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富士フイルムHD、375億円の損失。名門の不正会計はなぜ起きたか?

6月12日、富士フイルムHDは傘下の「富士ゼロックス」のニュージーランドと豪州の販売子会社で不適切な会計処理が行われていたことを発表、損失額は375億円に上るということです。また、今回の不正に対する内部告発を「隠蔽」するよう幹部から指示があったことも公表されました。あの名門企業と子会社との間にどんな問題があったのでしょうか? 無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、不正の行われた背景について詳しく解説しています。

富士フイルムHD、375億円の損失。海外子会社で売上の過大計上が蔓延

売上至上主義が不適切な会計処理を生み出したようです。そして「まずは問題ないと書け」などと不正会計の隠蔽指示があったようです。そのため、問題は隠されたままとなっていました。

富士フイルムホールディングス(HD)は6月12日、傘下の富士ゼロックスの海外子会社(ニュージーランド)における不適切な会計処理で、4月時点では損失額は約220億円になる見込みを示していましたが、損失額は375億円になったと発表しました。また、ニュージーランドの他に新たにオーストラリアの子会社でも不適切な会計処理があったとしています。

この問題に関し、利害関係がない外部の専門家からなる第三者委員会が調査していました。2015年度以前の特定のリース取引の一部に関して会計処理の妥当性を確認する必要が生じていました。

今回発表された調査報告書によると、当該海外子会社が行なっていた標準的な契約の形態は、複写機やコピー機などの機器代金、トナーや紙といった消耗品代金、保守料金、金利をまとめて毎月のコピー料金で回収するというものでした。また、顧客が固定料金を支払う義務の規定はなかったといいます。

標準的な契約の形態では、機器相当の売上を初年度に一括計上しコピーの利用量に応じてコピー料金を回収していました。計上した売上分のコピー料金を回収できればいいのですが、多くが回収できず、売上の取り消しも行われませんでした。その結果、売上が過大計上されることになり、過大計上分のリース債権の回収が困難になったのです。

2015年7月の内部監査では、7割程度の契約が月ごとに設定されていた目標コピー枚数量に達していなかったといいます。

この仕組みであれば、「使わなければ料金はかかりません」と言って販売する営業担当者もいたでしょう。簡単な営業トークで売上を上げることができます。売上に応じてボーナスなどが支給される評価制度だったため、無理やり販売していた営業担当者もいたようです。業績を調整する目的で、契約未締結、機器未設置での先行売上の計上、架空売上の計上、費用の繰り延べ処理といった不適切な会計処理も行われていました

さらに、ニュージーランドの子会社では、教育機関などに物品を無償提供する販促活動の費用に相当する金額を顧客に対する売上に計上していたといいます。また、競合他社の顧客に対しリース債務の残額や解約金を肩代わりし新規のリース契約を獲得する活動も行なっていました。

こうした不適切な会計処理が行われていた背景には「売上至上主義が蔓延していたことがあります。目標達成によるボーナスが報酬のなかで大きな割合を占め、そのうちの売上の考慮割合が大きかったことが売上至上主義につながったと考えられています。

ちなみに、ニュージーランドとオーストラリア子会社の2016年度の業績評価のウェイトは、総売上高が3割、営業利益が3割、アウトソース・ソリューションビジネスの売上高が2割となっていて、評価項目における売上高と利益の比重が高くなっています。売上高と利益偏重の業績評価が売上至上主義につながったと考えられます。

売上至上主義を示す事例があります。日本国内の業績が伸び悩むなか、ニュージーランドやオーストラリアなどのアジア・オセアニア地域が業績回復の牽引役として期待されていました。そうしたなか、ニュージーランドの子会社はある期間において48カ月連続で業績目標を達成したといいます。ある人物はその期間の中で2度、最優秀MDとして表彰され、各2万NZドルの報奨金を獲得しています。ただし、これは不適切な会計処理が行われていた中での結果にすぎません。

2015年7月8日(米国時間7月7日)、ニュージーランド子会社で不正会計や売上過大計上が行われているとの告発がありました。不正を許せない良心があったようです。しかし、告発に対し幹部が「まずは問題ないと書けなどと不正会計の隠蔽指示を行なったといいます。そして「不正会計、売上過大計上はなかった」と結論づけました。もちろんこのようなことで隠し続けることはできず、明るみになり、そして第三者委員会による調査が行われるに至ったのです。

不適切な会計処理は、富士フイルムHDの管理・監査体制の甘さが招いたといえます。報告ラインが特定の人物に集中していたため、取締役による監督が有効に機能しませんでした。監査や経理のチェック機能も有効に働いていませんでした。また、ニュージーランドでは販売会社とリース会社が同一の住所で共存し、その代表者が同一人物だったため、審査・チェック機能が働かなかったことも不正を助長しました。

富士フイルムHDと傘下の富士ゼロックスの一体感の欠如も指摘されています。そのことが不正を正せなかった原因とも指摘できます。そのことを示すため、富士フイルムHDの事業構造を確認します。

同社の事業は次の3つで構成されています。「イメージング ソリューション」「インフォメーション ソリューション」「ドキュメント ソリューション」の3つです。

イメージングソリューション事業はカメラの販売やプリントサービスなどを行います。インフォメーションソリューション事業は医療機器や医薬品などを販売します。ドキュメントソリューション事業はオフィス用複写機・複合機、プリンターなどを販売します。

2001年3月に富士写真フイルム(現・富士フイルムHD)富士ゼロックスの株式を追加取得し連結子会社化しました。富士ゼロックスはドキュメントソリューション事業の中核を担う企業で、同事業に関する国内外の製造子会社や販売子会社を多数所有しています。

富士ゼロックスが中核のドキュメントソリューション事業は富士フイルムHDの売上高の4割以上を占める稼ぎ頭です。そのため、富士フイルムHDは親会社とはいえ、傘下の富士ゼロックスに頭が上がらなかったのかもしれません。

そういったことから、富士ゼロックスの海外子会社の暴走を富士フイルムHDが管理しきれなかった面がありそうです。例えば、富士フイルムHDは企業理念で「オープン、フェア、クリアな企業風土」を目指すとしていますが、富士ゼロックスのホームページにはどこにもそのような言葉は見当たりません。両者には一体感が見られないのです。

不正発覚を受けて、富士フイルムHDは経営陣を刷新すると発表しました。そして再発防止策を講じることも示しています。はたして同社は失った信頼を取り戻すことができるのでしょうか。

image by: TK Kurikawa / Shutterstock.com

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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