東京五輪のエンブレムに始まり、次々と噴出する盗作疑惑の対処に追われるデザイナーの佐野研二郎。事の真偽はどうあれ、もしもアメリカでデザインを盗用した場合にはどういうことになるのでしょうか。『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』の著者でNY在住のりばてぃさんがさっそく調査してくださいました。
デザイン盗用をいかに抑止するか?
2020年東京五輪のエンブレムをデザインした佐野研二郎氏。
そのエンブレムについてのデザイン盗用疑惑からはじまって、続々と過去の作品にも、デザイン盗用の指摘が相次ぎ、ついに13日、サントリービールの「夏は昼からトート」キャンペーンのための、30種類のトートバッグデザインのうち8種類を佐野氏の申し出で取り下げるといった出来事も。
ほかの作品にも「盗用」を疑う指摘は多々あって、この騒動はまだまだ沈静化しそうもありません。
それどころか、サントリーの件を「部下のせい」にしてごまかそうとした姿勢が、世論を余計に怒らせてしまって、まさに、火に油。
これまで佐野氏を擁護してきた仲間内のデザイナーさんたちの過去の作品からも、デザイン盗用の疑いのある作品が続々と探しだされたり、東京五輪のエンブレム選考委員や、その他の業界関係者たちが、裏でつながりあるんじゃないの? との疑いも出てくる始末。
どうやら、デザイン盗用の問題だけに留まらず、日本のデザイン業界のあり方にもメスが入りそうな勢いになってきました。
なお、サントリーの件で、デザインを盗用されたアメリカ在住のデザイナーさん、ベン・ザリコー氏が佐野氏に挑戦状をたたき付けたこともすでにニュースになってます。
〔ご参考〕
●トートバッグ問題で佐野研二郎氏がコメント発表 サポートデザイナーが「第三者のデザインをトレース」認める
●盗用された米デザイナーが佐野氏に挑戦状
●佐野氏デザイン取り下げ 米国のデザイナー「法的手段も検討」
日本のデザイン業界のあり方にまで、「これでいいの?」と問われるようになってきますと、たぶん、次は、「じゃぁ、どうすればいいの?」という話が出てきて、「アメリカはどうなってるの?」みたいな展開になることも予想されますので、一足先にちょっと調べてみました。
まず、デザイン盗用は、英語で言うと、「Design Theft」とか、「Copycat」といった表現が使われてまして、ものすごく沢山、関連情報や最新ニュースが見つかります。
今回、東京五輪エンブレムの盗用疑惑が騒ぎになるまで、デザイン盗用が、あまり大きな話題になることのなかった日本とは違って、アメリカでは、かなり頻繁に、デザイン盗用の話題が飛び交っている印象。
まぁ、それだけアメリカには、世界中から、いろいろな文化や価値観を持つ、多種多様の民族や人種が集まっていて、あまり深く考えずに、デザインを盗用する人々も、結構、多いということなのかもしれません。
また、デザイン盗用の事例が豊富ということは、その対策も、それなりにちゃんと整っているということ。
では、アメリカでは、どんな対策をとってるのか?
答えは、巨額の賠償金も請求可能な訴訟システム。
アメリカの場合、たとえ刑法上は微罪であっても、損害賠償で支払う金額がめちゃめちゃ高額になることで、類似犯罪を抑止する効果を高めている感じになってるんです。
これが日本とは大きく違うところ。
例えば、子どもの「いじめ」問題でも、学校や学区や市などに、いじめを放置したという理由で、巨額の賠償金が請求されるケースが多々あるんですね。
例えば、
- 同性愛者の中学生6名がいじめ対策を何もしない学区(school district:教育を統括する地方行政組織)を訴え、50万ドル(1ドル=120円換算で6,000万円)で和解。学区からの同性愛者の権利に関する和解金としては、この案件が米国史上最高額の記録を更新。2012年。ミネソタ州。
●Plaintiffs in Anoka-Hennepin bullying lawsuits happy with settlement - 殴られるなどのいじめにより足に麻痺が残った中学生が、やはり学区を訴え、420万ドル(5億4600万円)で和解。2012年。ニュージャージー州。
●New Jersey bully’s paralyzing punch nets $4.2M settlement - 学校の食堂で殴られ片目の視力を失った中学生が、市を相手に賠償金1,600万ドル(19億2,000万円)の訴訟。2012年。ニューヨーク州。
●Teen says bullies beat him, sues New York schools
などなど。
それでも、子どもの「いじめ」は完全に無くなったりはしませんけど、数億円、十数億円もの賠償金が請求される可能性があるということになると、それなりに一定の抑止力が働くわけです。
デザイン盗用についても、だいたい同様の考え方。
今月8月にあった訴訟結果でも、以下のような最新のニュースが報じられています。
高級ファッション・ブランドのトリー・バーチ(Tory Burch)のロゴマークと同じデザインのジュエリーを、勝手に作って販売しただけでなく、訴訟されると、逆に、トリー・バーチを訴えたり、証拠を隠滅するなど、悪質なデザイン盗用を行ったニューヨークに宝石店を持つ宝石販売業者の「Lin & J International」に、賠償金4,120万ドル(約50億円)の支払いが命じられました。
〔ご参考〕
●Designers Beware: Copycat Coughs Up Big Cash
●Alleged Counterfeiter Countersues Tory Burch for Counterfeiting
高級ファッション・ブランドのロゴマークと同じデザインのジュエリーを勝手に販売してたことや、態度が悪質だったことなども勘案したうえでの巨額の賠償金だとは思いますが、それでも、4,120万ドル(約50億円)って、結構、すごい金額ですよね?
ここまで巨額の賠償金を請求される可能性があるとなると、デザイン盗用なんてバカバカしくてやってられません。
たぶん、デザインを盗用しても、盗用した方がお得になるくらいペナルティが軽いと、類似犯罪、つまり、デザイン盗用を抑止できないと考えているのだと思います。
今の日本の法律では、こんな巨額の賠償金請求は、できませんから、このアイデアをそのまま取り入れることは難しいと思いますが、一応、念のため、ご参考まで。
image by: Shutterstock
『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』 より一部抜粋
著者/りばてぃ
ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。読んでハッピーになれるポジティブな情報や、その他ブログで書けないとっておきの情報満載のメルマガは読み応え抜群。
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