「感動の瞬間100選」では、その場所、その瞬間でしか体験できない「感動の瞬間」を紹介し、その瞬間の体験を目的とする旅行を提供しています。秋の北海道・白老町で観察できるサケの遡上を見る旅行や、冬の沖縄県・座間味村で開催されるザトウクジラのダイナミックなジャンプを見学するツアーなどがあります。
今の時代では、「モノ販売からコト販売へ」といった「エクスペリエンス・マーケティング」の重要性が叫ばれています。旅行業でいえば、単に旅行パッケージを販売・斡旋するのではなく、ストーリー性のある、体験を重視した旅行を提供する必要があります。JTBは特に国内旅行において、そういったエクスペリエンス・マーケティングの先端を走ってきたといえます。
JTBの業績は好調です。通期の売上高は、08~09年においてリーマンショックの影響で落ち込みを見せましたが、10年3月期以降は一貫して上昇しています。10年3月期の売上高は1兆1,212億円ですが、16年3月期は1兆3,437億円となっています。
国内旅行でトップを走るJTBに対し、HISは海外旅行において活路を見出してきました。前身のインターナショナルツアーズが1980年に設立しました。JTB設立の68年後です。HIS創業者の澤田秀雄氏は学生時代に50カ国以上を旅行した経験を持ちます。そうした経歴からか、主に海外旅行商品を販売してきました。
HISでは当初、従業員の入社試験では海外旅行20カ国以上に自由旅行で行った人でなければ面接しないという高いハードルを設定していたほどです。海外旅行を販売する際に、海外旅行経験者ならではのアドバイスや提案ができるようにするためです。
HISは結果としてJTBと差別化を図る形で、海外旅行商品の販売を強化していきました。そのことが成長の原動力となりました。しかし、テロ事件の影響による欧州旅行の低迷が直撃した形です。一時的な要素が強いとはいえ、業績に大きく影響しました。
HISの純利益の低下のもう1つの理由は、為替差損で68億円の営業外費用を計上したことにあります。為替予約等によるリスクヘッジを行なっていますが、急な為替変動によりカバーしきれなかった形です。USドルだけでいえば、14年末から急激に円安に振れました。また、16年頭からは急激に円高に振れています。海外市場を扱う企業にとって為替の影響は無視できません。HISでも為替の影響が直撃した形です。