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カメラのキタムラ129店閉鎖の衝撃。街の写真屋を殺したのは誰か

「カメラのキタムラ」や「スタジオマリオ」でおなじみのキタムラが、全体の1割にあたる129店舗を閉鎖すると発表しました。デジカメ販売、デジカメプリント、そしてスマホ販売と、時代とともに業態も変えてきた同店が業績不振に陥った原因はどこにあるのでしょうか。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが詳細に分析しています。

なぜキタムラは129店を閉鎖しなければならないのか

佐藤昌司です。キタムラは2月14日、全体の約1割にあたる129店舗を閉鎖すると発表しました。主力の「カメラのキタムラ」と写真館「スタジオマリオ」を中心に閉鎖を順次進める計画です。

平成28年の熊本地震の影響によるデジタルカメラなどの減産や写真のプリントの低迷などが影響し業績を悪化させています。

2017年3月期の連結業績予想を下方修正し、売上高は当初計画より263億円減少(15.8%減)の1,405億円、連結営業損益は16億円の赤字連結最終損益が24億円の赤字になると発表しています。大量閉店に伴い、約13億円の特別損失を計上します。

キタムラは、昭和9年に「キタムラ写真機店」が高知県高知市において創業したことから始まります。近年はスマートフォンの販売を強化していますが、基本的にはカメラ関連製品を主に販売して成長してきました。しかしカメラ市場は時代により大きく変動しキタムラを翻弄することになります。

キタムラを翻弄したカメラ市場を考察します。フィルムを使用するカメラ(銀塩カメラ)の総出荷金額は長らく大きな変動がありませんでした。一般社団法人カメラ映像機器工業会によると、1979~2000年まではおよそ3,000~4,000億円で推移していました。多少の振れ幅はあるものの、市場は安定していたといえます。

しかし、2001年以降は大きく落ち込むようになりました。2000年の総出荷金額は3,020億円ありましたが、翌2001年は2,398億円になりました。2002年には2,000億円にまで落ち込んでいます。落ち込みの理由はデジタルカメラが普及したためです。

同会によると、1999年のデジタルカメラの総出荷金額は2,279億円にすぎませんでした。しかしその後急速に成長し、2008年には2兆1,640億円にまで達しました。ところが、2009年からは急速に落ち込み、2015年には8,854億円にまで減少しています。右肩下がりで下降していきました。

2009年以降のデジタルカメラ市場の落ち込みの理由の一つは、リーマンショックに端を発した景気低迷の影響があります。そしてもう一つの理由はスマートフォンの普及が挙げられます。カメラではなくスマホで写真を撮る時代になったからです。スマホの普及でデジタルカメラは衰退していきました。

そこでキタムラはスマホの販売を強化させていきます。スマホを取り扱う店舗の数は、2011年6月では121店舗でしたが、16年12月には448店舗にまでなっています。店舗数を増やしていきました。また、スマホから簡単にプリントできるように、アプリケーションの開発や店頭の環境の整備を推し進めていきました。

ただ、スマホの販売は順調にはいきませんでした。スマホの製品としての本質はカメラではなく携帯電話端末だからです。カメラを販売するための知識とスマホを販売するための知識は大きく異なります。カメラに慣れた既存の従業員では対応しきれず、スマホを販売できる従業員の採用が必要になりました。

このことが人件費の上昇を招いてしまいました。売上高に占める「給与及び手当」が占める割合は次第に上昇していきました。2008年3月期では8.8%でしたが、2016年3月期は12.2%にまで上昇してしまいます。右肩上がりで上昇していきました。人件費の上昇が経営を圧迫するようになりました。

スマホの販売に関しては、2016年4月に総務省が発表した「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」により「端末実質0円」販売を事実上認めない方針が示された影響も見逃せません。MM総研によると、2016年4~9月のスマートフォン出荷台数は前年同期比8.4%減の1,216.8万台となっています。「端末実質0円」によるスマホの販売不振はキタムラをも直撃しました。

製品販売については結果論ですが、ヨドバシカメラやビックカメラのように、カメラ製品にこだわらずに家電量販店の道を歩んでいたらまた違った結果になっていたでしょう。カメラ製品主体のキタムラはカメラ市場の衰退により苦境に立たされることになりました。カメラ市場に翻弄された形です。

キタムラはカメラ製品の販売に加えて写真のプリントも収益の大きな柱です。しかし、プリントも不振にあえいでいます。2008年3月期のプリントは前年比31.9%増の563億円もありましたが翌年から低迷し、2016年3月期には425億円にまで落ち込んでいます。

プリントの不振はリーマンショックが大きく影響しましたが、もう一つの理由として見逃せないのがSNSの普及です。フェイスブックなどのSNSの普及により写真をプリントする機会が激減しました。SNSでシェアすることで済むため、プリントの必要性が低下したためです。

キタムラのプリントの不振とSNSの台頭はリンクしています。例えばフェイスブックの日本語版は2008年に公開されています。フェイスブック社によると、2008~2015年の利用者数は年間ベースで一貫して増加しています。キタムラのプリントは2008年以降、右肩下がりで低迷していきました。

現在は写真共有SNS「インスタグラム」が大きな成長を見せています。スマホなどで写真を撮って手軽に友人と共有することができます。写真をプリントする必要性は著しく低下しているといえます。

キタムラは時代の変化に対応しきれずにここまで来てしまいました。今回発表の大量閉店は避けて通れない道だったといえるでしょう。市場規模に対して過剰な店舗数だったといえます。

事業構造改革によりキタムラは復活できるのでしょうか。今までにない、新しい写真の楽しみ方を提案できるかがカギとなりそうです。

 

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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