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日本語に欠かせないオノマトペ、実は古事記にも登場していた

擬音語、擬態語の総称「オノマトペ」。実はこのオノマトペ、多国語に比べて日本語にはずば抜けて多いそうです。今回の無料メルマガ『安曇野(あづみの)通信』では、著者のUNCLE TELLさんがそのオノマトペを考察するとともに、「新しいオノマトペ」を作った方々についても紹介しています。

日本語とオノマトペ

オノマトペとは、「擬音語」「擬態語」の総称という。フランス語の「onomatopee」の音訳のようで、古代ギリシャ語の「名前は私が創る」という意味の言葉が原義とか。もともと読みのない音に字句を創り出したことに由来するらしい。

それでは「擬音語」とは何か。「トントン」「カンカン」「ザーザー」など、自然界、人間社会で発生する音。「キーキー」「コケコッコ」「ワンワン」「カッコー」「ギャーギャー」など動物・人間が発する声などが「擬音語」。いわば音色を語になぞらえる感じ。五感で言えば、実際に耳に入って来る聴覚で感じる音から由来するもの。

「擬態語」とは、「のないものをにする感じ、視覚的なものは例えば、「キラキラ」「ギラギラ」、触覚的なものは、「サラサラ」「ベタベタ」。臭覚的なものは、「ツン」「ムッ」。味覚的なものは「ピリピリ」「マッタリ」など。「擬態語」というより「擬情語」と言った方がぴったりな「ハラハラ」「ウジウジ」の類もある。

ところで、日本語の大きな特徴の一つはこのオノマトペの数が多く、擬音語だけでなく「擬態語」も実に多く豊富で会話や文章に使われる頻度も極めて多いことである。この日本語には、「擬音語」「擬態語」「擬情語」、オノマトペの数がずば抜けて多という。

日本語におけるオノマトペの数多さ、『擬音・擬態語辞典』(山口仲美編・講談社)という本には欧米語や中国語の3~5倍に達するとも。もっともお隣の国、朝鮮・韓国にも日本に負けないくらいオノマトペが多いらしい。日本のものと共通するものがあるか興味の湧くところである。それから、日本ではオノマトペは世代に関係なく生活に密着して使われるが、欧米ではこどもが主に使う、こども向きの言葉とされているようである。日本では、大の大人が平気で使うというわけである。このことが、マッカーサーが、戦後、統治官として日本人の精神年齢*歳などと言った要因の一つだという話しも。通常の会話などに使われる言葉が5,000語くらいだとすれば、オノマトペはその内の1,100位になるという。

かように日本語にはオノマトペが多いのだが、母語話者の私たちはそれを自在に使いこなしている。 しかし、日本語を学習している人や翻訳家には大きな障壁になっているようである。相当に日本語がうまい外国人にもオノマトペはやっかいなもののようだ。また、日本文のオノマトペによる情感豊かな表現も、翻訳家泣かせ、訳もつい平板な文章に落ち着かざる得ないことも。

先述の「擬音・擬態語辞典」に載っている話しだが――、日本語の達者な留学生がお腹が痛くて医者へ行った。先生に、「しくしく痛むの? きりきり痛むの?と聞かれてとても困ったと訴える。「しくしく」と「きりきり」の意味の違いが全くわからず困ったというわけである。例えば、雨の降り方の表現でも、ポツポツ、パラパラ、シトシト、ザンザン、ジャンジャン、ザーザー、など実に多様である。日本語のオノマトペはわからないといわれる所以である。

ところでオノマトペは音象徴(おんしょうちょう=sound symbolism)語であるという。音象徴とは、オノマトペの「それらしさ」を表現するもの、音や状態を言語音によって表現すること。 普遍的な音象徴と個別(言語的)音象徴があるというが、何度読んでもこの概念がどうも良くわからない。

普遍的な音象徴として、a・i・u・e・oの母音の相違で意味が違うという例がある。例えばハ行、ぱらぱら、びりびり、ぷるぷる、ぼろぼろ。雨が、ぱらぱら降って来たという。この「ぱらぱら」はまばらな状態、粗である。「ぴりぴり」は、とげとげしい雰囲気。またトウガラシの辛さのように鋭い感じや張り詰めた緊張感。「ぷるぷる」は、弾力あるもの、例えばゼリーやプリン、小動物が細かく震える様子。「ぽろぽろ」は涙をぽろぽろこぼすなど。「ぴりぴり」に比べ何か丸みを帯び柔らかく中間的である。

個別言語的な音象徴では、清音・濁音・半濁音で意味の対立が見られる。かさかさ/がさがさ、かたかた/がたがた、きらきら/ぎらぎら、さらさら/ざらざら、とくとく/どくどくなど。元来、日本語では濁音は、「悪いイメージ」として使われてきた。また、やまとことばには濁音で始まる言葉はなかったという。というわけかサラサラとザラザラの例一つとっても、濁音のオノマトペ、多分に悪玉的、悪いイメージがついて回る。

日本語のオノマトペは実に多種多様でかつ、似たようなものがいくつからある例も多い。例えば、ニコニコ/ニッコリ/ニコッ/ニコリ。これらをケースケースで微妙に使い分けている。だから場面によっては使い方がふさわしくない例も出て来る場合も。

これも上の『擬音・擬態語辞典』によれば、「にこにこ」は、微笑みが反復されたり長く続いたりするのに対し、「にこ」「にこっ」「にこり」は微笑みが一回的で短時間である時に使う。また、「にこり」は声を出さずに、うれしそうな微笑を一回浮かべる様子。「にっこり」は「にこり」より笑顔が鮮明で、その分、うれしさの程度が大きい、と出ている。「彼女は金メダルを手にニッコリしながら観客席に愛想を振りまいた」。

オノマトペ、記録の残るところ、表記は漢字だが古事記や万葉集の時代からあるようである。 「古事記」(712年)に。神さま(イザナギ・イザナミ)が日本列島をこしらえるため、塩に矛をさしてかき混ぜるときに「こをろこをろ」と音を立てる。現代で言えば「カラカラに近い音とか。

古い時代に使われたオノマトペで現代では使われていないものも多い。また流行語のように次ぎから次ぎと新しいオノマトペが生まれている。近代現代、特定の人が言ったり書いたりしたことから、当節はテレビやコミックから広まったものも多い。また俳句や短歌に登場することも。

例えば、文学・芸能人が創始(?)した例が、『オノマトピア』(桜井順著・岩波現代文庫)に紹介されている。良く知られ使われているものをいくつか。

但し、これはほんの一例。

オノマトペと言えば、私は宮澤賢治の風の又三郎」の冒頭の部分、「どっどどどどうど どどうど どどう青いくるみも吹きとばせ すっぱいかりんも吹きとばせ どっどど どどうど どどうど どどう」のフレーズを思い起こすが、風の又三郎だけでなく彼の全作品の中で、実にたくさんのオノマトペが効果的に使われているようだ。

先述の『オノマトピア』のまえがきに出ているのだが――、「ピッカピカの一年生」。CMのコピーだろうか。一年生坊主のゲンキ、シアワセ、ハシャギぶりを、ボーシ、カバン、ヒトミの輝きをピッカピッカを使わずに、これだけイキイキ、あなた表現できますか? というわけである。ほかのどんなコトバを持って来ても、ピッカピカにはかなわないだろうと…。

日本は世界に冠たるオノマトペ大国だというようなことをどこかで読んだことがある。オノマトペについてますます興味が湧くところである。

image by: Shutterstock.com

『安曇野(あづみの)通信』

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発刊以来10年、みすずかる信濃はアルプスの麓、安曇野を中心に信濃の光と風、懐かしき食べものたち、 野の花、石仏、植物誌、白鳥、温泉、そしてもろもろ考現学などを、ユニークな(?)筆致でお届け!

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