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太宰治は本当に「人間失格」だったのか? 算命学で見る文豪の宿命

算命学研究家でありながら元科学者、投資家、翻訳家など様々な顔を持つ磯野はまぐりさんのメルマガ『占い中毒にご用心』。今回は、誰もが知る日本の文豪・太宰治の宿命を占います。人生のあらゆることに苦悩していたと言われる太宰。その独特な観点から魅力的な作品を数多く世に送り出しましたが、玉川上水に愛人と入水自殺というあまりに無残な最期を迎えます。もっと気楽に生きられなかったのか、磯野さんが算命学でみた太宰治像とは?

太宰治

物書きの仕事をするなら宿命に伝達本能が必要だ」などと、算命学では言われることがあります。伝達本能? 書いたり話したり、なにかで表現したりと情報を人に伝えたい、という人間の本能のことです。

では、宿命に伝達のための本能がないと書いたり話したりする仕事はできないのでしょうか?もちろん、そんなことはありません。そもそも、伝達本能という「本能は誰にでもあります

がしかし、伝達の要素がない宿命はあります。それでも、たとえ要素がなくても本能はあるのですからその本能を使うことは誰にでもできるはずです。書いたり話したりを仕事にできるかどうかは伝達の要素がなかったとしても、宿命にある他の要素を使って伝達本能をどう発揮するか? という問題なのです。

たとえ著作を読んだことがない人でもその名前は聞いたことがあるであろう作家の太宰治さん。彼の宿命には伝達の要素はまったくありません。伝達の要素をまったく持たない太宰先生の宿命には他のどのような要素があるのでしょうか?

宿命の半分以上が知の要素で埋まっています。ということは、知性が高いのか? というとそれは宿命だけではわかりません。言えることは、知性が高いか低いかにかかわらずあれこれいろいろ考え続けてしまう傾向にあるということです。なにか情報を得て、あれこれ考えるのが好きでそうせずにはいられないところがあるのです。かと言って、考えていることに意味があるのかまたその内容は正しいのかもしくは見当外れなのかはわかりません。

このような宿命の傾向を持つ人は「たくさん勉強するといいですよ」とアドバイスされることがあるかもしれませんが最も大切なのは使える考え方を学ぶことなのです。どういうことでしょうか?

とにかくいろいろ考え、勉強したくなる傾向があるのでその傾向を、意味のある有益なものにしなければなりません。そのために必要なのは、適切な情報や知識の取捨選択能力とそれら情報や知識を実利的に使いこなす応用力です。これこそが、知の要素を活かすために大切なことだと思います。これらの能力が十分に養われていないとエセ科学やトンデモ話を簡単に信じ込んでしまいあっというまにふわふわとした不思議な世界に行ってしまいます。

世の中は、なんの裏付けもない間違った情報で溢れかえっています。その中から、信頼できる情報を選び学習し実際に使える能力として会得してはじめて知の要素を活かすことができるのです。

私見ですが、それにはやはり基礎学力が大切だとおもいます。きちんとした読解力、基礎数学の概念、そして科学の基礎と社会常識だけでもきちんと身に付けておけば例えばネット上の広告記事などにあるさまざまな情報をその内容が適切かどうか、自分で評価できるはずです。義務教育での適切な学習と家庭でのしつけが大切なのです。

太宰先生にとって、知の要素を活かすことは自身の宿命を活かすための最重要課題です。そして、その知の要素を活かすためには…

の、2つの課題をこなすことが不可欠です。太宰先生の宿命のように内包する要素の半分以上を同じ要素が占める場合、その要素を活かすことはとても難しくなります。さらに大変なことに、太宰先生の宿命はその土台作りも、一筋縄ではいかない難しさがあります。最悪の場合「わけのわからないことを考えてばかりいて何の役にも立たない人」になってしまうかもしれません。どうすればいいのでしょうか? まず、両親の教育方針と家庭環境が大切です。具体的には、しつけと環境の「厳しさのさじ加減」が大切…というか、とても難しいのです。

太宰治さんは、1909年、大地主の家に10番目の子供として生まれました。父親は県会議員や衆議院議員を努め太宰先生が14歳のときに他界しました。母親が病弱だったため、太宰先生の世話は新生児の頃から乳母や叔母がしてきたそうです。

太宰先生の宿命の土台をしっかりしたものにするためにこの環境は適していたのでしょうか? ポイントは、両親の母親、つまり太宰先生の祖母と実際に育児にあたっていた乳母や叔母にあります。ふたりの祖母がかなり厳しい人で、その厳しさを和らげるように乳母や叔母が間に入ってとりなしてくれる。かといって、ただ甘やかすというのではなく押さえるところはきちんと押さえてしつけてくれる。そういう環境がひとつの理想です。

実際のところはどうだったのでしょうか? 私に真実を知るすべはありませんがそれでも、成人後の大宰先生が知の要素をきちんと活かせていたかどうかを見ればだいたいのところは推測できます。

子供の頃の太宰先生は、小学校を成績トップで卒業。進学後も学業成績は優秀人柄もよく人気者で級長を努めたこともありました。地元の名士の息子なので、実際の学力にかかわらずもれなく良い成績をもらえたという話もありましたが実際のところ優秀な生徒でとくに作文力は突出したものがあったそうです。10代から小説に親しみ、友人と同人雑誌を発行したり自らも執筆をはじめていました。やがて本格的に小説を書くようになると学校の成績はどんどん落ちていったそうです。

ここまで、太宰先生の知の要素は十分に発揮されていたのでしょうか?

勉学に関しては優れたものがあり小説家としての活動も、早くから始めていました。小説にのめり込みすぎたためか他の勉強はおろそかになってしまったようですが知の要素にかたよった宿命ですからなにかしらの知的活動にかたよった生き方は決して悪いことではありません

これだけなら、上手くいっているように見えるのです。これだけなら…。

子供の頃から級長を努め学業も優秀。大学に進んでからは、勉強の方は疎かになったようですが戯曲や小説の執筆に励んだ太宰先生の宿命は十分に活かされていたのでしょうか? あれこれいろいろ考えてしまう傾向は人生において上手く機能していたのでしょうか?

私生活に目を向けると、いろいろ問題が目立ちます。まずは多くの女性問題、それに伴う金銭問題、就職の問題複数回にわたる自殺未遂や心中騒動、そして薬物依存などなど…。芥川賞を3回にわたり落選したときには選考委員だった川端康成から、私生活の乱れを指摘されちょっとしたいさかいになったこともありました。

自己嫌悪人間不信異性への依存心などなど精神的にはボロボロの状態だったようです。やはり、宿命の土台がきちんとできていなかったのでしょうか?

文学の才能はあった。知の要素を文筆活動に活かすことができた。でも、それだけではまだまだ足りないほど活かすべき知の要素がたくさんあったのです。そして、生きていくために、普段の生活の中でそれを活かすことができなかったのだと思います。

多くの人にとっては小説を書くより簡単なことでも、太宰先生にとっては厳しすぎると感じられたり、かといって、ただ周りから甘やかされていると宿命の土台がゆらいで、何もできない人になってしまう。太宰先生の宿命には、そういう特徴があるのです。宿命のなかに厳しさをやわらげてくれる要素がまったくないのです。ですから、普通に考えると大したことのないちょっとした人生の問題も本人にとってはとても辛いことだったのかもしれません。

活かしきれなかった知の要素は本人のコントロールを失い、無意味な考えや思い込みにとらわれどんどん追い詰められてしまったのかもしれません。もっとも、そうして生じた葛藤が小説を書く原動力になっていたのかもしれませんが…。

最後は不倫相手の女性と心中を図り38歳でこの世を去りました。

天命を知って、人事を尽くそう!

image by: Wikimedia Commons

『占い中毒にご用心』

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算命学を活用した大人のための人生設計術をお伝えするメルマガです。「なぜこんなもので人生を語れるのかわけわからんが、あなどれないことだけは間違いない」と考える著者の「磯野はまぐり」は算命学研究家ですが、元々は科学者で、時々投資家で、ごくまれに翻訳家で、ほぼ毎日一家の台所担当重役だったりします。ほぼ日刊でお届けしています。

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