うだるような暑さが続くこの季節に冷たい飲み物は欠かせないですよね。コンビニや自販機で飲み物を買う方も多いと思いますが、マイ水筒にお茶やコーヒーを入れて持ち歩くという方も意外と多いのではないでしょうか。NY在住で『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』の著者・りばてぃさんによると、近年アメリカでも「マイ水筒」を持ち歩く人が増加中とのこと。コーラを家や飲食店でがぶ飲みしているイメージが強いアメリカですが、「飲み物への意識の変化」と、ある画期的な水筒が登場したことにより、そのライフスタイルに少し変化が出てきている様です。
ドリンクのトレンドから考える日本企業のビジネスチャンス
(1)お水が人気
日本は各地で猛暑日だそうで、日中35度越え、夜中でも30度近い熱帯夜が続いているようだ。
暑いと冷たいものが飲みたくなるというか飲まないと熱中症になってしまうのでできる限り飲んだ方がいい
コンビニの冷たいドリンクの入った冷蔵室が売り切れてほとんど空になってる様子を見かけるのもこの季節ならではだろう。
本当に暑いとコーラなどの炭酸飲料よりもお茶やお水のほうが飲みたくなる気もする。
これは別に主観的な感想ではなく、健康志向の高まりもありだんだんそう考える人が増えているのかもしれない。
実は、コーラが大好きな人が多いイメージが強いアメリカ人ですら、コーラよりお水を好む人のほうが、増えていたりするのだ。
具体的には、2016年、アメリカでは、コカ・コーラやドクター・ペッパー、7Upなどの炭酸飲料水(いわゆるソーダ類)の販売量を、史上初めてミネラルウォーターなどの清涼飲料水が上回ったのである。
(ご参考)
・ソーダの販売量を上回ったアメリカの清涼飲料水人気の最前線!?
リンク先の記事をご覧のとおり、お水がソーダの売上を上回ったわけだが、厳密に言うと、ここでいうお水はボトル入りのミネラルウォーターなどである。
ボトル入りの水がいっぱい売れると空のボトルのゴミがいっぱい増える。
空のボトルのゴミがいっぱい増えると環境に悪い。
アメリカ人は環境問題にも大変意識が高く、様々な取り組みが近年行われるようになった。
例えば、ニューヨークでは環境問題に関連したデモ行進が山ほどあって、その中の一つの2014年に行われた、「ピープルズ・クライメイト・マーチ」(People’s Climate March)には、30~40万人が集まった。
(ご参考)
・NYで史上最大の環境・気候デモ「ピープルズ・クライメイト・マーチ」People’s Climate March
その他、ニューヨークでは、市の水道局が空になったペットボトルのゴミを減らす環境問題対策として、無料の水飲み場プログラムを実施。
実は、ニューヨークの水道水はNY州内で第一位の受賞歴もあるほど美味しい水なのだ。
NY州は、北限でカナダに接しナイアガラの滝などを含む広大な湖や渓流の豊富な大自然エリアを有するが、そうしたエリアの水道水
(それ自体が●●山の美味しい水のようなもの)よりも、大都会のNY市の水道水のほうが美味しいというのである。
そんな美味しいNY市の水が街の至るところに設置された簡易の給水所で飲めるだけでなく、持参したペットボトルや水筒などに自由に無料で水を給水できるのだ。
(ご参考)
・NY市の無料の水飲み場プログラム(Water-On-the-Go)から生じる社会的な意識改革
すっかり、夏のこの時期の風物詩になっているほどなので、活用する人も多い。
特に、ペットボトルや水筒などを持参する方々が増えている。
ペットボトルや水筒などを持参する方々が増えた結果、ニューヨークの街角には、そうしたペットボトルや水筒などに給水しやすいタイプの給水ステーションも登場。
(ご参考)
・NYの公園にペットボトル専用の給水ステーション
・NYの5番街のマイクロソフト・ストアにあるペットボトル専用の自動給水ステーション
(2)急成長した水筒ブランド
ところで、ペットボトルや水筒などを持参する方々が増えるとどうなるか?
いろいろな現象が起きるが、興味深い一例としては、大ヒット商品が生まれる。
アメリカではこれまで無かったステンレス製の便利でお洒落な水筒が飛ぶように売れて、しかも、その水筒を作ったのが、良い感じの女性社長だったので、注目の女性経営者としても大きな話題になっているのだ。
その製品とは、「スウェル」(S’well)。
2011年にサラ・カウスさん(Sarah Kauss)さんが創業した水筒ブランドである。
報道によると、スウェルが登場する前は、保冷・保温に対応したステンレス製でしかも、デザインがお洒落な水筒はアメリカには皆無という状況だった。
保冷・保温が効かないとか、持ち歩きにくいなど何かしら不満の残るものばかりだったそう。
そこで、保冷は24時間続くスタイリッシュなデザインの「スウェル」を自ら立ち上げたのである。
今では、お洒落なセレクトショップ、各種デパート、ラグジュアリー系のスポーツジム、美術館などでも取り扱っている。
一般的なサイズの水筒で35ドルほど。
立ち上げ当初は200超のデザインのスウェルを販売。自己資金3万ドル(約300万円)を投入した。
創業からほどなくして、オプラ・ウィンフリーさんの雑誌「オプラ・マガジン」から問い合わせが入ったことで、さらに色や商品数を追加。利益増となる。
その利益をさらに運営にまわし商品数を増やしていった。
会計事務所のアーネスト&ヤングで会計士として働いた経験を持つ彼女は会計には自信があった。
しかも、ハーバードのMBA取得後はコンサルタント会社や不動産会社で実務経験を培った。
立ち上げ当初は経営が大変な時期もあったが、投資家からの投資依頼を断り自己資金で運営してきたことが逆に自信になったと語っている。
そして、2012年、皆さんもご存知スターバックスで取り扱われるようになった。
最初は、テキサス州のオースティンとジョージア州のアトランタの2都市から始まった。
おそらく、ニューヨークよりもずっと車社会のオースティンやアトランタはもともと車の移動に便利な保冷・保温する水筒のニーズがあったのだろう。
3年後の2015年には、売行きの良さから全米のスターバックス数千もの店舗で取り扱うまでに拡大。
それによって、売上は急増。
2013年は1,000万ドルだったのが2015年には4,700万ドルと370%の大幅増となった。
アメリカン・エクスプレスの選ぶ、「女性が経営する企業で急成長中のアメリカの企業」に選ばれている。
その後、2016年には、大型量販店のターゲット用に10ドルほど安い商品ラインを作るなど拡大。
2016年時点での売上は1,000億ドルにまで達しているとみられている。
また、これらの利益から80万ドルをユニセフに寄付しマダガスカルの水支援などにも尽力している。
こうした功績から、スウェルの創業者社長のサラ・カウスさんは、経済誌フォーブスの「アメリカで一代で財を築いた女性社長」(America’s Most Successful Self-Made Women)のひとりに選ばれている。
(ご参考)
・Why S’well Bottle Founder Sarah Kauss Is One Of America’s Most Successful Self-Made Women
当該記事には書かれていないがもし、コーラなどのソーダ類がたくさん売れている時代だったらスウェルはここまで好調ではなかったかもしれない。
コーラを水筒にいれる人はいないし、長く持ち歩く必要もない。
むしろ、美味しくなくなってしまう。
でも、お水やお茶、コーヒーなら水筒にいれて持ち歩くし、保冷と保温が効くお洒落な水筒があったらとっても便利だ。
むしろ、水筒が無いと困るくらいだろう。そういった、ニーズにあった適切な商品だからこそスウェルは大ヒットした。
これまでになかったチャンスを適切に捉えた結果である。
またさらに、アメリカにはちょうど良い保冷・保温機能やデザイン性の高い水筒が無かった。
日本の象印さんの商品は売られてはいたが、取り扱う店舗は限られていた。
でも、実はよくよく考えてみると、象印さんなどのような日本のメーカーさんの持つ技術の方がよっぽど良いものを作れるのではないかなと思う。
水筒に限らず水筒に関連した商品なども含め、日本のメーカーさんにとっても大きなチャンスが今あるのかもしれない。
(ご参考)
・スウェル
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