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次の敵は石原慎太郎。「小池劇場」第二シーズンの絶妙なシナリオ

豊洲新市場問題を巡り、石原元都知事の責任を追求する姿勢を明らかにした小池東京都知事。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんはこの動きに対して「もちろんいいことだ」と評価する一方で、石原氏が豊洲のすべてを任せていたという当時の副知事からこれまで一切ヒアリングしてこなかった小池知事の姿勢を疑問視、その正体について「本当に都民を第一に考える政治家なのかよくわからない」としています。

小池勧善懲悪劇の悪役・石原の狼狽とその腹心の嘆き節

東京都の小池知事が、豊洲問題の元凶である石原慎太郎の責任を問う動きをしている。もちろん、いいことだ。

豊洲市場について「汚染された土地を購入したのは違法だ」と、都に対し「石原元知事に土地代金約578億円を請求すること」を求めた住民訴訟。小池知事は、これまで石原氏に賠償責任はないと言い張ってきた都の方針をあっさり変え、石原追及の姿勢に転じた

さすがというべきか。まず小池知事は公開ヒアリングを自尊心の高い石原氏に求めた。予想通り拒否されると、今度は質問状を送りつけた。中身のない書面が返ってきた。これも想定通りだ。

小池氏は決して密室で石原氏に会うようなことはしない。それでは「勧善懲悪劇にならないからだ。手にした石原氏の回答書を定例会見の場で紹介するだけで、ひとまず十分だった。

自分は聞いていない、記憶にない、分からない、覚えていない、といったような回答でした。都合の悪いことを、むしろ今、私どもにお伝えいただかないと、明確な答えにつながっていかないんじゃないか。作家生活、何よりも都知事を続けてこられた御功績を無になさらないようにしていただきたいと、強く思っております。

そして、いよいよ繰り出した奥の手が、訴訟対応の変更だ。それまでの都側の3人の弁護士を解任し、6人の新しい弁護士に総入れ替えした。その発表のさい、原告側から石原氏へ証人尋問の要求があることについて記者から考えを問われ、小池氏は答えた。

どう対応されるのかは石原さんの判断ですが、(土地購入に関して)どのような決断をしてきたのかは明確にするべきです。今まで逃げている印象があるのは不満がおありでしょうし、石原さんらしくないのでは。

それにしても、訴訟対応の方針を大転換したタイミングは、絶妙というほかない。

東京都議会選挙は6月23日告示、7月2日投開票である。これを見据えて石原氏を追い詰めていくというシナリオは抜群のアイデアだ。

小池劇場の新しい場面を仕立てようという選挙戦略が透けて見える。大悪人を退治する正義の女剣士。第一幕では内田茂氏ら都議会自民党の面々や、自民党都連の幹部たちが、小池氏にぶった切られる敵役だった。

これから夏に向かうシーンで悪役となるのは、もちろん石原慎太郎だ。小池氏は裁判をうまく利用し、弁護団を総入れ替えして、舞台をしつらえた。

ところがその舞台に、シナリオに書いていない闖入者がノコノコ現れた。石原慎太郎の腹心だった元東京都副知事浜渦武生だ。

いつも微笑をたたえる小池知事が渋面をのぞかせたのは、2月3日の定例会見で、「浜渦さんからヒアリングする考えは」と質問されたときである。

浜渦氏は、石原氏に丸投げされて豊洲の土地交渉を一手に引き受けていた男だ。石原氏より彼に聞くほうが、よほどよく事情がわかるだろう。実際、石原氏は回答書のなかで、「私自身は交渉に全く関与しておりません。全て浜渦に任せておりました」と述べている。

なぜ、その名が唐突に出てきたかというと、その前日、浜渦氏が名古屋のCBCテレビ「ゴゴスマ」に出演し、豊洲問題や、小池知事との関係などについて長々としゃべっていたからだ。キーパーソンが小池知事誕生後初めて民放の情報番組で口を開いたのである。

「ゴゴスマ」の録画を見て、謎がひとつ、解けた気がした。

豊洲市場のいきさつを調べるなら、誰よりも真っ先に浜渦氏に聞けばいい。旧知の仲である小池氏が、浜渦氏から情報を得ている様子がないのはどういうことか。そんな疑問があった。

小池都知事が初登庁日に都議会各派をあいさつ回りしたさい、テレ朝の記者が浜渦氏の姿を見て「石原都政で副知事をつとめた浜渦さんも同行しました」と報じた。

てっきり浜渦氏が小池のあいさつ回りに付き添っていたのだと思った。が、そうではなかった。

浜渦氏がたまたま別の用で議会棟の廊下にいたとき、小池氏がたくさんの人を引き連れて通りがかった。小池氏は「あら、ここにいたの」と声をかけ、浜渦氏と握手を交わした。浜渦氏は「東京都のこと何でも聞いてね」と言ったという。

ただし、こんな偶然があるだろうか。おそらく、浜渦氏が小池氏に接触をはかったのだろう。

そう思うわけは、「ゴゴスマ」で浜渦自身が語った話に、小池氏への執着心を感じたからである。

自公の都知事選候補者が決まる前のこと。候補者選定をめぐって自民党都連の役員会が午前中に開かれた日の午後、浜渦氏は小池氏に会ったという。小池氏は愚痴をこぼした。

「下村さんが出てるのよ。私だけ呼ばれないの。都連の会長、幹事長はひどいわね」。下村博文も当時は候補者の一人として名前が取りざたされていたのである。都連会長はもちろん、石原伸晃氏だ。

浜渦氏がそれを石原慎太郎に伝えると、「いや違うんだ。伸晃の話では、案内したけど小池だけ出てこないんだ」と言う。

その後、小池氏は周知の通り、都連や都議会自民党をブラックボックス呼ばわりして出馬し、当人も驚くほどの大勝利を手にする。

だが最初から旋風が巻き起こったわけではない。選挙期間中、小池氏から浜渦氏の携帯に数回、着信があったという。浜渦氏は出なかった。よもや小池氏が勝つとは思わずあえて接触を避けていたのかもしれない。

小池氏が圧勝し、さぞかし浜渦氏は電話に出なかったことを悔やんだにちがいない。都議会の廊下をうろうろしていたのは、知事になった小池氏に接触をはかりたかったからであろう。ところが、思いのほか、その後の小池氏は浜渦氏につれなかった

浜渦氏は今年に入って小池氏に二度、会う機会があった。話しかけようとしたが、小池氏にそっぽを向かれてしまった。小池氏が豊洲に関して話を聞きたいと言ってくれれば、喜んで飛んで行きたかったが、いまに至るまで何も聞かれていない。「さびしい」と浜渦氏は言う。

小池氏は知事になったとたん、浜渦氏に用はなくなった。本来なら石原都政の全てを知り尽くした浜渦氏から真っ先に豊洲問題などについて真相を聞くべきだろう。だが、それで終わってしまっては、小池劇場が成り立たないということか。

どちらも、ずいぶん勝手なものだ。浜渦氏は、いつまでたっても小池氏からお呼びがかからないので、しびれを切らして民放の番組に出演したのだろう。

小池氏は、テレビで余計なことをしゃべる浜渦氏のことがよほど癪にさわったにちがいない。「浜渦さんからヒアリングする考えは」という記者の質問に対し、こう語った。

思い出すのは、(浜渦氏は)参議院時代に私の部屋に来て、兵庫県から衆院の選挙には出ないでねという趣旨のことをおっしゃいました。選挙のことで私自身がお願いしたことはない。それをあたかも頼まれたかのように仰っているのは浜渦流だ。いずれにしてもキーマンでしょう。どんどん発言すればいいのではないでしょうか。

豊洲について浜渦氏からヒアリングするか、との問いには全く答えず、選挙のことなど、皮肉まじりに違う話をする。これはどういうことだろうか。いまさら、浜渦氏とともにテレビカメラの前に出ることなどしたくないからではないか。

二人が知り合ったのは、「石原慎太郎を総理大臣に」と意気投合した小池氏の父、勇二郎と浜渦氏の縁がもとである。秘書として、副知事として、石原氏に仕えた浜渦氏を味方につける気など今やまったくないのであろう。

小池氏は自民党東京都連会長として自分の出馬を冷たくあしらった石原伸晃氏への怨念を父慎太郎氏にぶつけるためにも、当選したその日から、浜渦氏と距離を置き始めたのかもしれない。

盛土がなぜ施されなかったかなど、浜渦氏なら知っているに違いないことが多いにもかかわらず、調査を有識者会議やプロジェクトチームに丸投げし、自ら浜渦氏らにヒヤリングをしてこなかったのである。これだけはどうにも解せない。

小池氏と内田茂氏との「代理戦争」といわれた千代田区長選は小池氏が圧勝した。内田氏は引退の意向を固めた。

この勢いでいくと、都議選で小池氏率いる地域政党「都民ファーストの会」が60人以上の候補者を擁立して、一気に最大会派にのしあがる可能性が高くなった。

都議会の豊洲市場移転問題特別委員会は石原慎太郎や浜渦氏を参考人招致することを決めた。小池氏に議員たちがいっせいになびいている。

ただ、小池氏の正体については、いまだよくわからない。正義という商品をマーケティングする天才か、それとも本当に都民のことを第一に考える政治家なのか。

安倍首相との仲を保ち、既得権の守護集団である自民党に党籍を置いたまま、東京大改革を唱える小池氏の二面性には不可解な点も多い

都政の悪を暴き出した功績は認めよう。だが、まだ我々は小池都知事の行政手腕を見せてもらっていない。さしずめ豊洲に移転するのかしないのか。これをどうさばくかで、当然のことながら評価は変わってくる。

image by: 東京都公式ホームページ

 

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