選挙前になるとかかってくる電話世論調査。最近では、自動音声のものもあり、出た瞬間ビックリしてしまいますよね。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、同メルマガ著者で元「ニュースステーション」の気象予報士にして元ANA国際線CAでもある河合薫さんが、この「電話世論調査」の信頼性について冷静な考察をしています。
内閣支持率を信じますか?
先週「モーニングクロス(MXテレビ)」に出演したときに、「世論調査の数字って」というテーマでお話をしたのですが、「もう一度ちゃんと知りたい」「Twitterで話題になっていたので知りたい」etc.etc. リクエストが続出。みなさんの関心の高さを改めて実感しました。
そもそも私は「調査屋」みたいなもの。健康社会学も社会学ですから、研究を行う時は調査を実施するのです。というわけで、今回はテレビでお話したことに「ココでしか言えない」プラスαも加えて、世論調査を統計的目線で切っていきます。
まず最初に世論調査には……、
- サンプルの抽出方法
- 調査方法
- 質問文と選択肢
といった3つの「数字」を左右する要因があります。ひとつひとつ「日本の世論調査の歴史」とあわせて、解説していきますと、最初のサンプルの抽出方法、すなわち対象者の選び方は極めて重要で、世論調査の場合、対象者は「選挙権のある人」になります。
日本で最初に行われた世論調査は、1945年10月の毎日新聞による「知事公選の方法について」というもので、翌年には朝日新聞が「支持政党調査」なるものを行いました。
日本人は「他人がどう考えているのか?」を気にする傾向が強いので、世論調査が大好き。昔から広く興味をもたれてきました。
サンプルの抽出方法も、最初から選挙人名簿や住民基本台帳を属性別に無作為に2段階で抽出する「層化二段無作為抽出(=ランダム・サンプリング)」を用い、信頼性の高いデータにこだわりました。
ランダム・サンプリングは、統計学的にも妥当性が検証されている手法です。私も修士時代には調査の度に役場に通い、住民基本台帳をもとによくやりました。しかしながらこの手法は手がかかる上に、個人情報保護法の影響で目的によっては台帳閲覧が制限されるケースが出てきました。
そこで世論調査はRDD方式(Random Digital Dialing)に転換。今行われている世論調査のほとんどが、コレです。といってもすべてをランダムにするわけではありません。最初に地域別に分類し、電話番号の下4ケタだけをコンピューターで乱数を発生させるのです。乱数の作り方はいろいろなので、どれを使っているかはわかりません。
ちなみにRDD方式は統計学的には、妥当性や信頼性の確証は得られていません。ですから研究者からは、実体のないものを捉えているとして、「ブルジョア統計学」とも揶揄されています。
二つ目の調査方法ですが、かつてはランダム・サンプリングにより選ばれたお宅に、プロの面接官が訪問し調査していました。その後、質問票と返信用封筒を送り、期日までに返信する「郵送法」に変わりました。私の大学院時代はもっぱら郵送法でしたので、何度封筒に宛名を貼り、質問票を入れるのに夜なべしたことか……。バイトを頼むお金のないので東大のしけた研究室で(壁にひび入り……笑)、ツラさをごまかすためにひとり歌を歌い、やり過ごしました~。
回答率もシール付きの封筒の方が高まるとか、質問票が色付きだといいとか、お願い文もかなり工夫しました。おまけにこれだけしんどい経験をすると必死で回収にも励む。返信が来たときの喜びもひとしおで……「がんばってこのデータを生かさなきゃ!」とモチベーションも高まるんですよね。世論調査の場合、郵送方式だと有権者がその内容を吟味し考える時間ができるので、とても有意義な方法です。
ところが1990年代からは、電話方式に転換。最近は自動音声によるものになりました。これはダメです。「面倒臭い」と切る人、電話口の調査員に怒鳴る人……、自動音声だと「ホントに選挙権のある人」なのかも不明。この段階で、完璧に世論調査は「意味なき数字」に成り下がります。
そして、最後が質問文と選択肢。3択なのか?4択なのか?「はい」「いいえ」「わからない」。「はい」「いいえ」「どちらでもない」でも変わります。
質問文は微妙なニュアンスで大きく変わります。米国では大規模な世論調査は古くから、ギャラップ社とNORC(シカゴ大学)が行っているのですが、いつも数字が異なるとして有名でした。その中のひとつの事例で、もっともシンプルなのが、以下の「幸福感」に関する調査です。
【ギャラップ社】
Are you very happy ? Are you fairy happy? or Are you not very happy?
【NORC】
Are you very happy ? Are you pretty happy? or Are you not too happy?
さて、「fairy」と「pretty」、「very」と「too」―――。これだけの違いで、なんと「Are you very happy ?」という両者共通の回答率が変わったのです!!! ギャラップ社の方が、「Are you very happy ?」を選ぶ人が、15ポイントも多かったというのです!
人間って不思議だね~~。ちょっとした言い回しで変わるだなんて。
これって要するに、
「河合薫」のとなりに、メガネをかけた「久米宏」がいる場合
と
「河合薫」のとなりに、メガネをかけていない「久米宏」がいる場合
を比較した場合、「メガネをかけた久米さん」と一緒の「河合薫」の方がかわいくみえるようなもの? (苦笑)
少々例が悪い気がしなくもありませんが……。要するに、現在行われている世論調査の数字は、全く信頼できるものではありません。数字に意味はない。その「トレンド(変化傾向)」を見ることだけにとどめたほうがいいかもね~ってことになっているのであります。
ちなみにVol.029で、「世論調査がかかってきた!」と近況でご報告しましたが、あれも音声でして「年齢」をプッシュホンで押すように指示されましたが、とりあえず30代にしておきました!(←密やかな抵抗!)
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(『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』より一部抜粋。続きはご登録ください、初月無料です)
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