安倍官邸は、よく知られているように、経産省とともに警察官僚が力を持っている。
事務方の官房副長官が元警察庁警備局長、杉田和博氏であり、中村格氏らと連携して、秘密保護法や共謀罪などの政策決定に関与してきたと推測される。
元警察庁警備局外事情報部長で、現在、内閣情報調査室を統括する内閣情報官、北村滋氏も安倍シンパの警察官僚といえるだろう。
週刊新潮5月25日号によると、どうやら山口氏が詩織さんのことで直接、相談していたのは北村氏のようだ。記事の一部を引用しよう。
(山口氏に)その取材依頼書をメールで送った後のこと。「北村さま、週刊新潮より質問状が来ました。○○の件です」というメッセージが、なぜか本誌に届いた。「北村さま」に転送しようとし、誤ってそのままこちらへ返信してしまったのだ。○○には被害女性の苗字が記されている。その文面から、かねてより山口・北村間で今回の事案が問題視され、話し合われてきたことがわかる。北村と聞いて頭によぎるのは、北村滋内閣情報官を措いて他にない。
このように、自らの事件について安倍官邸と、関係する警察官僚の世話になってきた山口氏が、森友学園問題などで数多くのテレビ番組に出演し、安倍首相に有利なコメントをしてきたのは、人情論としてはよくわかる話であるが、少なくともジャーナリストのとるべき姿勢ではない。
山口氏の逮捕とりやめ事件は、“アベ友”特別扱いの一つではないかとして、官邸に疑惑のまなざしが向けられている。国民へのきちんとした説明が必要だ。
その点、国会での質疑が不足し、マスコミの報道がいささか及び腰であるのは、きわめて残念である。
国会では6月2日の衆院本会議において、井出庸生議員(民進)が「事実関係の確認と捜査を検証する意思はあるか」とただしたが、松本国家公安委員長に「不起訴処分になっているので、考えていない」と軽くいなされた。これで終わりにせず、調査と追及を厳しく続けてもらいたい。
性犯罪を厳罰化する刑法改正案が衆議院で審議入りしたばかりである。権力の恣意によって処罰の適否が左右されないよう、国会、メディアともに、この事件を矮小化せず、性犯罪被害者の心に寄り添う政治や捜査のあり方を突き詰めていくべきだろう。
週刊現代6月17日号によると、ザ・キャピトルホテル東急の15~17階にある超高級賃貸マンションの一室に月額200万円の賃料を払って事務所をかまえる山口氏。いくら最近、テレビ出演のオファーが相次ぎ、「総理」などの著書を出し、雑誌に記事を書いているとはいえ、とてもそれだけで、ジャーナリストらしからぬゴージャスな生活を維持できるとは思えない。
今回の疑惑について、山口氏はフェイスブックなどで「私は法に触れる事は一切していません。…1年4ヶ月にわたる証拠に基づいた精密な調査が行われ、結果として不起訴という結論が出ました。よって私は容疑者でも被疑者でもありません」などとコメントしているが、「不起訴」だから問題ないという態度はジャーナリストの資質として、いかがなものだろうか。
山口氏が今後もジャーナリストとして仕事を続けていきたいのなら、権力の走狗となって庇護されるのではなく、一般市民の側から権力を客観視する姿勢をとるべきであろう。権力に肉薄するのはよいが、心まで売り渡してはならない。
image by: 山口敬之氏Facebook