円高による工場の国外移転などで、すっかり低迷してしまったかのように語られる、我が国の製造業。しかし、メルマガ『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さんは「日本が世界を助ける時代が来る」と言い切り、その論拠を示すとともに、日本が世界から期待される役割を遂行するために取るべき政策についても詳述しています。
日本が世界を助ける時代が来る
日米の経済対話で、日本企業は米国に工場を建て製品を作ることを要求される。脱工業化で、製造業からサービス産業やIT産業に米国企業はシフトしたが、再度、工業化を進めることにしたが、製造技術がなく、トランプ氏は安倍首相に助けを求めることになる。という世界はどうなるかを検討しよう。
米国の脱工業化、日本の匠工業化
1990年代、インターネット革命で米国は金融などのサービス産業とIT産業に製造業からシフトした。これを脱工業化といい、スマートな変身と宣伝した。利益率も上がることで、正当化した。
日本は、米国から厳しい貿易条件を出されても、それを乗り越えて、製造業を残すことに気を使った。今でもすべての業種で生き残っている工場がある。もちろん、技術レベルの高い工場しか生き残れなかったために、数は多くはないが、匠の技術に高めている。汎用品工場群とその部品工場群を、日本企業はアジアに移した。
しかし、技術的なレベルの高い工場は日本に残した。製造業は、部品や材料ごとに製造技術が違い、その全てが揃わないと製品が作れない。多様な技能集団が必要なのである。この部品工場をまだ日本は持っているので、製造業を復活できるし、他国にそのワンセットを移して、そこで完成品工場を作ることが出来る。
米国は製造業を捨ててしまったので、このワンセット製造技術を持っていないことで、米国企業だけでは完成品工場を建てることができない。イーロン・マスクのテスラモーターの電気自動車工場でも、電池はパナソニックなどの日本企業がワンセットで米国に工場を建てて助けている。というように、日本企業が必要なのである。
韓国のサムソンでも、部品の多くは日本企業からの調達になるが、日本との距離が近いので、輸送費があまりかからない。
このように東アジアの中国、台湾、韓国などは、日本の基礎部品や材料に依存して成り立っている。その上、イノベーションが材料や基礎部品で起こっている。このため、日本企業がそこでは強い。ナノオーダーの歯車、コンデンサーなど、日本企業の独壇場である。
また、日本企業は、内部留保が過去最高レベルにあり、投資余力を持っている。2008年のリーマンショックによる不況から抜け出せない米国製造業とは事情が大きく違う。日本企業には、米国に工場を建てる余裕がある。
ドイツの現状
日本と比較されるのがドイツであるが、自動車などエンジンや化学産業が強く、このドイツでもマイスター制度で匠の技術を保持している。現状、世界的なワンセットの産業基盤を持つ国は日本とドイツであり、中国が急速に日本の技術を吸収してワンセットに近くなっている。
ドイツも自国通貨より通貨安水準のユーロにより、輸出が大変な活況にあるが、クーガなどロボットや機械産業は、日本に負けている。ドイツはEUから多数の労働力も確保できるので、日本のように中国・EU以外の世界に出て行く必要がない。米国などでは日本企業との競争になり、不利であるので無理してまで出ようとしない。
このため、メルケル首相はトランプ大統領に強い口調で注文ができるのである。消費規模が米国と同様程度あるEU市場と、米国より大きな中国市場があり、それでドイツ企業は繁栄出来るためである。
このため、米国の誘いに乗らない。EUを守ることになる。米国とは衝突する可能性がある。また、米国より中国を選択する可能性もある。
米国の政策
米国が優位なのは、IT産業と航空機・兵器産業であるが、グーグルなどIT企業は、世界から優秀な人を集めて、世界的なソフト分野を開拓しているが、この分野は、人口の1%程度の論理力がある優秀な人間を多数、雇用して作るしかない。このため、世界から優秀な人間を集めてきている。このため、米国の白人は少数になる。
トランプ政権で今問題にしているのは、白人労働者を多数雇用してくれるような付加価値の高い産業が必要なのである。ということで、技能の高い外国人技術者を米国に入れるのではなく、IT企業にも多数の白人労働者を雇用しろということになるが、IT企業の競争力は大きく落ちることになる。無理をすると、IT企業の米国離れも引き起すことになる。
米国政治状況は、世界から安価な製品輸入で世界を助けることより、製品が少し高くても米国の白人労働者を助けることが必要とトランプ大統領が当選したのだ。
米国は自国生産になり、新興国からの輸入を減らすことになる。今までは、米国の製品輸入と原材料輸入の中国が世界経済を引っ張ってきたが、中国の経済成長も止まり、米国は自国生産になるので、米国以外の世界的な成長余力はなくなる。新興国の輸出先がなくなり、成長ができないことになる。米国では、世界的な効率化より自国が優先ということになる。
米国は、世界の人権とか自由とかのリベラルなことより、自分や家族や自国民が生きていくことの方が重要であると有権者が考え始めたことで、米国の政治革命が起こったのだ。日本は昔から、変わらずに自国しか考えていないが、米国は本当にグローバルなリベラルを考え、世界に介入してきた。それを止めるようである。
自国民優先になるので、産業的には非効率化になることもあり、ナショナリズムでありコーポラティズム(統制経済、協調主義)になる。これも今の日本である。
しかし、米国は自国産業で製造業のワンセットを持っていないので、日本企業の技術に頼る事になる。日本は、アジアの産業を興し、そして今、米国の産業を興すことになる。日本が米国を助ける事になる。安倍首相がトランプ大統領から歓待されるのは、日本企業の工場を米国に建ててほしいからである。
その代わり、日米同盟を完全に履行するし、円安には歯止めが必要であるが、それほど無理な要求はしないようである。麻生財務相は、1ドル=120円までの円安はOKという。
そして、円ドルリンクを志向したほうが良いと私は見ている。バーゼル3との見合いで、円暴落を防ぐことにもなるためである。早めに10年先を見据えて準備するべきである。
日本企業の今後
ドイツ企業は、世界には出てこない。世界に出て行くのは日本企業である。それと共に日本文化も出て行き、日本食も出て行く。それを現地で見た人たちが、観光客として日本文化を見に日本に押し寄せることになる。聖地日本のような雰囲気である。
このコラムの当初に、日本のグランドデザインとして拡大日本戦略を提案したが、最終地点が見え始めているようだ。15年を経て、この構想が実現化したようにも見える。
今、日本は自国の人口減少をどうしていくのかの議論が起こり、このままでは衰退してしまうと思われているが、日本企業は、どっこい、世界で生き残ることになる。日本が世界に出ていくのである。それに合わせて、英語教育も小学校3年生から始めると政府は言っている。
日本企業が優秀な外人を世界から採用して、世界企業に変貌することになる。日本から世界に出て、やっと、当初想定した姿に日本がなっていくようである。日本が世界を助けることになる。
そして、日本は新しいグランドデザインを構築することが必要になっている。日本は世界の安全保障を米国に丸投げしてきたが、米国が内向きになると、輸送路を守るために日本は、その分野にも出ていく必要になる。今、中国が一帯一路で出てきているので、中国との関係も含めて考える必要がある。
米国の中東政策
しかし、米国の外交で気になる問題が出てきた。トランプ政権の内部は、いろいろな考え方の人間がいて混沌としているが、大統領府で、実権を握るのが上級顧問バノン氏と娘婿クシュナー氏のようである。
バノン氏は、「4th turning」に大きく影響されているという。米国は危機的な状況にあり、特にイスラム教徒に影響されて米国の体制が変化されてしまうことを述べている。この予測が、911テロ事件で証明されたと考えているようで、このため、イスラム教徒に警戒している。入国させないという大統領令は、ここから出ている。
この考えと、ユダヤ教徒である娘婿クシュナー氏が中東政策を取り仕切るので、イスラエルのネタニエフ首相のタカ的な政策を支持してしまうことになるが、それは中東に混乱を起こすことになる予感がする。ヨハネの黙示録を実現させてしまわないかと心配である。
一応、ヨルダン川西岸の入植地拡大を反対したが、あまり、強くイスラエルを制約していない。2国共存の従来の方針を固守しないで、1国2民族共存という選択もありとトランプ大統領は、述べている。
要するに、米国は中東の問題に深入りしないというようである。また、NATO諸国にも軍事費をGDPの2%以上を要求しているなど、米国の内向きな外交政策が見える。
米国の内向きな感覚での外交政策になると、世界はどうなるのか、非常に心配なことであるが、日米の経済同盟は成り立ち、次には、日米軍事協力のレベルを上げる方向に向かうことになる。視野は、日本ではなく世界になる。
さあ、どうなりますか?
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