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先見の明あり。なぜ「スギ薬局」は業績右肩上がりを続けられるのか?

不況の中、多くの小売業は「値引き」というカードで戦わざるを得ない状況になっています。今回のメルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』では、メルマガ著者で、Amazonの元マーケティング・マネージャーという経歴を持つMBAホルダーの理央周さんが、快進撃を続ける「スギ薬局」の強さの秘密に迫ります。値引きというありふれたカードとは違うスギ薬局独自の強みとは一体…!?

業績好調のスギ薬局に学ぶ理念の実践法

私の地元、愛知県に本社を置くスギホールディングス傘下の、スギ薬局が元気だ。

平成29年2月期の連結業績を下方修正したものの、平成24年から比較しても、毎年連続して売上営業利益ともに伸ばしている

今年は創業40周年で、昨年は愛知県安城市に新物流センターも創設。スギ薬局の社長は、今年3月1日付で、創業者でスギHD会長の広一氏の長男の、杉浦克典常務を昇格させる人事を決めた。(日本経済新聞より)

伸び悩んでいるデパート各社に限らず、多くの小売業が集客や値引き合戦に苦戦する中、スギ薬局が伸びている理由を考えてみたい。

スギ薬局の強さと経営理念

スギホールディングス杉浦広一会長は、2016年12月26日付の日経MJでのインタビューで、「会社が強く長生きするための条件は何か?」という質問に、「理念を継承するために一丸となれるかどうかだ」と答えている。

ホームページには、「私たちは、社員一人ひとりの幸福、お客様一人ひとりの幸福、そして、あらゆる人々の幸福を願い、笑顔を増やします」という経営理念が掲げられている。

多くの企業が、経営理念を掲げている。

そして、理念の重要性も認識している。

しかし、それらの企業が、持続的に業績を向上させられるとは限らない。

その理由の多くは、企業理念を実践できないからだ。

理念を掲げその実践をして初めて社会と顧客に貢献ができる、と杉浦会長が言っているのはそのためであろう。

どんな企業でも、全社員がいきなり理念を具体化し、実践することは難しい。

スギ薬局では理念を戦略的な方針に落とし込み具体的な施策として実践している。

コンセプトがあって初めて理念を実践できる

まず大分類の戦略のひとつとして、「かかりつけ薬局」である、というコンセプトを掲げている。

お客様一人ひとりの笑顔を、という理念において、丁寧にカスタマイズしたサービスを提供するのだ、というコンセプトを「かかりつけ」という言葉で表現している。

会長の杉浦光一氏は、

「医者にかかる前に、身近にあるドラッグストアで、気軽に健康相談や検診を受けてほしい」

「医者へ行ったら、門前薬局ではなく、自宅や職場から近い“かかりつけ薬局”に処方箋を持って行き、薬の重複や飲み残しを減らしてほしい」

と、東洋経済オンラインでのインタビューで答えている。

その背景には、

「当時の薬屋は、他社よりも安くして儲けようというのが一般的で、かかりつけ薬局という考え方はなかった」

ということがあったとも振り返っている。

今でも、自宅の近所には開業医のお医者さんがいて、私と家族にとってはなくてはならない主治医さん、いわば“かかりつけのお医者さん”である。

ちょっと熱が出た、インフルエンザの予防注射などで相談にいき、手術や入院が必要だと、大病院に紹介状を書いてくれるのは、かかりつけのお医者さんである。

ということは、同じように、「かかりつけの薬屋さんがあってもいい、というのが、スギ薬局のコンセプトなのである。

ホームページの上部のロゴの横に、

もっと近くにずっと頼りにあなたの笑顔のチカラになる

とある。

かかりつけ、というコンセプトを、この一文に明文化して、社員に、そしてホームページへの訪問者、そして顧客に、メッセージとして発信している。これは名刺の裏にも書かれているとのことだ。

私の地元・名古屋にも、各所にスギ薬局とスギドラッグがある。

私のオフィスの近くの地下鉄の駅にも、大きな交差点を挟み、スギ薬局とスギドラッグがある。地下鉄の主要な駅の多くに、このどちらの業態でも出しているのも特徴的である。

店内に入ってみて共通するのは、元気があり明るい店内だ、ということ。

「いらっしゃいませ」という一声も、商品の陳列棚にある説明用の、手書きのPOPにも、勢いがあるのだ。これが居心地の良い店舗にしている。

この点は名古屋ビジネスの特徴でもある。

地元、地域を大事にする名古屋人は、一見、「一見さんお断り」的な雰囲気を醸し出すが、その実は、一度懇意になった方を大事にする

入口は狭いが奥行きが広い」のが、名古屋ビジネスの特徴なのだ。

もう1点の共通点は、品揃えにある。

コスメやドラッグ類に加えて、食品や菓子類も共通して売られているが、「調剤薬局」が店舗内にある。

2000年の上場当時は、調剤の売り上げが200億円ほどで、アナリストからも「儲からない」と言われていたそうだ。(前述の日経MJのインタビューより)

しかし、健康志向の高まりや医薬分業の政府方針により、それこそ、調剤薬局が生活者にとって身近になってきている。

その中で、一般薬局またはドラッグストアの店舗内に調剤薬局があるという利便性は顧客には価値がある
17年前の視点には、先見性があったのであろう。

このほかにも、愛知県のみでなく東京などでも、健康増進フェアを開催している。

いわゆる店頭で顧客が実際に何かをする「体験型イベント」だが、これも地域密着で、社員が来店客と接する良い機会になる。

中小企業はスギ薬局から何を学ぶべきか?

店舗に調剤を設置、元気のいい接客、体験型イベント、効率の良い物流の仕組み…一つ一つをとってみると、「なんだ、うちの会社もやっているよ」と感じるかもしれない。

しかし、どれも経営理念にぴったりと沿った施策である。

前述したように、理念を社内で徹底し、実践することは容易ではない。

社長だけが分かっていても、なかなか従業員に浸透させるのは難しいのだ。

毎日、理念を唱和することも重要だが、スギ薬局が掲げる「かかりつけ」のように、理念を実現するための事業コンセプトを固めることが重要である。

次に、コンセプトを具体化するための戦略を立てる。

企業としての中長期的な「方向性」「方針」になる。

自社だけが提供できる市場性があるコトに向ける

ここまで固めた上で、具体的に何をするのか?という、すなわち戦術を決めていく。

日々の仕事に追われていると、短期的な利益を求めるための戦術論に終始しがちである。

しかし、戦術の選択肢は星の数ほどある。

その中から、自社にとって最適な先日を選ばなければ、投資対効果も上がらない。

理念コンセプト化戦略戦術というステップで徐々に落とし込んでいく

中小企業にとって、日々の業務がある中で困難ではあるが、四半期に一度は理念を振り返り戦略を練り直すことが重要なのである。

image by: Wikimedia Commons

 

理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』より一部抜粋

著者/理央 周(めぐる)
あのヒット商品はなぜ「ヒット」したのか? あのレストランの予約は、なぜいつも取れないのか? 世の中で「売れているモノや人気者」はなぜヒットするのでしょうか? 毎号実際の店舗や広告を取り上げ、その背景には、どんな「仕掛け」と「思考の枠組み」があるのかを、MBAのフレームワークとマーケティングの理論を使って解説していきます。1.「中小企業経営者・個人事業主」が売り上げを上げる 2.「広告マン・士業」クライアントを説得する 3.「営業マン」が売れない病から脱するためのメルマガです。
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