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中国が日本の「港」を爆買い。豪華クルーズ船は「宝船」になるか?

買い物を楽しむためにクルーズ船で日本を訪れる外国人観光客が激増しています。その勢いはとどまることを知らず、政府はこれまでの「2020年までに100万人のクルーズ旅客を呼び込む」という目標を、5倍の500万人に上方修正しました。これらの動きを受け、無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、「外国人客の訪日クルーズ旅行」が我が国の経済を救う起爆剤となり得るのかについて、ご自身の見解を記しています。

大クルーズ時代の到来。クルーズ船は宝船となるのか

佐藤昌司です。クルーズ船発の爆買いが日本経済を救うかもしれません

今、訪日クルーズ旅行が脚光を浴びています。政府は訪日クルーズ旅客を2020年までに500万人にする目標を掲げました。当初の5倍にもなる数値に引き上げた形です。

政府は当初、「クルーズ100万人時代を2020年に達成する目標を掲げていました。訪日クルーズ旅客は、2013年は約17.4万人にすぎませんでしたが、2014年は約41.6万人に急増し、2015年には前年比2.7倍の約111.6万人にまで増加しました。5年前倒しで目標の100万人を達成しています。2016年も好調で、11月までのクルーズ船の寄港回数は前年比で38%増としています(国土交通省港湾局発表速報値)。

観光産業は世界的に成長しています。国連世界観光機関(UNWTO)によると、2015年の国際観光客は11億8,400万人で、前年比4.4%増となっています。また、世界のクルーズ人口は大きく増加しています。港湾局によると、2012年の世界のクルーズ人口は2,255万人としています。2010年は2,116万人で、2000年からの10年間での比較では、2倍以上に増えています。

クルーズ旅行は短時間で多様な経験ができることが魅力です。今の時代の特徴でもある、所得は増加したが余暇は減少している人が楽しむことができるレジャーとなっています。一方、クルーズ旅行というと「豪華で高額」というイメージが根強いと思われますが、近年では1人1泊1万円程度の低価格のものもあり、クルーズ旅行の格安化が進んでいます

クルーズ旅行による経済効果は非常に大きなものです。大型クルーズ船にもなれば、寄港地における経済効果は1人あたり3~4万円にもなるという試算があります。母港(発着地)であれば効果はさらに大きなものとなります。

現在、中国を中心とした東アジアから九州を訪れるクルーズ旅行が過熱しています。2015年では博多港と長崎港が前年首位の横浜港を寄港回数で上回りました。東アジア経済の急成長により、東アジア発のクルーズ旅行が活発化しています。九州は東アジアからのアクセスの面で優位性があるため、他の地域と比べてクルーズ船の寄港が大きく増加しています。

日本の観光産業では中国人による「爆買い」が注目されています。観光庁によると、2015年の訪日外国人1人当たりの旅行支出は、全体では約17.6万円ですが中国籍では約28.4万円にもなります。中国籍が他を圧倒している状況です。

クルーズ旅行でも中国人による爆買いは健在のようです。中国のクルーズ旅行は、2005年にイタリアのコスタ・クルーズ社が参入したことで脚光を浴びるようになりました。その後、外資系のクルーズ会社が続々と参入していきました。それに合わせて、中国発のクルーズ船が日本の港に大挙して押し寄せるようになりました。

2,000~4,000人程度を乗せるクルーズ船が博多港を中心に寄港します。その後、乗客は福岡の中心街に移動し、総合免税店「ラオックス」や衣料品店「無印良品」、ドラッグストア「マツモトキヨシ」といった店で買い物をします。1人当たり数万円数十万円といった規模で爆買いをします。

現状の中国人によるクルーズ旅行は、観光というよりも買い物の要素が強いようです。経済の波及範囲は限定的で、観光資源が十分に生かせていない状況です。ツアーに組み込まれていない観光地は恩恵を受けていません。弾丸ツアーの様相を呈しているため、飲食需要も限定的です。宿泊は船上で済ませるため、宿泊需要も見込めない状況です。

今後は日本の観光スポットのアピールの強化が欠かせないでしょう。日本には誇るべき観光資源がたくさんあります。また、日本は海洋国家のためクルーズ旅行に適している国といえます。例えば、日本の世界遺産はクルーズ船でも訪れることができる所に数多くあります。知床は網走港、富士山は清水港、日光は茨城港、京都は舞鶴港、原爆ドームは広島港といったように、寄港地からのアクセスが容易な世界遺産が数多く存在します。もちろん、世界遺産以外の観光地も豊富です。クルーズ旅行の潜在的な需要は大きいといえるでしょう。

一方で課題も数多くあります。煩雑な入国審査や受け入れ態勢の未整備、免税店の不足、環境の問題などが挙げられます。例えば、奄美大島・龍郷町では、中国人クルーズ客向けのリゾートパーク構想が地元住民の反対で白紙となりました。

龍郷湾を守る会によると、米国大手のロイヤル・カリビアン・クルーズ社が龍郷町に港湾施設や観光施設を建設し、世界最大級のクルーズ船を上海、奄美大島、九州、北京の日程で運行する計画を立てていました。クルーズ船は22万トン級、全長363mが想定され、世界最大級の原子力空母ニミッツ級10万トン、全長330mよりも巨大なものです。

龍郷町の住民は約6,000人です。クルーズ船が寄港した場合、中国人を主とした約5,400人の観光客と約2,100人の乗組員が押し寄せることになります。環境破壊や生活環境の悪化、人的な受け入れ態勢の未整備といった理由により受け入れは不可能といいます。

このことは、訪日クルーズ旅行における問題点を浮き彫りにした出来事だったといえるでしょう。訪日クルーズ旅行の需要は急激に高まっていますが、ソフトとハードの両面が追いついているとはいえない状況です。

しかし、こうした問題点を解決することができれば、訪日クルーズ旅行は日本経済回復の起爆剤になる可能性があります。政府が掲げる「地方創生」の実現も可能です。港湾周辺地だけでなく、内陸部の観光地にまで観光客を引き込むことができれば、ショッピングに限らず、食事や宿泊といった消費活動が広まり、地元経済の活性化に繋がります。入港料や着岸使用料といった税収の伸びも期待できます。

政府はクルーズ船による訪日外国人旅行者数の急増に対応するために、2016年7月に改正港湾法を施行しました。旅客施設等の建設に無利子貸付制度を適用するなど、クルーズ船寄港促進のための環境整備を進めるなどしています。

日本のクルーズ産業は緒に就いたばかりです。課題は山積しています。一方、クルーズ船は財宝を積んだ宝船といえます。クルーズ時代の到来は、日本の観光立国化に大きく貢献する可能性を秘めているといえそうです。

image by: wdeon / Shutterstock.com

 

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著者/佐藤昌司
東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。
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