の意図としては、差別化によるブランディングにつなげたいという狙いが浮き彫りとなります。

牛丼業界はこれまで激しい価格競争を繰り広げてきました。すき家でいえば、かつては牛丼並盛1杯240円で提供したこともあり、「牛丼=安物というイメージが図らずも定着してしまいました。

また、最近では回転寿司大手のくら寿司が「牛丼を超えた『牛丼』」をキャッチフレーズに、1杯399円で牛丼の提供を開始し、発売後わずか1ヶ月で50万食を売り上げるヒットを記録しました。12月2日からは牛丼の売り上げを加速するために、半熟の卵を2つトッピングした「W温玉牛丼」を前倒しで投入し、3ヶ月で100万食という目標の早期達成を目指しています。

このように、従来のライバルとは全く異なる企業も牛丼業界に殴り込みをかけてきているのが現状です。

牛丼業界において、従来の枠を超えて競争が激化する中、業界トップのすき家は威信をかけて差別化を図り価格ではなく商品力で勝負していこうという決意の表れでもあるといえるでしょう。

その強い想いは、すき家が日本の外食業界では初めて、世界の優れたブランドに贈られる「ブランド・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど、自社のブランドを高めることに注力しているところにも見てとれます。

3.新たな顧客層の開拓―価格から価値へのシフト

そして、最後の3つ目は新たな顧客層を開拓するという狙いです。これまですき家は女性層やファミリー層など吉野家などが食欲旺盛な男性を狙う中、ポジションを少しずらして急成長を遂げてきました。

一方で、「価格に敏感な顧客層」という共通の特徴も挙げられます。

ただ、すき家が新たに狙う顧客層は価格よりも価値に重点を置き、価格が少々高くても価値があれば購入を厭わない層です。なぜなら、このような顧客層を取り込むことに成功すれば、今後不毛な価格競争に巻き込まれることを避けることも可能になるからです。

つまり、すき家は価格で浮気しやすい顧客よりも、価値を重視して浮気しない新たな顧客の開拓を目指しているというわけです。

そのような意味では、今回の「黒毛和牛弁当」は1,200円や1,500円相当のコストをかけて赤字覚悟の価値を提供する必要があるといえるでしょう。

すき家のコストリーダーシップ戦略から差別化戦略への転換は成功するか?

これまで牛丼業界では、価格重視のビジネスが展開され、すき家は規模の優位性をフル活用して、吉野家や松屋といったライバルに対して優位に競争を展開してきました。

ところが、コスト削減を究極まで追求していった結果、24時間営業店舗で夜間に店員が一人しかいないというワンオペレーションがブラックだと社会批判を受けた影響もあり、業績が悪化。2015年3月期はマイナス111億円という大幅な赤字に転落してしまいました。

これはメイン顧客が価格に敏感な場合、ビジネスが非常に難しくなることを如実に物語っています。

そこですき家は、これまで長い間展開されてきた牛丼業界の不毛な価格競争から抜け出し、ブランドを高めて安定的な成長を目指すべく「高級牛丼」を敢えて投入してきたのです。

「高級牛丼」投入の1つ目の意図は達成しました。

1,000円を超える高級牛丼が戦略商品として成功を収めるには、残り2つの目的を達成できるかにかかっているといえるでしょう。

【1日3分MBA講座:本日のTake away】

商品にはそれぞれ企業の最終的な目標を達成するための役割がある

必ずしもその商品自身が売り上げや利益アップにつながらなくても、「ある役割を持った」戦略商品を活用することで、最終的な目標を達成することができるようになる。

image by: Takamex / Shutterstock.com

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メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座
著者/安部 徹也
テレビ東京『WBS』への出演など、マスメディアで活躍するMBAホルダー・安部徹也が、経営戦略やマーケティングなどビジネススクールで学ぶ最先端の理論を、わかり易く解説する無料のMBAメルマガ。
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