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大手旅行誌の元編集長が教える「フレッシュな温泉」特有の肌触り

元「旅行読売」編集長の飯塚玲児さんが、温泉に関する知識を毎回教えてくれるメルマガ『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』。過去3回の記事で、温泉通なら誰もが知っているけど、初心者にはわかりづらい「温泉のフレッシュ感」について、第1回で「フレッシュ感の概要」、第2回では「香りとの関係性」第3回では「温泉の色との関係性」を説明してくれました。今回はその最終回、温泉のフレッシュ感と「肌触り」との関係性について解説しています。これを読めば、あなたも温泉の「フレッシュ感」について「通」ぶれるかもしれませんよ!

温泉の”フレッシュ感”とは何か?(4)

前号に続いて、温泉のフレッシュ感について解説をしたい。 今回は温泉の肌触り・浴感とフレッシュ感について書いてみたい。

温泉の肌触りというのは、入浴するときに意識的に言葉で表現するようにすると、徐々に感覚がわかるようになると思う。 例えば、「つるつる感」「ヌルヌル感」「すべすべ感」「きしきし感」「もっさり感」「ちくちく感」といった具合である。

「きしきし感」というのは、湯の中で肌をさすったときに引っかかるような、きゅっきゅっという感じだと認識している。 「もっさり感」は、湯に浸かって手足を動かしたときに、湯が重いな、質感があるな、という感じである。

こうした特徴を感じられる湯は、おおむねフレッシュなものだが、これを泉質別に体系立てて論じることは難しい

というのも、いわゆる成分量が多くはない単純温泉一つとっても、湯の成分は千差万別で、塩化物泉や炭酸水素塩泉などに似た成分構成のこともある。 おまけに、溶存物質量の合計が980mgだったりすると、もはや単純温泉とは言えないくらいの個性を持っている。 単純温泉だって単純ではないのである。

炭酸水素塩泉系でナトリウムを多く含んでいれば、ぬるっとした肌触りになるし、こうした場合は単純温泉でもpHが高い、つまりアルカリ性の湯であることが少なくない。 ナトリウム−炭酸水素塩泉(つまり重曹泉)と、アルカリ性の温泉の肌触りの特徴は、ぬるぬる感ということができる。

ちくちく感は、強酸性の湯などで感じられることが多いし、きしきし感はカルシウム−硫酸塩泉や含鉄泉などで感じる場合が多い気がする。

ただ、やはり「そう感じる場合が多い気がする」というほどのもので、硫酸塩泉系ではさらさら、すべすべ感を感じることも多いし、含鉄泉でも他の成分によっては柔らかな肌触りの場合も少なくない。

それだけ温泉には個性があるというわけである。

ただし、その温泉の個性としての肌触り、浴感でない場合というのもある。

例えば「きしきし感」で、アルカリ性の湯に大量に塩素を入れて消毒をしていると、通常はヌルヌル感があるはずのアルカリ性の湯が、どうもきしきしとするなぁ、ということを感じる場合がある。

さらに、アルカリ性でもなく、重曹泉系の湯でもないのに、めったやたらにぬるぬるとした肌触りの湯というものに出会うこともある。これはかなりヤバい場合が多くて、塩素消毒・循環の温泉であると、これはちょっと考えたくない事態になっている可能性がある。つまり、人が湯に落とす汚れ(有機物)が、ろ過器では漉せず、循環した湯に濃縮されてぬめるというわけである。

一方、泉質に関係なく、二酸化炭素泉ではないのに入浴すると全身にびっしり細かな泡がつくお湯というのも各地にある。 これは温泉がフレッシュな故に、湧き出したときに湯に含まれる空気や窒素が飽和して体を包んでくれているという現象である。

この泡を手で拭う時の官能的な肌触りは、アルカリ性泉や重曹泉などのヌルヌル感とはまた違った、温泉好きを虜にする独特の感触がある。 そして、こうした湯は間違いなくフレッシュである。

さて、前号でも書いたが、モール泉を除けば、温泉は湧出したときには、そのほとんどが無色透明である。 その湯が空気に触れて酸化するにつれ、成分が析出して白濁したり、褐色に濁ったりするわけである。 すると、色付きの湯は酸化した湯だから、フレッシュではないのでは? と思うかもしれない。

前号の繰り返しになるが、温泉も同じように、フレッシュな故に、肌あたりが尖っていたり、刺激が強かったりする場合もある。 自然に酸化した濁り湯は個性的な色をまとい、肌あたりが優しく、まろやかであることが多い。

といって、フレッシュ感がないかというと、あながちそうとは言いきれない

むしろ、悪い刺々しさが軽減され、いい意味でのフレッシュ感が残って、それが際立つという感じだ。 こうして湯の色や肌触りが変わっても、循環・塩素消毒による人為的な酸化と、「自然に」酸化が進んだ湯とでは、やはりフレッシュ感はまったく違うものである。

拙著でも書いたが、含鉄泉や硫化水素泉は、塩素剤と化学反応をして、鉄や硫黄成分が分離析出する。 これが濁り湯になるからくりだが、国の指針である残留塩素の量を守ると、浴槽内では「湯+鉄の粉」「湯+硫黄の粉」になって、こと浴槽の中では含鉄泉も硫黄泉も存在しないということになる。

ただ、これはかなりの極論で、濁り湯がみんなこうなっているというわけではない。 塩素消毒をしないかけ流しの浴槽で、新湯の注入量が多ければ、浴槽内でもフレッシュな分離前の温泉が混じっていると考えられるからだ。

これは、僕が通っている草津温泉の湯を例にとればわかりやすい

草津の湯は硫化水素臭が漂う白濁湯というイメージがあると思うが、草津のほとんどの共同湯などの湯はほぼ透明である。 自然の酸化よりも新湯の注入によって湯が入れ替わるのが早く、フレッシュな透明感を保ったままである。

ただし、この透明な強酸性の硫黄泉は、肌あたりがキツく、刺激が強すぎる嫌いがある。 源泉かけ流しのままで入浴するには温度も熱すぎる。

そこで登場してきたのが、草津名物の「湯もみ」である。 熱すぎる源泉に板を入れて湯を揉むことで、加水せずに温度を下げ、なおかつ、空気に触れさせることで硫黄分を析出させ、湯を柔らかく、まろやかにするというものである。 実際に、湯もみをした温泉と湯もみをしてない共同湯の透明湯に入り比べてみると、圧倒的に湯もみをした湯は柔らかく、肌あたりも優しく、温度も実際温度よりも低く感じられる

この湯もみは、フレッシュな源泉の新鮮さをできるだけ保ちながら、温度を下げて入浴しやすい肌触りにするという、180年以上続く湯治客の知恵の賜物なのである。 湯もみをしない48度の湯には到底入れないが、草津の湯で湯もみをした湯であれば、確かに熱いけれど、僕自身も入浴したことがある。

このからくりには成分量も関係していて、真湯の48度は確実に入れない。湯もみで析出した湯の花が体を包んで、熱から守ってくれるからこそ、入浴できるのである。

どうも最後のところはうまく締められたという気がしないが、温泉の鮮度、フレッシュ感についての解説は今回で終わり。

フレッシュ感とはどういうことかよくわからない、という人は、まずは冒頭に書いた肌触りを言葉で表現してみる、ということを実践して欲しいと思う。

image by:Shutterstock

 

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