「温泉に行ってのんびりお湯に浸かって、美味しいものを食べて、ストレス解消!」などというフレーズはいろいろなところで聞きますが、実際に温泉は「ストレス」に効くのでしょうか?今回のメルマガ『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』では、著者で元大手旅行雑誌編集長の飯塚さんが、自身のつらい「うつ病体験」を告白。そんなときに温泉に行って症状が和らぎ、温泉の不思議な効果を感じたという「実体験」をせきららに綴っています。
温泉は五月病に効果あり、なのである
「五月病」なる病がある。 何となくわかるけどはっきりした定義が不明、と思って調べたら、ウィキペディアには次のような解説があった。
五月病(ごがつびょう)とは、新人社員や大学の新入生や社会人などに見られる、新しい環境に適応できないことに起因する精神的な症状の総称である。 日本においては、新年度の4月には入学や就職、異動、一人暮らしなど新しい環境への期待があり、やる気があるものの、その環境に適応できないでいると、人によってはうつ病に似た症状が、しばしば5月のゴールデンウィーク明け頃から起こることが多いためこの名称がある。 医学的な診断名としては、”適応障害”あるいは”うつ病”と診断される。 発症に至る例としては今春に生活環境が大きく変化した者の中で、新しい生活や環境に適応できないまま、ゴールデンウィーク中に疲れが一気に噴き出す、長い休みの影響で、学校や職場への行く気を削ぐなどの要因から、ゴールデンウィーク明け頃から理由不明確な体や心の不調に陥る、というものがある。
この解説を読んで、まったく人ごとではないな、と思った。 というのも、僕がうつの洞穴に落ち込んだ日も、GWあけの出勤日の朝だったのである。 その、凄まじくリアルな落ち込みの瞬間とその後半年ほどの経緯については、拙著の『うつ…倒れる前のずる休み』に書いた。 今は古本でしか手に入らないが(どこかで文庫化してくれないかなぁ)。
『うつ…倒れる前のずる休み―実録 うつ病との壮絶140日間闘病記』
(ブレーン出版、2005年)
ちなみに、最近、悲惨なうつで仕事を2年も休んでいる知人も、三連休明けの翌日に体が動かなくなった、と話していた。 なーんだ、同じじゃんか。
恥ずかしながら、僕はいまだにこの病で1日35錠もの薬を飲み、15年以上も病院へ通っているのであるが、主治医がwikiの解説とまったく同じことを話していたのもまた、事実である。 いわく、「異動とかで上司が変わる、これが気の合わない、ろくでもない上司で、1か月間ずっと我慢に我慢を重ねる、すると、その我慢の糸が切れるのが、ちょうど5月頃というわけなんだよね。 だから、5月くらいには確かに新規の患者さんが多いんだよ。 必然、なんだろうね」。
威張ることでもないのだが、さすがに15年以上も病と付き合っていると、僕もうつ病に関しては相当に詳しくなる。 むろん経験値が上がるからだ。
先の主治医は、完治に何より重要なのは周囲の理解だと言い、「僕はまず、根本的な対策として”うつ病”という病名でなくなればいいと思っている。 うつっていうから、憂鬱のひどいヤツナンでしょ? とか考える人が出てくるんだ。 実際は、気分の問題だけではなくて、脳内分泌物の変化があって、あきらかな医学的な変調であるのに、根性がない、とかいわれがちなんだよね。 なったことがない人にしかわからないというのも厄介だよ」。
まあ、最初に穴ぼこに落ち込んでしまったときには、もうどうにもならない、というのが実体験。 なにもやる気が起きず、歯も磨けず、顔も洗えず、むしろ会社を休んだことの罪悪感の方が大きくて、最初の1週間は最低だった。
が、徐々に薬が効いて、いろいろとそれなりに回復してくると、少しは体が動くようになってくる。 そういうときに薦めたいのが、温泉である。
過日の鉱泉分析法指針の見直し、および環境省自然局長通達で、温泉の一般的適応症には「ストレスによる諸障害(睡眠障害、うつ状態など)」が明示され、単純温泉、塩化物泉、硫酸塩泉の適応症(いわゆる効能)には「うつ状態」が明示されることになった。
僕は、会社を休み始めて数か月経ったころから一人で温泉めぐりを始めた。
前述の局長通達の何年も前から、実感として「うつに温泉が効く」と感じてのろのろとやる気のない頭と体を振り絞って、温泉に出かけたものだ。
温泉がうつに効く、その医学的なからくりに関しては、僕は医者ではないのではっきりとはいえないが、体験的には温泉の「浮力効果」がいいように思う。
湯に浸かると体重は約10分の1になる(感じられる)とされ、湯にプカプカと浮いて、こぽこぽと湯が流れる音に耳を澄ませていると、頭の中が空っぽになる。 この「ナンにも考えない」状態が、どうやらいいような気がする。
うつ状態の思考は、答えのでない堂々巡りの考えが頭の中を駆け巡っているもので、そういう思考から解き放たれて、ただボー然と湯に浸かるという感覚は、温泉に浸かっていると手に入れやすいと思う。
特におすすめは「ぬる湯」である。 38度前後のぬるい湯は、のんびり長く浸かっていられるので、頭空っぽ状態も長く続きやすいというわけだ。
どこのぬる湯がいいか、というのは、僕も編集のお手伝いをした『温泉批評』2015年春夏号、特集「ぬる湯の悦楽・冷泉の魅惑」に紹介されているので、そちらを参考にして欲しい。 今でもバックナンバーが買える。
こうして僕は、気分が落ち込むと「ぬおおおお、温泉だ!」と力を振り絞って温泉めぐりに出かけていたわけだ。 おかげで、毎週このメルマガを書ける程度にはなって、今は落ち着いている。 その湯めぐりの延長で今に至っているわけだが、温泉めぐりも、ある意味重要な自己管理の一手なのである。
少し話がずれてしまったかもしれないけども、要するに「温泉は五月病にも効果がある」というお話でした。 マジで効くぞ。 だまされたつもりでもいいから、気分が落ち込んでストレスがたまったら、温泉に出かけてみよう。
転地効果だって、うつ病には確実にいい効果をもたらすはずだ。
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