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株価もパニック。米アマゾンの1.5兆円買収劇に見え隠れする野望

先日、ネット通販最大手「アマゾン」が、アメリカの高級スーパー「ホールフーズ」を1.5兆円で買収することを発表しました。これにより、アマゾンは2001年に倒産した「ウェブバン」以降、誰も手を出そうとしなかった生鮮食料品のオンライン販売に乗り出すことになります。Windows95の設計に携わった世界的プログラマーの中島聡さんはメルマガ『週刊 Life is beautiful』で、この一件に関連して自身が4年前に出した「アマゾンに関する予測」が現実になりつつあると記しています。

アマゾンによるホールフーズの買収

先週の金曜日、アマゾンによるホールフーズの買収が発表され、これが株式市場を大きく動かしました。アマゾンの株価が大きく上昇し、ターゲット、コストコなどの小売ビジネスの株価が軒並み下がったのです。

なぜオンライン・ビジネスを展開するアマゾンが小売店舗を持つホールフーズを買収することになったのかは、これまでのアマゾンのアマゾンフレッシュへの取り組みに目を向ければ理解できます。

アマゾンがアマゾンフレッシュを使って生鮮食料品の市場への参入を狙っていたことは、ここでも何度か書いてきましたが、とても慎重でした。数年前に、地元シアトルを含む、ごく一部だけでの限定サービスとしてローンチはしましたが、全国展開をすることもなく、サービスの微調整を繰り返しながら、顧客の反応を見る、ということを続けていました。

生鮮食料品のオンライン販売ビジネスに関しては、ウェブバンの失敗もあり(2001年に倒産)、後に誰も続く状況もなく、アマゾンとしても、焦って全国展開をする必要もないと考えていたのだと思います。

さらに、生鮮食品特有の調達や流通の難しさや、実店舗の重要さを考えると、アマゾンフレッシュという今の形のままでは全国展開しても、ビジネスとして成功させることは難しい、と考えていたのだと思います。

そして、生鮮食料品の市場に本気で乗り出すのであれば、全国に実店舗を持つことは必須であり、その調達・流通のネットワークを使って生鮮食料品のオンライン販売をするべきだ、という結論に達していたのだと思います。

そのロジックに立脚した上で、「どこを買収すべきか」を考えてみると、ホールフーズというのはもっとも納得できる選択肢です。オーガニック食品を売る高級スーパーとしてのホールフーズブランドは、パートナーとして申し分ないし、アマゾンプライムのメンバーとの親和性もとても良いのです(ホールフーズで買い物をする人たちとの相関関係はとても強いと思います)。

一部の記者は、この買収を「ウォルマートに対抗するため」「アマゾンが小売業に進出する第一歩」などと書いていますが、それは大きな間違いです。

アマゾンにとっては、「オンラインか小売か」などはどうでも良いことで、とにかく世界中のあらゆるものの流通に関わり、世界中の人々にとってなくてはならないサービスを提供することが何よりも重要なのです。

生鮮食料品という、非常に重要なものの流通には、小売店舗を持たなければ関わることが出来ないからホールフーズを買収しただけのことで、小売店舗を持つことそのものが目的ではないのです。

ちなみに、私がもしアマゾンジャパンで生鮮食料品ビジネスを立ち上げる担当者であったなら、たぶん、コンビニチェーンの一つを買収することを提案すると思います。アマゾンと日本のコンビニが組めば、それこそコンビニを人々にとっての「冷蔵庫の代わり」にしてしまうことすら可能だからです。

さらに、コンビニチェーンを持てば、宅配のコストを大きく下げることも可能だし、プライムメンバーの数を増やすことにも大きく貢献できると思います。

いずれにせよ、今回の買収により生鮮食料品の流通に大変化が訪れることは確実になりました。私が4年ほど前にここに書いた「アマゾンはいつの日か、世界のGNPの数パーセントを担うことになる」という予測が、まさに現実のものになりつつあるのです。

image by: SEASTOCK / Shutterstock

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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