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書店の倒産が前年の1.5倍に。街角の本屋さんはもういらないのか?

「本が売れない」と言われて久しい昨今ですが、事実、小規模書店を中心に倒産が相次いでいます。町の本屋が次々と姿を消していくこの現状に、歯止めをかけることはできないのでしょうか。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんは、「小規模書店が生き残るためのヒントはコンビニの書籍販売にある」として、大手コンビニ各社の試みを詳細に記しています。

相次ぐ書店の倒産。今の書店に求められていることとは

佐藤昌司です。書店の倒産が相次いでいます。東京商工リサーチによると、2016年に倒産した書店は25件で、前年比1.5倍に急増しました。負債総額は前年比55.4%増の52億9800万円です。直近5年では、倒産件数と負債総額共に最高水準に達しています。また、負債1億円未満の倒産が13件と小規模事業者が過半を占め、小規模書店の厳しい実態が浮き彫りとなっています。

日本出版販売の『出版物販売額の実態 2016』によると、全国の書店数はこの10年で25%も減少しています。2006年には1万4555店ありましたが、2015年には1万855店にまで減っています。

インターネットやスマホゲーム機の普及などで本離れが加速しています。出版物の推定販売額も右肩下がりで減少し続けています。2006年には2兆4,933億円ありましたが、2015年には1兆7951億円にまで減っています。10年で28%も減少しているのです。

電子書籍の普及も、紙の書籍を扱う書店にとっては大きな脅威となっています。2015年度の電子書籍の推定販売額は前年比35.2%増の1864億円で構成比は9.4%に拡大しています。紙媒体が縮小しているのとは対照的です。

小規模書店が倒産しているのは、相次いでいる出版取次の倒産の影響が大きいといえるでしょう。出版取次とは、出版社と書店をつなぐ流通業者のことです。昨年3月に中堅の大洋社が破産を申請しました。東京商工リサーチによると、この影響で連鎖倒産が2件、休廃業が17件、閉鎖された店舗が19店舗にのぼるといいます。書店経営が出版取次に依存している実態がよくわかります。

出版取次は「パターン配本」と呼ばれる自動送本システムで画一的に書籍を書店に配本します。書店側の考えは基本的に考慮されません。販売力のある大型書店であれば売れ筋の書籍が大量に配本されますが、小規模書店ではそうはなりません。そのため小規模書店は品揃えで独自色を打ち出すことが困難です。必然と大型書店に人は流れることになります。現状の出版取次を介した流通構造では、小規模書店が生き残ることは困難なのです。

小規模書店は困難に直面しています。一方、大手の書店の業績は好調です。「TSUTAYA」や「蔦屋書店」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)傘下のTSUTAYAは2月3日、2016年の書籍・雑誌の販売額が1308億円で、1994年より22年連続して過去最高額を突破したと発表しました。また、CCCの2015年度の売上高は2392億円で増収を達成しています。

CCC以外の大手も好調です。『出版物販売額の実態 2016』によると、2015年度の紀伊國屋書店の売上高は前年比1.8%増の1086億円、丸善ジュンク堂書店は759億円(前年売上高記載なし)、未来屋書店は8.3%増の548億円、有隣堂書店は4.0%増の524億円です。大手の書店の業績は好調であることがわかります。

大型書店は有利です。出版取次から売れ筋の書籍を大量に確保できます。そのため消費者ニーズに応えることができます。しかし、ただ大型であれば売れるという時代でもありません。例えば東京で屈指の規模を誇った、紀伊國屋書店の新宿南店が昨年8月、6階を除いた1~5階までの売り場の営業を終了しました。業績不振が理由とみられています。

紀伊國屋書店の新宿南店は大型店にも関わらず、業績不振で撤退に追い込まれました。筆者は同店を何度か利用したことがあるため、撤退した理由がなんとなくわかります。新宿駅周辺地区の中でもあまりメジャーではなく利便性が高いともいえない場所にあるからだと考えています。

筆者は、新宿の繁華街のど真ん中にある紀伊國屋書店の新宿本店をよく利用します。新宿本店と新宿南店とでは規模や品揃えは大差ないのですが、新宿本店の方が便利な場所にあるためこちらを利用します。

書店は利便性が重要です。それは、出版不況にも関わらず大手コンビニが書籍の販売に力を入れていることからもわかります。例えば、セブン-イレブンは「セブン-イレブンは街の本屋」を標榜し、取り寄せや取り置き、定期購読、配送といったサービスを打ち出して書籍の販売を強化しています。

ローソンでは、書籍の販売を強化するために書籍専用棚を導入したところ、ある店舗では売上高が約1割増加したといいます。そのため、書籍の販売を強化することを発表しています。また、ローソンはアマゾンジャパンと組んで、在庫切れの単行本や重版が未定の人気作品の復刻本などをローソン専用商品として販売しています。

スリーエフは近年、文教堂と組んで共同店舗の出店を開始しています。書籍コーナーが充実しています。このように、大手コンビニ各社は書籍の販売に力を入れているのです。

コンビニにおける書籍の品揃えは限定的です。しかし、消費者の近くに存在し、24時間受け取りが可能であるという特長を生かすことで、書店やインターネット販売に対抗することができます。無い書籍は取り寄せることでカバーできます。利便性を武器にして戦うことができるのです。

ローソンのように、他にはない「ならでは」の書籍を提供することで差別化を図っているコンビニもあります。コンビニの書籍販売に小規模書店が生き残るためのヒントが隠されているように思います。

書店が生き残るためには、ローソンのように「ならではの書籍を提供する必要があるでしょう。CCCの業績が好調なのは、専門書や希少書籍を扱ったり、発見のある売り場づくりを徹底し、各地域の特性に合わせた書店を展開しているからです。カフェを併設するなどして、くつろいで書籍を選べる書店を多く展開していることも理由としてあるでしょう。「ならでは」の販売に注力しています。

CCC傘下のTSUTAYAはネスレ日本と組んでコーヒーと書籍を車で移動販売する取り組みも開始しています。テーマで選書した書籍の販売と中古本の出張買い取りを行っています。体験型ワークショップを行うなどして、近隣の住民が集まってコミュニケーションができる場を提供します。消費者が来ないのであれば、消費者がいる場所に自ら出向いて書籍を販売するという攻めの書籍営業を行っています。

今の時代は「モノの消費」から「コトの消費」に移行していると言われています。それを体現している書店があります。「天狼院書店」です。「英語ゼミ」や「落語部」「読書会」といった顧客を巻き込む活動を行なっていることが特徴的です。

例えば「1日店長イベント」では、書籍の著者を招いて話を聞いたりワークショップを行ったりします。このように「体験を重視しています。こうした取り組みもあり、天狼院書店は店舗数を急速に広げている人気の書店となっています。

今後の書店の未来は、利便性の追求とならではの追求が不可欠です。地域に根ざした経営も必要でしょう。これは書店だけの取り組みだけでは実現できません。取次や出版社を含めた出版業界全体で行う必要があるといえそうです。

 「企業経営戦略史 飛躍の軌跡(クリエイションコンサルティング)

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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