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トランプの「自爆」を機に、国際世論を味方にする中国のしたたかさ

先日開催されたアジアインフラ投資銀行AIIB)の年次総会で、「地球温暖化対策に結びつく投融資に注力していく」と表明した中国。その理由として、米国のトランプ大統領が離脱を表明した「パリ協定を推進するため」としました。これを受け、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で、世界情勢に詳しい北野幸伯さんは、「中身がともなわないとはいえ、中国のPR作戦は功を奏している」との見方を示しています。

ええ!? AIIBが地球温暖化問題を解決する???

中国主導で設立された「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)が、「地球温暖化問題の解決に結びつく投融資を積極的に行う方針を示しました。なぜ???

これまでの流れ

これまでの流れを復習しておきましょう。

AIIBとは、何でしょうか? 中国主導の国際金融機関で、2014年10月に設立されました。

2015年3月、歴史的「AIIB事件」が起こります。イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スイス、イスラエル、オーストラリア、韓国など親米国家群が、アメリカの制止を無視し、AIIBへの参加を決めたのです。これは、「親米国家群が、アメリカではなく中国との関係を優先させた」事件として、世界に衝撃を与えました。以後、オバマ・アメリカと、アメリカを裏切らなかった国・日本の関係は、「史上最高」といわれるほど良好になりました。

一方、米中関係はひどく悪化します。2015年9月に訪米した習近平は、とても冷遇された。そして、南シナ海で、米中の軍事衝突が懸念されるようになった。さらに、「AIIB事件」以降、中国経済が急速に悪化していった。

その後、AIIBはどうなったのでしょうか? 発足メンバーは57か国だった。実をいうと、その後も加盟国は増えつづけ、現在なんと80か国になっています。

トランプの自爆を見逃さなかった習近平

追いつめられた習近平。しかし、アメリカの変化で救われます。2016年11月のアメリカ大統領選挙で、グローバリスト・ヒラリーではなく、ナショナリスト・トランプが勝った。グローバリスト・国際金融資本は、この敗北で、大いに落胆しました。

2017年1月、グローバリストが集結する「ダボス会議」は、とても暗い雰囲気だった。そんな中、グローバリスト達に、「心配しないでください! 私がグローバリズムを進展させます!」と宣言した男がいます。そう、習近平。以後、欧米で、「中国経済はもうダメだ!」という報道は極めて少なくなりました。

そして、6月1日、トランプはパリ協定からの離脱を宣言した。中国は、すかさず「パリ協定絶対支持宣言」を出した。これで、国際世論は、

になってしまった。中国嫌いの私たちには、「受け入れたくない事実」ですが、残念ながらそういうことになってしまった。私たちは、80年前の間違いを繰り返さないために、「日本にとっていいことも、悪いことも、『あるがまま』に知っておく」必要があります。

現状は、トランプ・アメリカが世界を敵にして孤立し、習・中国は、「グローバリストのフリをして国際世論を味方につけている」のです。

AIIBが地球温暖化を解決する???

こういう流れを踏まえて「AIIB」の話をしましょう。

中国主導AIIBがパリ協定推進 温暖化対策に投融資へ

朝日新聞DIGITAL 6/17(土)0:20配信

 

中国主導で設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)が16日、韓国済州島で2度目の年次総会を開き、地球温暖化対策に結びつく投融資に注力していく方針を打ち出した。米国が離脱を表明した温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」を推進するためだ。

地球温暖化対策に結びつく投融資に注力していく方針を打ち出した」

「米国が離脱を表明した温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定を推進するためだ」

だそうです。

気候変動問題への対応では、中国が牽引(けんいん)役としてグローバル規模に期待されており、パリ協定堅持を掲げる欧州の参加各国・地域などの声に応えた形だ。
(同上)

「中国が牽引役としてグローバル規模に期待されており」

「ホントかよ!?」
「期待してねえぞ!」

一般的な日本人の反応は、こんな感じでしょう。「グローバル規模」で期待されているかはわかりませんが、「少なくともパリ協定離脱を宣言したアメリカよりだいぶマシ」と思われてはいるでしょう。

「AIIBにはパリ協定を推進し、支持するという重要な役割がある。参加国が将来、二酸化炭素排出を減らす支援に力を入れる」。この日にあった総会の開幕式で、金立群総裁はこう強調した。具体的には、温暖化ガスの排出が少なく、安全な発電施設への投融資に重点的に取り組む。

AIIBにはパリ協定を推進し支持するという重要な役割がある

そうです。「いつからそういう話になったのだ?」ということですが。

具体的には、温暖化ガスの排出が少なく、安全な発電施設への投融資に重点的に取り組む。

クリーンエネルギー発電施設」に投融資するということでしょうか。

すごい中国のプロパガンダ力

トランプは、「パリ協定離脱」を宣言して、「自爆」した。中国は、この機を逃がさず、「パリ協定絶対支持宣言」をした。さらに「AIIBは地球温暖化を解決するのが使命だ!」と宣言する。これは、中身のともなわないPR、プロパガンダの類です。それでも、「国際社会における中国のイメージをアップさせる」のに、極めて効果的なPRといえるでしょう。

私は去年の4月、「トランプ大統領が誕生すれば、アメリカは覇権国家から転落する」と書きましたが、まさにそんな感じになってきました(その記事はこちら→「トランプ大統領誕生なら米国は覇権国家から転落する」)

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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