「少子化」と「アルバイト・パートの人件費上昇」というダブルパンチで苦しい状況に追い込まれているアミューズメント業界ですが、なぜかここに来て「ラウンドワン」の業績がV字回復しています。今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、そのあまりに「皮肉な理由」を分析・紹介しています。
ラウンドワンの業績がV字回復した意外な理由とは
屋内レジャー施設を運営するラウンドワンの業績が回復しています。2017年3月期の連結決算は、売上高が前年比5.1%増の877億円、本業のもうけを示す営業利益が4.9%増の66億円です。
売上高は2012年3月期に895億円にまで成長するも、翌2013年3月期は859億円に落ち込み、2016年3月期には835億円にまで低下しました。しかしここにきてV字を描く形で回復しています。営業利益は下げ止まりした形です。
ところで、ラウンドワンの業績で面白い現象が起きています。アルバイト・パートの時給上昇で人件費が上昇し経営を圧迫しているものの、一方で時給上昇が売上高を押し上げている面もあるからです。
ラウンドワンの施設運営における人件費の売上高に占める割合は上昇傾向を示しています。2008年3月期は16.5%でしたが、その後は上昇傾向を示し、2016年3月期には22.1%にまで上昇しています。17年3月期はまだ判明していませんが、おそらく高い数値になると予想されます。
人件費の上昇が同社の経営を圧迫し、営業利益率低下の要因になっていました。人件費上昇の要因の一つは、アルバイト・パートの時給の上昇にあります。特に2014年あたりから募集時の平均時給が急上昇し、人件費を押し上げる要因となっていました。
人材採用に関する総合サービスを提供するリクルートジョブズの「アルバイト・パート募集時平均時給調査(三大都市圏・全体)」によると、2009年8月から2014年頃までの募集時時給は概ね940円台で推移し落ち着いていましたが、その後は急激に上昇しています。2014年1月は948円でしたが、2015年1月は959円、2016年1月は978円、2017年1月は993円となっています。現在も上昇局面の途上にあることがわかります。
アルバイト・パートの時給上昇は企業にとって一般的に好ましいことではありません。ただ、ラウンドワンにとってはプラスに働いている面もあります。
ラウンドワンの主要ターゲット層は若者です。しかし、少子高齢化の影響でターゲット層の若者は徐々に減っています。このことはラウンドワンにとって喜ばしくない現象といえるでしょう。近年の同社の業績悪化は少子高齢化の影響も少なからずあったといえます。
一方、若者はアルバイトやパートとして働くことが少ないという側面があります。学生がアルバイトとして働いたり、若年層の主婦がパートとして働いていたりします。このように、正規社員ではなくアルバイトやパートとして働いている若者は少なくありません。
このことから、時給上昇による恩恵があることがわかります。というのも、時給上昇により主要ターゲット層の若者の所得が上がるからです。高い時給で働き、得た給与で消費を行います。少子高齢化でターゲット層は徐々に減っていますが、そのスピード以上にターゲット層の労働時時給が上昇していることで、若者全体としての所得は拡大しているのです。
若者の割合が大きいゲームセンターの売上高は大きく上昇しています。2017年3月期は前年比39.4%にもなっています。若者の所得増加が業績に貢献しているのです。
一方、幅広い年齢層が楽しむボウリングは苦戦しています。ラウンドワンは2015年ごろから、開店時間を午前10時から8時に繰り上げるなどシニア層の取り込みに舵をきって少子高齢化対策を始めました。しかし、ラウンドワンのボウリングはそれでも低迷が続き、2017年3月期の売上高は前年比で1.1%減少しています。
近年、ゲームセンターを利用するシニア層が増えているという報道があります。しかし、2016年9月15日付ブルームバーグの報道によると、60代以上のゲームセンター参加率は2005年と2015年との比較で、男性で1.0ポイント程度の上昇、女性で2.0ポイント程度の上昇です。1年あたりではわずか0.1ポイントと0.2ポイント程度にすぎません。シニア対策は中長期的な施策の問題で、ラウンドワンの直近の業績に大きく貢献したとは言えないでしょう。
いずれにしても、アルバイト・パートの時給上昇による若者の所得増加はラウンドワンにとって追い風になりそうです。しかし、アミューズメント業界の市場規模は縮小傾向にあり、中長期的には厳しい経営環境が続きそうです。
日本生産性本部の「レジャー白書2016」によると、「ゲームセンター」の市場規模は、2006年から2015年までの10年間では大きく縮小しています。2006年には6,580億円ありましたが、その後は縮小傾向を示し、2015年には4,050億円にまで落ち込んでいます。
また、「ボウリング」も同様で、2006年には1,020億円ありましたが、2015年には660億円にまで減少しています。
カラオケ市場も縮小傾向にあります。2006年は4,363億円で、その後は若干の起伏があり、2015年は3,994億円となっています。
アミューズメント業界の市場規模は、今後大きな拡大を見込めそうもありません。時給上昇による若者の所得増加もいつまで続くかはわかりません。おそらく2020年の東京オリンピック以降は落ち着くと考えられます。ラウンドワンは中長期的な成長戦略が求められるといえそうです。
image by: WikimediaCommons(掬茶)