特損7000億円の東芝が犯した、致命的な「二度の失敗」

 

大きな分岐点は2006年のWH社の買収です。今になって見ると、高値掴みだったし、「原発ババ抜きのババを引かされたとも言えますが、その時点では、決して悪い戦略ではなかったと思います。

当時、日本の原子力中心のエネルギー政策に疑問を持つ人は少なかったし、米国も「原発ルネッサンス」という言葉と共に、スリーマイル島での事故のトラウマから立ち直り、新たな原発を作る準備を進めていました。

当時は、自民党だけでなく、2009年に政権を奪った民主党ですら、原発を支持しており、エネルギー政策の上でも、地球温暖化対策の上でも、原発は疑いもなく国策でした

1988年に改定された日米原子力協定により、「準核保有国」の地位を手に入れた日本にとって、日立、三菱に続いて東芝が原発に本腰を入れるというのは、とても理にかなった話でした。

しかし、実際の買収交渉になると、東芝は、致命的な失敗を二回しています。

一つ目の失敗は、WH社の買収の際に、Shaw Group に与えてしまったプットオプション(保有するWH社の株式を、決まった価格で東芝に売りつける権利)です。東芝としては、一社で WH社を買収するのはリスクが高すぎるという理由で、(原発工事を請け負う)Shaw Group に20%の株を買ってもらうことにしたのですが、百戦錬磨の Shaw Group は、「いざとなったら売りぬける」ことが出来るようにプットオプションを要求して来たのです。

本来ならば、最悪の場合を考慮してプットオプションなど与えるべきではありませんでしたが、「原発工事を請け負う Shaw Group が HW 社の株を売るはずがない」という日本人的な発想で、与えてしまったのです。

そこで起こったのが2011年の福島第一での事故です。「原発ルネッサンス」が夢に終わったことを察知した Shaw Group は、間髪を入れずにプットオプションを行使し、(原発事故の影響を考慮すれば二束三文にしかならない)WH 社の株を 1250 億円で東芝に売り抜けたのです。

二つ目の失敗は、S&W 社の買収の際の交渉です。買収の前から、工事の遅れによる賠償金を HW社と S&W社のどちらが支払うかでもめていたにも関わらず、買収後の賠償金の支払いの責任を明確にせずに買収してしまったのは、とんでもない失敗です。

東芝の発表によれば、この買収のトランザクションには不正が行われた可能性がある(拡大解釈すれば、売り手の CB&I 社が、WH社の経営陣に賄賂を渡して強引に買収を成立させた可能性がある)とのことですが、これほどまでにリスクの大きい買収に、(親会社である)東芝が関わっていなかったのは大きな問題です。

いずれにせよ、最初の失敗による損失が1000億円強、二番目の失敗による損失が数千億円なので、とんでもない話です。

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