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「フィンテック」ブームの震源地・米国で懸念されるバブル崩壊

最近、頻繁にメディアで見かける「フィンテック」(Fintech)という言葉をご存知でしょうか?これは 金融(finance)と技術(technology)を合わせた造語です。ネットバンキングの活用やスマートフォンを使った決済アプリなどは日本でも進んでいますが、NY在住で『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』の著者・りばてぃさんによると、「フィンテック」の本場・米国では現在、日本以上に「フィンテック・ブーム」の様相を呈しているようです。今回のメルマガでは、米国内のフィンテック活用事例や注目の企業・サービスなど、米最新フィンテック事情を紹介しています。

世界的フィンテック・ブームの震源地はアメリカ

(1)最近よく聞くフィンテック

ここ数年、欧米先進諸国だけでなく中国やインドなどでも、金融(finance)と技術(technology)を掛け合わせた『フィンテック(Fintech)』という新語が、突如、注目を集めている。

皆さんの中でもニュースで見聞きするようになったなぁと感じられている人はいると思う。

直近のニュースでも、例えば、三井住友フィナンシャルグループ(FG)が今春、アメリカのシリコンバレーに拠点を開設し、「フィンテック」分野のサービス開発につなげるという報道が出ている。

(ご参考)
三井住友FG、シリコンバレーに拠点 フィンテック強化

他にもフィンテックでニュース検索すると様々なニュースが出てくる。

ブログでNYナンバー1のシェイク・シャックのモバイル用アプリを紹介したが、そういったアプリやEコマースなどでのネット決済はフィンテックが関係しており、皆さんの日常とも何かと関りが出てくる分野なので、一旦、その背景などをまとめておこう。

フィンテックという言葉自体は、すでに米国では2000年代に一般化していたが(2003年に金融誌アメリカン・バンカーが年次企画「TOP 100 COMPANIES IN FINTECH 」を掲載したのがはじまりとの説あり)、ここまで広く認知され、普及したのは2010年代になってからだ。

転換点は、2013年5月に実施された大手IT企業GoogleによるP2Pレンディングの大手のレンディング・クラブ(Lending Club)への投資だろう 。

P2Pレンディングとは、ネット上で『お金を借りたい人、企業』(ボロワー)と『お金を貸したい人、企業』(レンダー)を結びつける融資仲介サービスでソーシャルレンディングとも呼ばれる。

このGoogleからの投資も含め、総額2000億円もの資金を得ていたレンディング・クラブ(Lending Club)は、その後、株式公開(IPO)に向けた準備を本格化(2014年12月10日にIPO成功 )し、金融と最新テクノロジーに関連した様々な話題が以前に増して世間の注目を集めるようになっていった。

また、ほぼ同時期にスクエア(Sqiare)、オンデック・キャピタル(OnDeck Capital)、ショッピファイ(Shopify)などのベンチャー・キャピタルから支援を受けてきた複数のスタートアップ・フィンテック企業が相次いでIPOに成功した影響もあり、一部の金融・IT業界はフィンテック・ブームに。

2015年中頃には、経営専門誌で「なぜフィンテックが今最も有望な産業の1つなのか(Why Fintech Is One of the Most Promising Industries of 2015 )」などと報じられるようにもなった。

フィンテックが有望視される理由は多々あるが、最もシンプルで分かりやすい理由は、「1998年にペイパル(PayPal)が誕生して以降、2014年にレンディング・クラブがIPOに成功するまでの約20年もの間、誰も米国金融界に改革をもたらせなかった」というものだろう。

つまり、規制に守られ、消費者心理もより保守的な金融業界は、米国においてもベンチャー企業や技術革新からほとんど手つかずのまま放置されてきた。

しかし、そんな金融業界にも、各種技術の進歩を背景にハードウェアや通信関連のコストが激減し、ビッグ・データ活用や人工知能の開発も進み、スマートフォンでSNSやEコマースを使いこなすミレニアル世代が社会の中心になってきたこと等々による変化が起ころうとしている。

これまで放置されてきた分、より大きな成長のチャンスがあると考えた投資家も多く、ベンチャー・キャピタルからフィンテック関連企業への投資額は、2014年に全世界で122億ドルへと爆発的に増加した。

これは前年2013年から3倍超となる急増であり、2009~2013年の過去5年分の投資総額(125億ドル)にほぼ匹敵する水準であった。

なお、以前から当該投資額の大部分は米国内向けで、2014年もその8割弱が米国内向けになっている。つまりフィンテック関連情報は米国のものが最も信頼性が高い

また、その翌年の2015年もベンチャー・キャピタルからフィンテック関連企業への投資額は増え続け、全世界で191億ドルに達した。

(2)多種多様なフィンテック関連企業

上述のような経緯から、現時点ではフィンテック関連企業には金融やITに関わる様々なジャンルの膨大な数の企業が含まれるため専門家や業界関係者でもその全容を把握するのは極めて困難な状況になっている。

例えば、関連報道をもとに主なジャンルだけ見てみても:

【1】デジタルやモバイル決済
(Digital & Mobile payments)

【2】ビットコイン他仮想通貨
(Bitcoin & Cryptocurrency)

【3】資本市場と投資
(Capital Markets & Investing)

【4】銀行業務と企業ファイナンス
(Banking & Corporate Finance)

【5】ビッグデータ分析
(Big Data & Analytics、信用調査関連企業も含む)

【6】ファイナンシャル・プラットフォーム
(Financial platforms)

【7】クラウドファンディング及びP2Pレンディング
(Crowdfunding &peer-to-peer lending)

【8】個人向けファイナンシャル・マネジメント
(Personal financial management)

【9】ブロックチェーン技術
(Blockchain technology)

・・・など、金融やITに関わる様々なジャンルが存在する。
この主な9つのジャンルをまとめた業界マップのようなイメージ図は多々あるが、出典元が違うと別のジャンルに含まれることがあるなど必ずしも同じになっていない。

「ビッグデータ分析」のジャンルには、例えば、Contix、1010 Data、ZestFinance、feedzai、Eagle Alphaなどの信用調査に関連する企業が含まれている業界マップもあれば別の調査レポートになるとこれらの企業は他ジャンルに含まれることもあるなど多種多様となっている。

(3)信用調査のための新たなデータの活用

冒頭のレンディング・クラブの事例からも明らかなとおり、様々なフィンテック関連企業の中でも「P2Pレンディング」は、特に注目の事業領域とみなされている。

2015年6月、モルガン・スタンレーの調査部門は、「P2Pレンディング」に牽引され国際的な現金融資市場(Global marketplace lending cash)の年平均成長率は、2010~14年まで123%2014~20年まで51%の高成長を維持するとのレポートを発表 。

また、その1年後の2016年6月にも、ニューヨークに本拠を持つ金融専門ウェブ・メディアのレンディング・タイムズ(LendingTimes)が、このモルガン・スタンレーの予測値を引用したうえで、「P2Pレンディング」などの新たなレンディング手法の普及を背景に、これまで一般的だった伝統的な信用調査向けのデータではなく、それに代わる新たなデータ(“non-traditional” data、Alternative dataなどと呼ばれる)の活用が重要になるのは当然だと指摘する特集記事を掲載 。

その他にも、ビッグスリー(Experian、Equifax、TransUnion)が調べないより広範なデータが重視される可能性を報じる記事も報じられている。

それらによると、社会人1年目や外国からの留学生などのほか様々な理由から、伝統的な信用調査向けのデータが不足している人でも、今や多くの人々がスマートフォンを所有し、オンラインで電話代や公共料金を支払い、Eコマース・サイトでショッピングし、Eメールやソーシャル・メディアを活用している。

そのような活動の多くは、デジタル・データとして記録が残る。英語ではこの記録をデジタル・フットプリントなどとも呼ぶ。

こうしたデジタル・フットプリントを、「P2Pレンディング」という新しい融資手法における新しい信用調査向けデータとして活用する動きが急速に拡大中。

すでにそのために役立つウェブサービス、例えば、アカウント上から各種料金支払い記録などを確認できる会計管理ウェブサービスのクイックブックス(Quickbooks)やペイパル(Paypal)や、その他オンライン・バンキング口座なども多数存在する。

これらの新たなデータや、個人のEメールやソーシャル・メディア・アカウントの履歴などの情報も含め、信用調査向けのデータとして活用する企業として、例えば、レンドゥー(Lenddo )やマイクロビルト(Microbuilt )などが存在する。

こうした新たなデータを活用する信用調査会社は、その精度を高めるため様々なデータを組み合わせ、独自の分析手法で審査を行う。

例えば、レンドゥーは12000もの項目で新たなデータを収集、分析するとのこと。

ただし、これらの企業が実際にどのように様々なデータを組み合わせ、独自の分析手法で審査を行っているかは企業秘密のため明らかにされていないが、レンディング・タイムズの報道では、すでに広範な領域で新たなデータの収集と分析が行われているとのこと。

また、2016年11月に公開されたマッキンゼー社調査レポート(Bracing for seven critical changes as fintech matures )によると、国際的に事業展開する金融情報とデータのプロバイダーのIHS Markit社の株価は、2015年10月から2016年10月までの12ヶ月間で年率20%も上昇。

フィンテック関連企業への注目が高まったことにより、国際的に活動する金融情報やデータの専門業者の評価の高まりにつながっている模様だ。

なお、IHS Markit社の2016年の1年間の株価の推移については年率36%上昇となる見込み。

(4)フィンテックに関する懸念点

突如、急激に注目を集めることになったフィンテック関連企業だが、早くもバブル状態、あるいはすでにバブルが弾けたとの指摘も出てきている。

2016年6月、経済誌フォーブスが「代替レンディングは既にバブル状態にあり、何かすべき」と題する記事を掲載。

フィンテック業界は供給過剰に陥っており、新規顧客の確保コストが、従来の100 basis points (1%)から過去18ヶ月ほどの間に高騰して3~5%になったなどと報じている。

このような状況を反映してか、ベンチャー・キャピタルからのフィンテック関連企業への投資額も2016年第一四半期以降は減少傾向へ 。

ただし、今後も引き続き、フィンテック関連企業の動向には要注目となっている。

今回は細かすぎるので、各フィンテック企業ごとの動向には触れていないが、また何かの機会に触れることになるだろう。

image by:Shutterstock

 

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ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。読んでハッピーになれるポジティブな情報や、その他ブログで書けないとっておきの情報満載のメルマガは読み応え抜群。

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