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荒れる森友学園問題の裏で着々と成立に近づく「共謀罪」の危険性

大阪・豊中市の「森友学園問題」の裏で、安倍政権が今国会への提出を目指している、組織的犯罪処罰法の改正案。官邸サイドはその必要性を強く訴えて続けていますが、メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、過去に3回も廃案となった「共謀罪」法の新設そのものであるとし、その条文から読み取れる危険性を指摘するとともに、安倍総理の口からまたも飛び出した「政治権力サイドの大ウソ」を白日の下に晒しています。

共謀罪…偽りのテロ対策

東京オリンピックをひかえてテロ対策が必要、国際組織犯罪防止条約を締結するため国内の法整備が不可欠…国民が「そりゃそうだ」と納得しそうな理屈をつけて、安倍政権は危険きわまりない法案を国会に提出しようとしている

暴力団など反社会的団体が犯す罪の処罰内容を定める「組織的犯罪処罰法の改正案がそれだ。

改正の中身は、「共謀罪法の新設そのものである。共謀罪の法案といえば、過去三度も国会に提出されたものの、廃案になった。それだけ国民の反対が強いということだ。

同じ内容を安倍政権は「共謀罪」とせず、「テロ等準備罪と名を変えて、国民を欺こうとしている

この改正法案が、必ずしもテロ防止を目的としていないことは、当初、その条文に「テロ」の文言がなかったことでも明らかだ。

「テロの字をどこかに入れろ、テロ等準備罪と呼びにくいではないか」。そのように与党議員たちが騒ぎ出したため、つい最近「テロリズム集団」という言葉を付け足したらしい。

それはともかく、問題は共謀罪」だ。

犯罪行為をやることに複数人が「合意」あるいは「計画」したら、共謀ということになるが、普通の人なら、たとえ一時的に気持ちが高まっても、思いとどまるものだろう。

共謀の段階で、捜査機関が盗聴やライン、メールの内容を証拠に逮捕できるとなれば、一般市民が自由に電話やネット上で「あいつ、殺してやろうか」などと冗談でも軽々しく言えないことになってしまう。

日本の刑法は、原則として既遂処罰であり、共謀のたぐいで処罰されるのは内乱陰謀罪、外患陰謀罪、私戦陰謀罪など「特別重大な法益侵害の危険性のある犯罪行為に限られている

それを、600以上の犯罪について共謀罪の対象とするというのが、安倍政権の当初の考え方だった。現時点では、反対の声を受けて277の犯罪に減ってはいるが、それでも刑法の根幹を揺るがす改変には違いない。

そのなかには、労働基準法、金融商品取引法、文化財保護法、会社法、消費税法、職業安定法などに関する犯罪までも含まれる。

安倍首相は「一般の人は対象にならない」と強調するが、その根拠は希薄だ。実際の条文を読めばわかる。

まだ、改正案は閣議決定されていないが、内容はほぼ確定しており、先日、その全文がメディアで公開された。ポイントは、「第6条の2」だ。

組織的犯罪集団の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行なわれる者の遂行を二人以上で計画した者は…

とある。

これを専門家は「構成要件」と呼ぶ。構成要件を満たせば、強制捜査に着手できるのだ。つまり、対象犯罪の実行を二人以上で合意したことがわかれば逮捕されるかもしれないということだ。

安倍首相は2月3日の衆議院予算委員会で、逢坂誠二議員に対し「犯罪を行う合意に加え、実行準備行為が行われた場合にはじめて処罰される」と国会で答弁した。

いかにも、共謀だけなら心配ないように聞こえるが、そこに落とし穴がある。準備行為については条文にこう書いてあるのだ。

その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは…刑に処する。

すなわち、複数の人が合意して、そのうちの一人でも下見などの準備行為をしたら処罰できるということである。これを専門家は「処罰条件」と呼び、先述した「構成要件」と区別している。安倍首相はこの「処罰条件」を定めた条文の通りに発言したことになる。

「構成要件」は強制捜査に着手するために必要、「処罰条件」は処罰するために必要な条件である。

繰り返すが、共謀だけでも逮捕される可能性はあるということだ。捜査の結果、準備行為が認められなかったら処罰には至らないとしても、逮捕という事実による社会的イメージの低下と、最長23日間の拘留が心身にもたらす苦痛は深刻である。

安倍首相はあえて「処罰」の条件のみをあげ、一般市民には関係がないというイメージを強調したのだ。

では、政府が「テロ等準備罪がないとテロ防止の穴が埋まらないと主張する事例について検証するため、2月3日の衆議院予算委員会における山尾志桜里議員の質疑を振り返ってみよう。

山尾議員「地下鉄サリン事件をきっかけに、サリン等による人身被害の防止に関する法律というのができました。この法律には予備罪もあります。にもかかわらず、この法律があっても対応できないというのはなぜですか

金田大臣「サリン等以外の殺傷能力の高い化学薬品というふうなことを想定していただきたいと思います」

山尾議員「サリン等に当たらないけれども殺傷能力の高い薬品の名前を一つでも挙げてください」

金田大臣「具体的な薬品を想定したものではありません」

山尾議員「具体的な薬品を想定していないなら、まさに架空の穴じゃないですか」

サリン等被害防止法の「サリン等」とは、サリンや、サリン以上、またはサリンに準ずる強い毒性を有する物質のことだ。サリン等をまくための「予備をした者は、五年以下の懲役」と定められている。毒物テロにこれで対処できないというのだろうか

次に、航空機をハイジャックし高層ビルに突っ込ませる計画で航空券を予約する事例について。

山尾議員「総理、なぜ、ハイジャック防止法では対応できないと答弁されているんですか」

ハイジャック防止法第3条には、「航空機強取等罪を行う目的で、予備行為をした場合、3年以下の懲役刑に処される」とある。安倍首相はそれについての答弁を避けた

金田大臣「航空券の予約または購入自体に、客観的に相当の危険性があるとまでは言えず、ハイジャック目的で航空券を購入する行為が常に予備罪に当たるとは言えない」

ハイジャック防止法成立直前の昭和45年5月12日、参議院法務委員会で、当時の法務省刑事局長は「航空券を買ったという場合にも、ハイジャックをやるという目的で航空券を買ったという場合が、第3条の予備に当たる」と発言している。明らかに金田大臣の答弁はこれと食い違っている

山尾議員は、政府が示したテロ事例の防止について現行法で対応できると指摘し、共謀罪を新たにつくる必要はないことを証明しようとしたのである。

改正案の6条の2には、「刑に処する」のあとに、きわめて重要なことが書かれている。

ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

つまり、犯罪を共謀して下見などその準備をしたあとでも、自首すれば許してやろうというわけだ。むろん、全員がうち揃って自首しない限り、自分だけが助かり他のメンバーを陥れることになる。スパイや密告の横行が懸念される条項だ。

安倍首相は2月10日、共同通信社の単独インタビューで、この改正法を成立させなければテロ対策で各国と連携する国際組織犯罪防止条約が締結されず「2020年東京五輪・パラリンピックが開催できない」と語ったが、これはあきらかに詭弁、もしくはウソである

国際組織犯罪防止条約(パレルモ条約)は2000年11月15日、国際連合総会で採択され、日本も署名し、2003年には国会で承認されたが、いまだに批准にはいたっていない。

同条約はもともとマフィアの組織犯罪を念頭に置いたものでテロ対策ではない

しかもこの条約の第34条では「締約国は…自国の国内法の基本原則に従って必要な措置をとる」とされている。国内法の原則、すなわち「既遂処罰の原則を守ればよいことになっている。けっして共謀罪を強要するものではないのだ。

日本政府はなぜかこの条約批准と共謀罪の創設をセットで考え、過去三度にわたって共謀罪法案の成立をはかってきたのである。

国際組織犯罪防止条約の締結や、オリンピックの開催と、共謀罪新設は何の関係もなく、安倍首相の言うことは、今や世界で憂うべき流行となっているオルタナティブ・ファクト(別の事実)、つまり政治権力サイドの大ウソといえよう。

ふりかえれば、安倍首相はこれまでにも数々のオルタナティブ・ファクトを発してきた。福島原発については「アンダーコントロール」。戦争のできる国づくりのことを「積極的平和主義」。消費増税の約束破りは「新しい判断」…。

政治家のウソ、詭弁は今に始まったことではないが、昨今はどこの先進国でも、それに世論が動かされてしまう傾向があるのは困ったことだ。

共謀罪は、個々人の合意や相談といった、形にならないものを処罰するため、その証拠収集には、捜査機関による盗聴や、メール、SNS等の監視が大手を振って行われる可能性が高い。

また、威力業務妨害罪も対象とされるため、市民や学生らの反政府デモなどにも弾圧が強まるにちがいない。

ときの政治権力が良識に基づいて行使されるのなら、どんな悪法でも怖くはない。しかし、今の政権をみればそんな楽観主義は許されないだろう。

戦前の治安維持法は元来、国体や私有財産制度を否定する共産主義運動を取り締まるのが目的だったが、「組織ヲ準備スルコトヲ目的」とする結社などを禁ずる規定があったため、しだいに拡大解釈され、自由主義者など政府の気に入らない人々が次々と犯罪者に仕立て上げられた

憲法改正をめざし、しだいに国家主義的色彩を強める安倍政権が、秘密保護法を制定し、共謀罪を拡大する法をつくろうとする真の目的は、政府に批判的な言論や市民活動の抑圧にあることはおそらく間違いないであろう。

森友学園などは、偏狭なナショナリズムの蔓延でジワジワ息苦しくなりつつあるこの国の空気から生まれた「鬼っ子」といえるかもしれない。犠牲になるのは将来を託すべき子供たちだ。

image by: 首相官邸

 

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