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旅行大手HIS、衝撃の97%減益。好調JTBとどこで差がついたのか?

現在、激動の只中にあると言われている旅行業界。国内・海外問わず、各社が生き残りをかけて工夫を凝らしたツアーを販売しています。今回は、海外旅行に強いHISと国内旅行で圧倒的シェアを誇るJTBの大手2社にスポットを当て、無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、今の時代の旅行会社に強く求められている「エクスペリエンス・マーケティング」について詳述しています。

旅行大手HISが97%の減益。旅行業界の現状

こんにちは、佐藤昌司です。旅行大手エイチ・アイ・エスHIS)は12月9日、2016年10月期決算の純利益が前年同期比97.5%減の2億円と発表しました。売上高は2.6%減の5,237億円です。

HISの純利益が大幅に低下した理由は2つあります。

1つは、売上高の減少です。海外旅行は、テロ事件の影響による欧州旅行の低迷が影響しました。国内旅行は、熊本地震や台風・天候不良が影響しました。熊本地震の影響により、好調だったハウステンボスが振るわなかったことも影響しています。

HISの通期業績は、08年のリーマンショック以降、右肩上がりで成長してきました。09年10月期の売上高は3,250億円ですが、15年10月期は5,374億円です。両期間では65%の増加です。売上高は一貫して増加していました。

HISの旅行事業の8割以上を海外旅行」が占めています。特に「個人旅行」と「自由旅行」にフォーカスしてきたことが功を奏しました。このことは、「国内旅行に強い旅行最大手のジェイティービーJTBとの差別化となりました。ちなみに、JTBの国内事業の割合は8割以上となります。

JTBの国内旅行は一日の長があります。前身のジャパン・ツーリスト・ビューローは1912年に設立し、日本の旅行業の開拓を行ってきました。戦後は日本交通公社と名称を変え、ハード面を日本国有鉄道が担い、ソフト面を日本交通公社が担いました。1988年にJTBへ呼称を変更し、2012年に設立100周年を迎えています。

JTBは単に旅行パッケージを販売・斡旋するのではなく、旅行目的地を商品としてとらえ、滞在と空間までをコンテンツとして販売しています。従来の旅行業から一歩踏み込んで、地域の開発や地域交流を積極的に推進していきました。旅行を目的ではなく手段ととらえ、ストーリーのある旅を提案しています。

例えば、旅行商品「地恵のたび」では、町おこしに成功した地域を実際に訪ね、その成功事例を学ぶ旅行を提案しています。財政破綻にも負けずに奮闘している夕張を訪ねる旅行や、東日本大震災の復興で活動している企業・団体を視察するプログラム、「前どれ」と呼ぶ魚料理で島おこしに取り組んでいる島を訪れる旅行など、地域の文化交流を主眼とした地域交流型旅行商品を提供しています。

「感動の瞬間100選」では、その場所、その瞬間でしか体験できない「感動の瞬間を紹介しその瞬間の体験を目的とする旅行を提供しています。秋の北海道・白老町で観察できるサケの遡上を見る旅行や、冬の沖縄県・座間味村で開催されるザトウクジラのダイナミックなジャンプを見学するツアーなどがあります。

今の時代では、「モノ販売からコト販売へ」といった「エクスペリエンス・マーケティングの重要性が叫ばれています。旅行業でいえば、単に旅行パッケージを販売・斡旋するのではなく、ストーリー性のある体験を重視した旅行を提供する必要があります。JTBは特に国内旅行において、そういったエクスペリエンス・マーケティングの先端を走ってきたといえます。

JTBの業績は好調です。通期の売上高は、08~09年においてリーマンショックの影響で落ち込みを見せましたが、10年3月期以降は一貫して上昇しています。10年3月期の売上高は1兆1,212億円ですが、16年3月期は1兆3,437億円となっています。

国内旅行でトップを走るJTBに対し、HISは海外旅行において活路を見出してきました。前身のインターナショナルツアーズが1980年に設立しました。JTB設立の68年後です。HIS創業者の澤田秀雄氏は学生時代に50カ国以上を旅行した経験を持ちます。そうした経歴からか、主に海外旅行商品を販売してきました。

HISでは当初、従業員の入社試験では海外旅行20カ国以上に自由旅行で行った人でなければ面接しないという高いハードルを設定していたほどです。海外旅行を販売する際に、海外旅行経験者ならではのアドバイスや提案ができるようにするためです。

HISは結果としてJTBと差別化を図る形で、海外旅行商品の販売を強化していきました。そのことが成長の原動力となりました。しかし、テロ事件の影響による欧州旅行の低迷が直撃した形です。一時的な要素が強いとはいえ、業績に大きく影響しました。

HISの純利益の低下のもう1つの理由は、為替差損で68億円の営業外費用を計上したことにあります。為替予約等によるリスクヘッジを行なっていますが、急な為替変動によりカバーしきれなかった形です。USドルだけでいえば、14年末から急激に円安に振れました。また、16年頭からは急激に円高に振れています。海外市場を扱う企業にとって為替の影響は無視できません。HISでも為替の影響が直撃した形です。

今、旅行業界は激動期にあるといえます。2020年に東京オリンピックを控えています。政府は観光立国を目指しています。訪日外国人数を2030年に6,000万人にする目標を掲げています。日本政府観光局(JNTO)によると、2016年1月から10月までの訪日外客数は、前年同期比23.3%増の2,011万3,000人と、初めて2,000万人を突破したと発表しました。訪日外客数は増加傾向を示しています。国内旅行を強みとするJTBにとっては追い風になるといえるでしょう。

一方、同期間の出国日本人数は4.8%増の1,417万6,000人となっています。ここ数年の出国日本人数は、多少の変動はあるものの、おおむね横ばいで推移しています。これは、海外旅行を強みとするHISにとっては喜ばしくない状況といえます。

近年、旅行会社の必要性が問われる時代となってきています。ホテルやエアラインへの直接予約やインターネットによるオンライン予約の増加、ゼロコミッション化により、旅行会社を通さない旅行にシフトしています。ただ単に旅行パッケージを販売するだけでは生き残れない時代となっています。

HISの業績の悪化は、テロ事件の影響による欧州旅行の低迷や国内の地震や悪天候の影響、ハウステンボスの不振、為替の影響といった一時的なものだけではないと考えることができます。来期は最高益になる見通しを発表していますが楽観視はできません。先に挙げた経営環境の変化で競争が激化しているからです。JTBのように「体験」や「文化交流」といったエクスペリエンス・マーケティングを強めていく必要があるといえます。

日本にも海外にも、まだまだ知られていない場所、知らない体験は宝の山のように隠されています。それらを発掘し価値ある商品として提供することが、JTBとHISには求められています。単なる旅行の販売・斡旋ではない、価値創造産業としての真価が問われるといえそうです。

 

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店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業
著者/佐藤昌司
東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。
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