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米軍はいつでも武力行使ができるわけではない―大学特任教授が解説

私たち一般人はおろか、国会議員までもが「米軍はいつでも武器使用が認められている」と思ってしまっていますが、実はこれ、完全な勘違いらしいです。メルマガ『NEWSを疑え!』で静岡県立大学グローバル地域センター特任助教の西恭之さんが詳しく解説しています。

米軍が無制限に武器使用できない根拠

静岡県立大学グローバル地域センター特任助教 西恭之

日本が他国から武力攻撃されているとは判断できないが、自衛隊による対応が必要な「グレーゾーン事態」について、安全保障関連法案を了承した与党議員も、防衛省幹部も、「米軍の部隊はグレーゾーン事態でも、全面的な武器使用(=武力行使)が認められて」いると認識していると報道されている(5月12日付産経新聞「安保法案与党合意 自衛隊の役割大きく前進も残る制約 武器使用に『日本ルール』」)。

実は、米軍の部隊はいつでも無制限に武器を使用できるのではない。米軍は戦争犯罪を防ぐため、ジュネーヴ諸条約などの武力紛争法(戦争犯罪の基準、戦時国際法)を軍事行動の類型ごとに米軍として解釈した作戦法規を定めており、個別の軍事行動の目的に応じて、作戦法規と矛盾しないように交戦規定(ROE 自衛隊用語では部隊行動基準)を定めるからだ。

たしかに、米国の憲法と法律のうえでは、米軍の行動は、やってはいけないことを数少なく具体的に明示するネガティブ・リストで規定されている。対照的に、日本は憲法解釈上、自衛隊の武力行使を原則として禁止しているので、自衛隊法も、その改正法案の国会審議も、「こうした状況では、このように武力を行使することができる」というポジティブ・リストとなっている。

しかしながら、米軍の各級司令部が、戦闘を開始・継続するときの状況と制限(相手・時間・場所・武器)を定める交戦規定は、ポジティブ・リストを含む場合がある。といっても日本とは違い、米軍の交戦規定は原則として作戦終了までは秘密なので、ポジティブ・リストを含んでいても敵に手の内をさらすことにはならない。また、部隊の自己防衛のための武器使用は最優先される。

 

米陸軍は1956年の時点で「陸戦法規に関する野戦教範」を定めていたが、米軍はベトナム戦争後、ソンミ村虐殺事件のような戦争犯罪の再発を防ぐため、より一層、作戦法規を重視するようになった。国防総省・米軍は、

  1. 軍事的必要性
  2. 軍事目標と非軍事物の区別
  3. 軍事的利益と巻き添えとなる被害の比例性
  4. 不必要な苦痛の回避

という同教範の原則に基づいて、近年の実戦経験に基づく膨大な作戦法規マニュアルを作成し、公開している。

旅団級以上の司令部には法務部があり、作戦法規に基づいて交戦規定を定める。米海軍省法務部を描いた1995~2005年のテレビドラマ「JAG」(邦題「犯罪捜査官ネイビーファイル」)には、交戦規定を取り上げた回もあるほどだ。

なお、米国防総省は6月12日、1956年の「陸戦法規に関する野戦教範」にかわる1,204ページの「戦時国際法マニュアル」を刊行した。同マニュアルは「軍事的必要性人道名誉という3つの相互に依存する原則が、戦時国際法の比例性や区別といった原則、条約、慣習法の基礎である」と述べている。

日本の国会での平和安全法制の議論が、このような米軍の現状を踏まえたものになれば、少しはリアリティを備えたものになるかもしれない。

image by: Shutterstock

 

『NEWSを疑え!』第416号より一部抜粋

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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