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アベノミクスの腐った果実。日本の空洞化はどうして筋が悪いのか?

近年、先進国の右傾化が問題視されていますが、その原因の一端は「空洞化の進行」と「過度のグローバリズム」にあると考えられています。そして、これらは決して他人事ではなく、日本の「空洞化」も年々深刻化しています。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では、著者でアメリカ在住の作家・冷泉彰彦さんが、「日本の空洞化は筋が悪い」と指摘。このまま放置しておけば、将来的に大変なことが起こると警鐘を鳴らしています。

日本の空洞化はどうして『筋が悪い』のか?

昨年は、英国での「BREXIT」(EU離脱)があり、米国での「トランプ現象」がある中で、先進国における空洞化への反省過度のグローバリズムによる空洞化への批判というのが湧き起こった訳です。

では、日本の場合はどうなのかというと、空洞化の進行というのは米国に負けず劣らずヒドいわけです。ですから、多国籍企業の跋扈を批判したり、あるいはトランプやサンダースのように「保護主義」を主張する部分があるのかというと、それは殆どありません。

例えば、アベノミクスというのは、円安誘導を露骨にやったわけですが、それで何故、株価が高くなるのかというと、徹底的に空洞化が進んだ日本では、海外で売上も利益も出ているので、特に主要な市場である北米でドルが高くなれば、そこで獲得した利益を円に換算して日本の「本社に連結決算すると膨張して見えるわけです。

もっと言えば、トヨタやソニーのように多国籍化した企業の場合は、株価の形成もNYSEでドルで決まるわけで、円安になれば自動的に東京の株価は上がる仕組みです。ですから、80年代までの日本のように、円安になれば輸出産業が儲かるというビジネスモデルでは「もうない」のです。

では、製造の現場などをもう一度日本に差し戻せという「保護主義運動がどうして起きないのかというと、一つには「終身雇用契約のある正社員」という身分の人間は、海外を含めた連結で利益が出れば基本的にメリットがあるわけですから、反対する理由はないということが言えます。

もう一つには、現時点で基本的に「人手不足」である日本国内では、サービス産業を中心として雇用が提供できているので、例えば「国際競争力のある、従って安い労賃」での「製造業」が国内回帰しても、そんなに喜ぶ人はいないわけです。

では、日本の空洞化は必然であり、反対する理由はないのかというと、私はそうは思いません。というのは、日本の空洞化は筋が悪い」からです。どういうことかというと、自動車産業がいい例ですが、日本の空洞化は「製造拠点を外に出す」段階は既に十分に進んでおり、現在は「先端部分を外に出す」というプロセスになっているからです。

自動車産業はR&Dを外に出し、ITはシリコンバレーとの協業に走り、一部の製造業は事務部門の本部機構を準英語圏に出すなど、頭脳労働・意思決定に近い中枢の部分がどんどん外に出ていく時代になっています。

これは大変なことで、このまま行けば、日本は観光立国とか福祉国家といえば聞こえはいいものの、サービス業中心の低付加価値労働だけが残った国になってしまうからです。

多国籍企業にしても、最終的に超円安になってしまえば、ドルでの出資が増えていって、気がついたら多くの主要産業が「元は日本企業」だったものが、過半数以上のオーナーシップは国際化ということにも、なりかねません。そうなれば、内部留保を日本に還元などということも消えてしまいます。

今年はこの問題を皆さまと考えていきたいと思っております。

image by: Shutterstock.com

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。「ニューズウィーク」日本版にてコラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」を連載。また、メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。

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