4月1日、名古屋に鳴り物入りでオープンした「レゴランドジャパン」。東海地方の観光の目玉として期待される中、同社は開業から2ヶ月足らずで家族向けの入場料を最大25%割り引くチケットの販売を開始し、メディアはこぞって「早くも値下げ」と報じました。これについて、メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』の著者でMBAホルダーの理央 周(めぐる)さんは「あくまで早割り」だと指摘。同社が目標に掲げる「年間来場者200万人」達成のために必要なことは何かを助言しています。
レゴランドジャパンの価格変更は値下げなのか?
私の地元名古屋に、4月1日にオープンした、レゴランドジャパン。東京にはディズニーリゾート、大阪にはUSJと、大型テーマパークと言えばこの2つだったところに、やっと名古屋にもできたと、とても喜ばしい。
年間200万人の来園者数を目指すとのこと、産経ニュースによると、愛知、岐阜、三重の近隣3県以外からの来場者は全体の6割だったそうで、入場者数を増やすには、海外を含む他県からの集客が今後の鍵を握るので、この6割という数字がベンチマークになると言えそうだ。
そのレゴランドジャパンが、5月25日から、家族向けの入場料を最大25%割り引くチケット、「ファミリー1DAYパスポート」の販売を開始したとの報道があった。
多くのニュースソースでは「値下げ」、と報道されている。
確かに、ここ数週間レゴランドジャパンの、メディアでの露出も減った気がするし、レゴランドジャパンに隣接する商業施設の中にある1店舗が撤退を表明、レゴランドジャパンの集客数が思ったより低いことが、その理由と報道されてもいる。
この「ファミリー1DAYパスポート」は2種類あり、4人分チケットは通常、最大で2万4,400円、入場日から7日以前に購入すると1万8,300円、2~6日以前だと1万9,600円に割引されるとのこと。3人分のチケットの方は、通常最大で1万9,100円で、同じように、7日以前の購入で1万4,700円、2~6日以前で1万5,600円の価格になる(レゴランドジャパンのホームページより)。
つまり、値下げや値引きというよりも、「ファミリー向けチケットの『早割りサービス』を開始した」ということになる。
一見、同じことを言っているようだが、大きく異なる。
価格は、価値の格という文字で表されるように、顧客が価値に見合う対価を支払うものだ。それを、下げるということは、見た目の価値を下げる、と受け取られてしまうことになる。
レゴランドジャパンとしては、値引きする、または値下げした、と捉えられるべきではなく、明らかに子供連れのファミリー層を主要ターゲットにしているため、「ご家族向けのサービスの一環として、早割りサービスを開始しました」という方針を表現すべきであろう。
価格設定の重要性
「値決めは経営」という稲盛和夫氏の言葉にあるように、経営者は価格を設定する際に、多様なことを複雑にからみ合わせて考える。
以前、「過去最高のUSJ、苦戦のディズニー。明暗分けた年間パスの価格設定」でも書いたが、USJにおいては数学マーケティングの手法を導入しているし、顧客がどれだけ、価格の振れ幅に対して敏感に反応するかを調査する、PSM分析という手法もある。これらに、競合状況を鑑み、固定費と変動費、初期投資の減価償却や回収年数などを鑑みて決定する。
すなわちすべての経営資源をどのように活用し、収益を好転させるか、という経営の目的に、最も近いところにあるのが価格設定なのだ。
報道によると、「2~12歳のお子様とそのご家族をメインターゲットとしているため、そうしたチケットがあった方がよいかどうか、以前から社内で検討しておりました。お客様からそうしたご要望もあったので、販売に至りました。(J-CASTニュースより)」とのことだが、その背景には、前述したプロセスがあったことを望みたい。
中小企業が参考にすべきこと
今後、レゴランドジャパンが目標にしている、年間200万人を目指すには、何をすべきだろうか? 通常、初年度は話題性があるので来園者数もあるが、USJもそうだったらしいのだが、2年目から来園者数が減ることは多いとのこと。
やはり、顧客がロイヤルティーを持って、リピート来場してくれることが一番であろう。そのために、今回のファミリー早割り価格の設定は、一つの手法として、功を奏すればよい、と感じる。
しかし、お値打ちな価格だけでは、お値打ち価格が好きな顧客層が集まり、他に安い価格のテーマパークができれば、そちらに流れてしまう。
やはり、明確な事業コンセプトを打ち出すことが、まずは必須だ。東京ディズニーリゾートは、ゴミ一つ落ちておらず、園内から外の建物は見えない、ミッキーは私たちの心の中に1人しかいないという、「夢の世界」がコンセプトだし、USJは、映画を軸にした「エンタテインメント」がコンセプトだ。
コンセプトが明確だと、顧客に自社が提供したい価値も伝わり、価格ではなくその価値が判断基準になる。
レゴランドジャパンのコンセプトは、やはり知育玩具で学びながら遊べることであろう。私も息子や娘が小さい時に、レゴを使い「自分で工夫して」一から何かを組み立てることで、想像力と創造力の、両方が育まれると感じていた。
レゴランドジャパンも、既存のアトラクションで楽しむだけでなく、工夫する、作り出す楽しみを、家族で体験できることが、顧客価値であり、事業コンセプトだ。コンセプトへの共感による、判断基準を明確にすることで、来園者数増を目指すべきであろう。
私の大好きな地元名古屋にできたレゴランドジャパン。さらなる飛躍をしてもらいたいと感じる。