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ABCマート、成長神話に陰り。スニーカーブームは去ったのか?

昨年まで13期連続増収増益と、まさに靴小売り業界のトップに君臨しているABCマートですが、ここに来て減益に転じてしまう可能性が出てきています。成熟期を迎えてしまったシューズ市場で、同社はこのまま沈んでしまうのでしょうか。無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』では、著者でMBAホルダーの安部徹也さんが、ABCマートが成長を持続させるために取るべき戦略について論じています。

ABCマートは成長の踊り場に差し掛かったのか?

ABCマートの14期連続増収増益に黄色信号が灯っています。

シューズ市場で圧倒的なシェアを誇り、トップを快走するABCマートは、積極的な出店を背景に2016年2月期まで13期連続で増収増益を達成。2017年2月期は14期連続への挑戦となりますが、1月に発表された第3四半期の決算短信では売上高こそ1,789億円と前年同期比0.8%増を維持しましたが、営業利益は320億円に留まり、2.3%の減益となってしまいました。

これは何もABCマートの事業に急ブレーキがかかったというよりは、業界全体が成熟していることが要因と考えられます。

なぜなら、業界2位のチヨダも同期間の決算で売上高は1,050億円と前年同期比4.1%の減収、そして営業利益に至っては65億円と前年同期比17.4%も減少しているからです。

この業界2位のチヨダの決算数字を見る限りは、ABCマートは厳しい経営環境の中で健闘しているといっても過言ではないでしょう。

ABCマートの強みはどこにあるのか?

シューズ業界では圧倒的な強みを誇るABCマートですが、その強みの源泉はどこにあるのでしょうか?

それは、ユニクロやニトリと同じSPAモデルといえるでしょう。SPAとは、自社で製品の企画から製造販売まで一貫して行うビジネスモデルです。

ABCマートでは、アディダスやプーマ、ニューバランスといったナショナル・ブランドNB)も取り扱っていますが、主力はヴァンズやホーキンスといったブランドの商標権を取得し、自社で商品を企画・生産・販売を行っているプライベートブランドPB)。また、ナショナル・ブランド(NB)も、どこででも買えるような商品ではなく、ABCマートでしか購入できないオリジナルの限定商品を先方の企業と共同開発することによって、靴のディスカウンターとの価格競争を避け値崩れすることなく販売することができるというのも強みといえます。

このように、国内外の有名ブランドの商品と自社オリジナルの商品を組み合わせて展開するトレンド発信型の高感度な業態は、SPAモデルの中でも特に『バイイングSPA』と呼ばれ、ABCマートはその最先端を行く企業といえます。

このSPAモデルでは、店舗で接客を通して感じ取った顧客のトレンドやニーズをすぐさま商品企画に反映させ、短期間で商品を生産し、店舗に投入することによってビジネスチャンスを逃さないというメリットもあります。

特にABCマートの場合は、毎日販売データで売れ筋商品を見極めているのはもちろんのこと、全社員が週に1回は必ず店舗で接客して数字には表れてこない生の顧客の声を収集しています。また、社長自らも月に2回は定点観測している都心の店舗があり、他にも2回は関東近郊の店舗に出向いて接客するなど、現場での情報収集を大切にしているのです。このようにして、社員全員が店頭に立って顧客とコミュニケーションを図ることで、なぜ売れたのかそして今後どのようなシューズが売れるのかが明確にわかるようになるというわけです。

ABCマートでは、店舗で収集した顧客情報を商品開発に活かし、SPAモデルのメリットを最大限活かして顧客のニーズに即した商品をいち早く投入することによって、顧客の心を掴み需要を創造してきたのです。

成熟市場で成長を指向するためにはどうすればいいのか?

一方、シューズ市場も成熟し、ABCマートとしては増収増益を維持することは益々難しくなってきています。これまで、空白マーケットに出店して、店舗数の増加で増収増益を演出することができましたが、2016年末で国内の店舗数が910店舗に達し、目標とする1,200店舗体制に向けて出店余地はわずかになってきています

今後はこれまでと同じ戦略では、いずれは成長の壁にぶち当たることは火を見るより明らかです。

それでは、ABCマートは今後成長を持続させるためにどのような戦略を取るべきなのでしょうか?

その答えは「アンゾフのマトリクスというフレームワークで導き出すことができるでしょう。

アンゾフのマトリクスは、製品市場戦略とも呼ばれ、製品と市場を既存と新規に分けて企業が取るべき戦略を明らかにするものです。

まず、企業の最初の取るべき戦略は、既存製品を既存市場で販売することです。これは市場浸透戦略と呼ばれます。この市場浸透戦略に成功すると、既存市場でのシェアが高まり、成長が鈍化していくことになります。

続いて、リスクをできるだけ低くして成長を指向するためには、2通りの考え方があります。

一つは、既存市場に新製品を投入していく戦略です。これは新製品開発戦略と呼ばれています。すでに取引のある顧客に新製品を販売するために、比較的に成功しやすい戦略といえます。

他方、既存製品を新市場で販売するという手もあります。これは、新市場開拓戦略と呼ばれています。この戦略もすでに成功体験のある製品を新たな市場で販売するということで、開発コストも必要ありませんし、リスクは低いといえるでしょう。

それ以外にも、マトリクスでいえば新市場に新製品を投入するという戦略も考えられます。これは、多角化と呼ばれ、既存の市場が飽和した時に、さらなる成長を目指すために取られる戦略の一つですが、まったく新たな市場に新たに開発した製品を投入するということで、成功はまったく未知数であり、前述した2つの戦略に比べればリスクはかなり高くなります。

もし、この多角化を選択せざるを得ない場合、ゼロから自社で始めるのではなく、すでに実績のある企業を買収するという手段を講じるとリスクの低減が図れるでしょう。

さて、このようなアンゾフのマトリクスに基づけば、飽和したシューズ市場でABCマートが成長を持続するためには、一つには既存顧客に新製品を販売する新製品開発戦略を取ることができます。

たとえば、ABCマートの場合は、シューズと親和性のあるアパレルに進出するということも十分に考えられます。実際にABCマートはアパレルブランドであるユナイテッドアローズに出資していた時期もあるので、有名ブランドを買収してSPAモデルを導入し、事業ポートフォリオを拡大するという戦略も効果的でしょう。

SPAモデルでインテリア業界トップのニトリがアパレルの参入を検討していることを踏まえれば、同じファッションというカテゴリーにあるABCマートがアパレルに参入したとしても何ら不思議はないでしょう。

また、もう一つの新市場開拓戦略でいえば、日本のマーケットはすでに空白地が限られてきているため、海外進出を加速させるという手があります。実際にABCマートは海外進出を加速させていて、海外では韓国を中心に2016年11月末現在で227店とすでに多くの店舗を展開しています。

ABCマートの決算書を分析すると、現預金が1,000億円を超えて高い水準にあるので、資金を寝かせておくのではなく、新たな事業や海外進出など将来の成長に投資することによって、足踏みしそうな現状を打破し、再び成長路線を維持することができるのではないでしょうか。

image by: TungCheung / Shutterstock.com

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【著者】 安部徹也 【発行周期】 ほぼ 週刊

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