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高橋ヨシキ・インタビュー2「ボクが悪魔主義者になった理由」

アート・ディレクターや映画ライター、そしてサタニスト(悪魔主義者)と多くの顔を持つ高橋ヨシキさんが、知られざるB級映画や音楽などのカルチャー全般について語るメルマガ『高橋ヨシキのクレイジー・カルチャー・ガイド!』。その高橋さんに、昨今の映画事情から悪魔主義までを語っていただくインタビューを敢行しました。前回の「僕がスター・ウォーズと決別した理由」に続き、今回はかねてから気になっていた、高橋さんが「サタニスト」になったきっかけや、その教えについて、じっくり語ってくれました。

混迷する現代社会をサタニズムが救う?

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——ところで、高橋さんのプロフィールを拝見すると、ご自身がサタニスト悪魔主義者)であることを標榜されているのが目を引くのですが、このサタニストというのは具体的にどのようなものなのか、気になる方は多いと思うのですが……。

高橋ヨシキ(以下、高橋:):標榜してますよ(笑)。というか、しょっちゅう「自称サタニスト」と書かれるんですが、そして、実のところサタニストは自分をそう認識するかどうか、ということでもあるので「自称」でぜんぜん構わないんですが、一応ぼくはチャーチ・オブ・サタンからサタニストとして認可されてます(注:それがなくてもサタニストにはなれます。先にも書いたとおり、自覚と実践があれば良いからです)。

現在のサタニズムは、1966年にアントン・ラヴェイという人がサンフランシスコで始めたチャーチ・オブ・サタンがその始まりです。当時はカウンターカルチャーの全盛期で、それまでのキリスト教的な価値観や、それに基づくアメリカの精神性が大きく揺らいだ時期です。アントン・ラヴェイはそういう時代に、新たな哲学、新たな生き方としてサタニズムを提唱したわけです。根底にあるのは人間性の肯定だと言っていいと思います。キリスト教的な価値観が否定してきた欲望であるとか快楽というものをサタニズムは尊重します。

ラヴェイは『サタニック・バイブル』という本を出版し、これはベストセラーになりました。ぼくがサタニストになったのも『サタニック・バイブル』との出会いがきっかけです。ラヴェイの提唱するサタニズム(ラヴェイアン・サタニズム)のベースにはニーチェやユング、アイン・ランドなどの思想が反映されていますが、とても大きな特徴はその徹底した個人主義と人間性の肯定にあると言えるでしょう。

——そんなサタニズムですが、ざっくりと言えばどういった教えなんでしょうか?

高橋:ものすごく大雑把に言えば「宗教などに頼って思考停止するかわりに、自分の頭で考えて自分の足でしっかり立て」というようなことです。そう言えば、あまりヘンテコなものでもないということがお分かりいただけるかと(笑)。

ただ、アントン・ラヴェイという人は稀代のトリックスターでもあって、わざと刺激的な物言いをして人々を怒らせたり、スキャンダラスな話題を振りまくことが大好きでした。だからサタニズムはよく誤解されるんですが、そもそもラヴェイがそういう誤解を楽しんでいたわけですから、まあもうそれは仕方ない。

——日本でもあまり馴染みのないものですから、高橋さんはそれを信奉されていると公表することで、やはり誤解されることが多いんじゃないでしょうか?

高橋:意外とそうでもないですよ。とはいえ、ラヴェイ先生に倣って、誤解されてるときはその誤解を助長するような返事をしたいものだと思ってますけどね。「ええ、悪魔を毎晩拝んでます」とか(注:サタニズムでいうところのサタンは自分自身を象徴するもので、外的な、あるいは霊的な存在は一切認めていません)。「子供を生贄にするんですか?と聞かれたら毎晩食ってます!と言いたいところです。だってそう言った方が面白いですもんね。ちなみにサタニズムでは子供を大変かわいがることになっているのですが、それは子供の方が獣に近いからです(笑)。実際に子供を虐待してるのはカトリックの変態神父たちですよね!

——そうですか(笑)。ちなみに、もしサタニズムについて興味を持ったとして、その世界の一端に触れたいと思った時に、入り口になるような書籍や映画の作品があれば、教えていただきたいんですが……。

高橋:そうですね、チャーチ・オブ・サタンが関わった映画はいくつかあって、劇映画だと『魔鬼雨』(注:これにはラヴェイ先生も出演しています)なんかが有名ですが、基本的に冗談でやっているので『魔鬼雨』の描写を本当だと思ってはいけません。ドキュメンタリーでは『サタニス:悪魔のミサ』という、チャーチ・オブ・サタンのミサの儀式を収めた映画もありますが、これもわざとおどろおどろしいイメージで作っているので(笑)、観たからといってあまり参考にはならないかもしれません。

なので、サタニズムについてはやっぱり『サタニック・バイブルを読むのが一番です。ただ残念なことに邦訳がないので機会があればなんとか出版したいと思っています。あと日本語の書籍ではブランチ・バートンという、現在チャーチ・オブ・サタンの代表でもある人が書いた『悪魔教という本が邦訳されているので、それを読んでいただければ大体の感じはわかると思います。

——高橋さんはメルマガを通じて、そういうサタニズムの教えについて、布教とまではいかないですけど、ちょっとは伝えたいといった思いはあるんでしょうか?

高橋:それは少しありますね。ぼくは「例外なしに宗教はすべてくだらない」と思っていますが、そういう考えを少しでもお伝えできたらという気持ちはあります。これは個人的に気をつけていることなんですが、たとえばぼくは「敬虔な」という言葉を使わないようにしています。それは絶対「狂信的な」といいます。理屈に合わない、おかしなことを一生懸命理性をねじ伏せて信じている人間は狂信的と呼ぶしかないからです。

宗教はこれまで人類の進歩の足をさんざん引っ張ってきたので、そのせいで1000年か、ことによるともっと長い年月を無駄にさせられた、という気持ちもあります。歴史に「もし」はありませんが、もし宗教が存在せず、宗教のために浪費した時間と労力を自然科学の分野に投入できていたら……今頃は恒星間旅行だって夢ではなかったかもしれません。

あと宗教はなぜかアンタッチャブルなものだ、ということになっているのもどうかと思います。なぜ宗教法人は税金を払わなくていいのかまったく理解できないです(注:チャーチ・オブ・サタンは宗教法人ではないのでちゃんと税金を収めているそうです)。そしてなぜ宗教者と呼ばれる人たちは、無条件に人生の専門家みたいな顔をしていられるのだろうかとか、そういうことはよく考えます。教会や修道院や寺でくすぶってた人たちの意見が傾聴に値するとはとても思えませんが、世間的には坊さんや神父の説教は何かしらの価値を持つかのように思われている。不思議ですよね。

何より、宗教が原因で起こる争いごとや戦争、というものがなくなったらどんなにいいことか、早くそういう時代になってほしいとは強く思います。ありもしないもののために殺し合うなどということはあってはならないことだと思う。そして実際、非常にゆっくりとではありますが、世界はそういう方向に向かっていると思います。

とはいえ、そういう大きな流れに対するバックラッシュは当然あるわけで、アメリカの聖書根本主義であるとか、イスラム原理主義などはそういう文脈でとらえることもできるのではないかと思っています。世界観が大きく変わり、自分たちの世界が狭くなってきたことに対する異議申し立て」なんじゃないかと。ただ、たとえバックラッシュだったとしても、狂信的な人間は常識はずれの行動を起こしかねない(し、実際に起こしている)ので、まったく余談を許さないというか、楽観視できるような状況ではないと思いますが。

——なるほど。そういう既存の宗教に対するカウンター的なものとしてサタニズムに触れるということは、すごく有益であると。

高橋:まあそうなんですが、こんな話してていいのかなあ、なんか話せば話すほどメルマガから読者のみなさんが離れて行きそうで怖いんですけど(笑)

(次回に続く)

※このインタビューの全文は、まぐまぐ発行者スペシャルインタビュー(まぐスペ)でもお楽しみいただけます。

Photo by: Kotaro Minamiyama

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