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どうなるニコン。最終赤字拡大で創業100周年に最大の危機到来

先日掲載の記事「カメラのキタムラ129店閉鎖の衝撃。街の写真屋を殺したのは誰か」でもカメラ業界の苦境をお伝えしましたが、その影響は大手のニコンにも及んでいるようです。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんによると、同社の希望退職者数が予想を上回る1,143人に及び、高級デジカメ3機種も発売中止になるなど、厳しい状況に直面しているとのこと。はたして立ち直ることはできるのでしょうか。

ニコン、1,000人超の退職者で167億円の損失。カメラ市場の衰退に歯止めかからず

佐藤昌司です。2月14日、カメラのキタムラが全体の約1割にあたる129店舗を閉鎖すると発表し、衝撃が走りました。スマートフォンの普及により主力のデジタルカメラの販売が低迷したことが主な理由です。

キタムラが129店舗の閉鎖を発表した前日の2月13日、カメラ関連のニュースが一つ報じられました。カメラ製品などの大手メーカー「ニコン希望退職の応募者が1,143人になったと発表したのです。募集人数は1,000人程度としていましたが、想定を上回る応募がありました。希望退職の関連費用として、2017年3月期に約167億円の特別損失を計上する予定です。

背景にあるのはニコンの業績不振です。2013年3月期の売上高は1兆104億円ありましたが、その後は一貫して右肩下がりで減少し、2016年3月期には8,229億円にまで減少しました。わずか3年で18.6%も減少しています。2016年4~12月期の売上高は前年比8.2%減の5,658億円です。純損益は8億円の赤字です。

デジタルカメラを主力としたカメラ事業の不振が大きく影響しました。カメラ事業はニコンの主力事業で、売上高の過半を占めます。70%以上を占める時もありました。2013年3月期の売上高は7,512億円ありましたが、その後は一貫して右肩下がりで減少し、2016年3月期には5,204億円にまで減少しました。わずか3年で30.7%も減少しています。2016年4~12月期の売上高は前年比28.9%減の3,008億円です。

世界のデジタルカメラ市場は大きく縮小しています。一般社団法人カメラ映像機器工業会によると、デジタルカメラの総出荷金額は2008年には2兆1,640億円ありましたが、その後急速に落ち込み、2015年には8,854億円にまで減少しました。撮影機能が充実したスマホの普及により追いやられた形です。キタムラと同様にニコンもこの流れにあらがうことができませんでした。

ニコンは希望退職者数の発表と同じ日に、高級コンパクトデジタルカメラ「DLシリーズ」3機種の発売中止を決定したと発表しました。「開発費の増加と、市場の減速に伴う販売想定数量の下落を考慮し、収益性重視の観点から発売中止を決定した」としています。デジタルカメラの愛好家の期待が高かった新製品でしたが、市場の縮小という大きな流れには勝てませんでした。

ニコンは業績の下方修正を余儀なくされています。カメラ事業は2017年3月期の予想売上高を4,150億円から3,800億円に下方修正しました。下方修正後の売上高は前年比で27.0%減となります。大幅な減収です。特にコンパクトデジタルカメラの市場規模の大幅な縮小を見込んでいて、前年よりも779万台減少すると予想しています。ニコンだけでも308万台減少し、ほぼ半減するとしています。

ニコンは脱カメラに舵を切りました。2016年3月期に大規模な人事異動を断行し、カメラ事業などに在籍していた社員を他の成長事業へシフトさせました。また、カメラ事業を中心に2017年3月期までの3年間で300億円程度の調達コストの削減に取り組んでいます。

一方で成長事業に対しては積極的に投資を行う方針を掲げています。2017年3月期までの3年間で研究開発費2,200億円のうち、500億円をメディカル事業などの新規事業に投資する計画です。

新規事業の開発を推し進めることで不振のカメラ事業をカバーしようとしています。新規事業の一つとして例えば「メディカル事業」を有望市場として捉えています。高齢化が進む日本では医療ニーズが高まっています。そうした背景から、2013年に新規事業のターゲットに「健康・医療分野」を選択し、メディカル事業を育てていきました。

ただ、現状のメディカル事業の規模は大きいとは言えません。2016年3月期の売上高は183億円で、構成比はわずか2.2%にすぎません。営業損益は赤字を計上している状況です。収益の柱となるのは先の話になるでしょう。同分野ではオリンパスや富士フイルムといった競合企業が先行し、大きく立ちはだかっています。

今年2017年は創立100周年にあたります。1948年に小型カメラ「ニコンI型」を発売し、カメラ事業を拡大していきました。カメラ製品の技術は世界トップクラスです。アポロ15号にニコンのカメラが搭載されました。スペースシャトル用宇宙カメラをNASAに納入しています。世界初となる水中撮影用AF一眼レフカメラや世界初の顔認識機能を搭載したデジタルカメラ、世界初のWiFiを搭載したデジタルカメラなどを開発しました。

ニコンブランドは世界でも認められています。デジタルカメラでいえば、世界市場シェアはおよそ30%にもなります。高速連写、画質、画像処理などの技術は他を凌駕するレベルにあります。高級一眼レフカメラではキャノンと並んでプロカメラマンの間で絶大な信頼があります。

ニコンは今正念場を迎えています。カメラ市場は急激に縮小しています。キヤノンなどの競合のカメラ企業は続々と他の事業を拡大し、脱カメラを推し進めています。ニコンはこの点で遅れているといえるでしょう。カメラの新たな楽しみ方を提案するとともに、カメラ製品以外の分野の強化が必須といえます。ニコンはどのように変貌していくのでしょうか。

image by: nafterphoto / Shutterstock.com

 

 「女子大生のハンバーガー店経営物語 (クリエイションコンサルティング)」 

 

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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