大統領就任当初からくすぶり続けてきた「ロシア・ゲート」疑惑。ここにきて様々な情報が明らかになりつつある中で、トランプ側は「未遂」を強調するものの、益々もって厳しい状況に追い込まれています。アメリカ在住の作家でジャーナリストの冷泉彰彦さんは、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、「ロシア・ゲート」について、深刻な3つの疑惑を詳しく解説しています。
支持率36%、危険水域に入ったトランプ政権
トランプ政権の「ロシア・ゲート」が深刻化しています。2016年の6月にトランプが最終的に共和党の大統領候補への指名が確定した直後に、長男の「ドン・ジュニア」がロシア人の弁護士であるナタリア・ベセルニツカヤ氏と面会したという問題が連日報道されているからです。
この面会ですが、その当初の目的というのは「ロシア政府が入手した『ヒラリーを犯罪者にすることができる』情報」を、このベセルニツカヤ氏が提供してくれると述べ、ドン・ジュニア氏は、その「情報提供」を期待して面会したという点です。仮に事実であれば、外国勢力による選挙操作を示唆する深刻な問題です。
この点については、結果的に「会ってみたらそんな情報はなかった」としてトランプ陣営としては「未遂」だという主張をしています。ところが、以下の3点については、やはり深刻な疑惑が残っているのです。
1つは、そのベセルニツカヤ氏との面談。「アメリカによるロシアの子供の養子縁組をプーチン政権が禁止している」という「養子縁組」の問題ばかりがアメリカでは話題になったそうです。
しかし、仮にこれが事実だとしても、そこには深刻な問題があります。というのは、ロシアからアメリカへの養子縁組をロシアが禁止しているのは、アメリカによるロシアの「人権弾圧者への制裁」の根拠となっている「マグニツキー法」への報復として行われているものだからです。
この「マグニツキー法」というのはロシアの人権活動家で、政府高官の腐敗を暴いたセルゲイ・マグニツキーという弁護士の名前から来ています。そのマギニツキーが2009年に獄死した際に「殴打等をして殺害に関わった」とされる高官を「名指し」しながら、資産凍結や米国への入国禁止を規定した法律となります。
そしてナタリア・ベセルニツカヤ氏は、オバマ政権当時にアメリカの議会が与野党超党派でこの「マグニツキー法」を成立させようとしていた際に、成立を阻止するためのロビー活動を行っていた人物。「養子縁組問題」を取り上げたというのは、要するに「マグニツキー法を停止せよ」という圧力をかけてきたという理解が可能です。
更に、この会談には、ロシアの諜報機関に関係した大物も同席していたという情報があり、何から何まで怪しさ満点という感じになってきました。この人物というのは、リナット・アーメツシンという「ロシア系アメリカ人」で、ソ連時代からソ連側からの「防諜活動」に関与しており、ソ連崩壊後はワシントンで20年にわたって「ロビイスト」をしていた大物だというのです。
要するに、何も知らないドン・ジュニアが軽率にもロシアの「スパイ」、それも大物のスパイと不用意に会っていた、それどころか「トランプタワー」に招き入れて、密談をしていたというわけです。
第2の問題は、その際に同席していたというポール・マナフォートという、当時はトランプ陣営の選対本部長だった人物の存在です。マナフォートは、レーガンやブッシュ(パパ)の選挙戦に参加していたという大物の「選挙参謀」ですが、その活動範囲は国際的で「ウクライナの親露勢力」の顧問をしていたこともあるというのです。
その際にロシアから巨額なカネが流れていたという疑惑があり、現在は、FBI並びに特別検察官の捜査対象になっている人物です。また、トランプ陣営からマナフォートへのカネの流れも法外であるそうで、いずれにしてもマナフォートが、この2016年6月の会談にどのように関与していたのかも大変に気になります。
第3の問題は、この面会についてドン・ジュニアは父親であるトランプ大統領には報告しなかったとしており、大統領も、この2017年の7月になって「この件は数日前に知っただけだ」としています。
ところが、面会をアレンジしたフィクサーのゴールドストーンという人物(音楽プロモーター)は、以前にトランプがモスクワでの「ミス・コンテスト」を行った際に、その手配を行っている人物だという疑惑が浮上しています。
仮にそうであれば、大統領自身との面識があるはずという報道が出ています。仮に大統領の「知らなかった」という発言が虚偽であれば大変なことになります。
そんな中、ドン・ジュニアは、上院の司法委員会の公聴会に招致される可能性が濃厚となっており、早ければ今週から来週にかけて「公開形式での証人喚問」が行われる見通しとなっています。これに対して、トランプ陣営は弁護団を急遽編成して対応、「ロシア・ゲート」は以前とは次元の違う、深刻な局面を迎えています。その結果が「支持率36%」というわけです。
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