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【書評】倒産寸前の小さな航空会社を救った、団塊世代社長の奇跡

経営破綻寸前と言われた地方の弱小航空会社を、見事立て直した社長がいます。就任当時、社員の間に明るさもやる気もなかったこの会社を、彼はどのような方法で成功に導いたのでしょうか。無料メルマガ『ビジネス発想源』では、そんな社長・奥島透氏が著した「元気の出る」書籍を紹介しています。

問題解決はエンタメで

最近読んだ本の内容からの話。

日本航空の熊本支店長を務めた奥島透氏は、JAL航空機整備成田の社長を務めた後、2007年、日本航空グループを退職した。その奥島氏に2009年、天草エアラインの社長就任への誘いがあった。1998年に熊本県で設立された天草エアラインはプロペラ機が1機しかない小さな航空会社で、搭乗率は50%を切り、経営状況は悪化し、間違いなく経営破綻するという会社だった。

しかし、奥島氏はJAL熊本支店長時代に営業活動で何度も訪れた天草の美しさと出会った人たちの優しさに惚れ込んでいたので、経営状態は最悪だがチャレンジしようと考え、2009年6月に天草エアラインの社長に就任した。

奥島氏が出勤してみると、社員たちから明るさやヤル気をほとんど感じなかった。聞くと、それまでの同社の歴代の社長は熊本県庁のOBが、普段は熊本市内におり、必要な時に天草に来るという非常勤だったという。

奥島新社長はまず、社長室の壁を取っ払い、社長の席にはほとんどいないというぐらいに現場に出て社員たちと言葉を交わしていった。社長自ら客室クリーニングや荷物の保安検査などを毎日手伝い、ミスの原因を見つけては対策を徹底した。奥島氏の様々な改革によって、天草エアラインは社長就任1年目から黒字の転換に成功した。

2010年、かつて「くまモン」を生み出したり映画『おくりびと』の脚本を手掛けたりした天草出身である放送作家の小山薫堂氏が、天草エアラインの非常勤取締役に就任した。天草エアラインは長年の厳しい財政事情により、唯一保有しているプロペラ機「みぞか号」が本来は機体のメンテナンスのために定期的にしなければならない塗り替えを10年経った当時もまだ行えていなかった。その話を聞いた小山薫堂氏は、「それは何かできるんじゃないですか」と反応した。

そして、小山氏がプロデュースしているBSフジのテレビ番組『小山薫堂 東京会議』で、プロアマ問わず機体デザインを募集し、優勝者には番組から100万円の賞金を出そう、という話になった。

2012年3月に行われた『東京会議』の収録は奥島社長も出演し、同社の生い立ちや日頃の苦労話をいろいろと話す機会を得た。そして奥島社長、小山薫堂氏、「くまモン」のデザイナーである水野学氏、以前は自動車のデザインであったマンボミュージシャンのパラダイス山元氏の4人が審査員となったこのコンペには、締め切りまでに約260点もの応募数があった。そして最終的に、イルカウォッチングが有名な天草らしい、イルカの親子が描かれた中学生がデザインした作品が選ばれた。

奥島社長は当初、外装デザインの変更について若干躊躇していた。日本航空が鶴丸のロゴを変更した直後に経営破綻をしたことを目の当たりにしたので、縁起が悪いのではないかと心配したのである。しかし、蓋を開けてみれば、この外装デザインは多くのファンの獲得につながり、大成功に終わった

そして、機体のデザイン料は天草エアラインのような小さな会社には大きな負担になるが、整備費を補助金として出している熊本県が、天草エアラインの将来を思って、デザイン料も塗り替えの整備費に含めてくれた。新しい「みぞか号」は多くのファンを生み、天草エアラインを多くの人が使うようになり、天草に大きな経済効果をもたらした

天草エアラインの再建に火をつけた奥島氏は、長期政権は諸問題が発生するからと、就任5年後の2014年に、同社の社長を退任した。

2016年2月19日、「みぞか号」旧機体の退役時、天草の地元企業の方々が「天草エアライン みぞか号ありがとうキャンペーン」を企画してくれた。手絞りジュース、石鹸、いちごロール、マカロンなどの記念賞品を作ってくれた。

奥島氏は、自分は事業再生のプロではないがただ唯一自慢できるのは人との関わりを大事にしてきたことだ、と語る。全く偶然の出会いでも常に真剣にお付き合いした結果、多くの方々から思いもかけない応援が次々と寄せられ天草ラインの人気に火がついた。地域航空会社と地域の人たちが連携すれば、地域創生のための相乗効果が生まれる、と奥島透元社長は述べている。

出典は、最近読んだこの本です。天草エアラインの経営再建に務めた奥島元社長の著作。社内改革と地方再生のヒントが多く載ってます。

日本一小さな航空会社の大きな奇跡の物語
―業界の常識を破った天草エアラインの「復活」

(奥島透 著/ダイヤモンド・ビッグ社)

マイナスポイントの克服はエンターテインメントにしてしまうと、楽しくもあり、話題にもなり、関係者のやる気につながります。

例えば、ゴミの散乱が問題になっていたとしたら、「その費用は誰が出してくれるのか」「その面倒な作業を誰がやってくれるのか」といった、腫れ物を触るような会議をやっていると、結局じゃあ放置で、という結論にもなりやすく実行したとしてもみんなイヤイヤやります。

それだったら、まるで遠足のように楽しいゴミ拾い会にしてしまえばいいのです。例えばゴミ袋に動物キャラのイラストを描いて、どんどんゴミを入れていってその動物を何匹お腹いっぱいにすることができるか、といったことを競ったりする。企業にはゴミ袋1つにつき景品をくれるようなタイアップで参加してもらう。

そんな「楽しみながらやろうー」というイベントは、参加している人も楽しんでくれるし、さらにその様子を見た外野の人たちも、面白そうだと思ったらどんどん参加してくれます。そして、そんな面白そうな雰囲気の場所には、「協力したい」という人が力を貸してくれたりお金を出してくれたりするのです。

お金が足りないとなると、楽しい募金企画をやる。勉強が必要だとなると、楽しく教えられる人を呼んでワイワイ勉強会をやる。有能な人材が足りないとなると、有能な人材がないことで困っていることを面白おかしく描く映像や漫画を作る。

何だって、楽しくできるのです。

何か困ったこと、解決しなければならないことがあれば、「それをエンタメにできないか?」とまず考える意識を持ちたいものです。そうすれば、地域の人や業界の人たちも楽しんで参加し、面白そうだという人も寄ってきて、どんどん人の輪が増えていくのです。

【今日の発想源実践】(実践期限:1日間)

image by: Shutterstock.com

 

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【著者】 弘中勝 【発行周期】 日刊

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