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民進党・新代表に「枝野」はあっても「前原」はあり得ない理由

蓮舫氏の辞任に伴い、9月上旬までに代表戦を行う方針を固めた民進党。枝野幸男・前原誠司両氏の一騎打ちになるとの見方が強まっていますが、メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の著者でジャーナリストの高野孟さんは、「前原代表という選択はあり得ない」と断言した上で、枝野氏を代表に選ぶべき理由と、民進党が立ち直るために必要な条件について記しています。

枝野代表で民進党は立ち直れるか?──「野田幹事長」というとんでもない回り道の後に

民進党の蓮舫代表が7月27日の辞任表明の会見で、「遠心力を働かせてしまった、どうやったら求心力に持っていけるのか」と述べたのはその通りで、昨年9月15日の代表選に勝利した彼女は翌16日の初仕事として野田佳彦元首相を幹事長に指名し、その瞬間から遠心力しか働かない民進党になってしまった。この「政治音痴」としか言い様のない愚挙を総括することなく、野田を切って幹事長に誰かを据えようとしても、なり手がいないのは当然で、結局、彼女が自分で責任をとらざるを得なくなったということである。

今更言うまでもないが、第1に、野田は12年にやらなくてもいい自殺的な総選挙をやって230議席を57まで減らして民主党政権を崩壊させた張本人であり、A級戦犯である。それだけでなく、第2に、私が日刊ゲンダイ連載の16年9月23日付で書いたように、安倍政権になって起きた悪いことのほとんどすべては、野田政権が用意し着手していたことであって、その意味で野田は安倍への内通者、自民党のトロイの木馬である。第3に、仮に以上のことがなかったとしても、彼は頭が高く、(ドジョウとか自称している割には)泥の中を這いずり回るタイプでなく、幹事長には誰よりも向かない資質の持ち主である。

こともあろうにその野田を幹事長にするとは、およそ考え得る最悪の選択であって、党員・支持者の気持ちばかりでなく国民の中に残っていた僅かな期待すらも遠心分離機に放り込んで吹き飛ばすような行為だった。これでこの1年は、民進党の再生という観点からは、まったく意味のない、単なる無駄な回り道にしかならなかった。そのことが都議選結果に端的に現れたのだと言える。

この時期に「前原代表」という選択はあり得ない

さてそれで9月前半にも代表選が行われ、今のところの予想では前原誠司=元代表と枝野幸男=元幹事長の対決になると言われているが、私の意見では、このタイミングで前原が代表に就くなど決してあってはならないことで、本人が辞退すべきだし、そうしないのなら何としても敗北させなければならない。なぜなら、彼は前々から「9条加憲論」を掲げていて、いま民進党がわざわざ前原を代表にするということは、安倍晋三首相の「9条加憲論に呼応し同調することをこちらから申し出るのと同じことになるからである。

前原は、昨年の代表選の際にもそれを声高に主張し、また今年5月3日に安倍首相が唐突に9条加憲論を持ち出した後でも、例えば『週刊東洋経済』17年5月13日号のインタビューで「私は改憲ではなく『加憲』を主張してきた。9条第3項、あるいは10条といった形で、自衛隊の存在を明記してはどうかと考えている」と述べている。

実は枝野も一種の9条加憲論を打ち上げたことがある。13年9月、彼が党憲法調査会長だった時に『文藝春秋』同年10月号に書いた「憲法9条、私ならこう変える」がそれで、現行9条(の1項、2項)はそのままで、そのあとに次のような条文を付け加えるとした。

■第9条の2 我が国に対して急迫不正の武力攻撃がなされ、これを排除するために他に適当な手段がない場合においては、必要最小限の範囲内で、我が国単独で、あるいは国際法規に基づき我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を守るために行動する他国と共同して、自衛権を行使することができる。

 

2 国際法規に基づき我が国の安全を守るために行動している他国の部隊に対して、急迫不正の武力攻撃がなされ、これを排除するために他に適当な手段がなく、かつ、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全に重大かつ明白な影響を及ぼす場合においては、必要最小限の範囲内で、当該他国と共同して、自衛権を行使することができる。

 

3 内閣総理大臣は、前二項の自衛権に基づく実力行使のための組織の最高指揮官として、これを統括する。

 

4 前項の組織の活動については、事前に、又は特に緊急を要する場合には事後直ちに、国会の承認を得なければならない。

 

■第9条の3 我が国が加盟する普遍的国際機関(*1)によって実施され又は要請される国際的な平和及び安全の維持に必要な活動については、その正当かつ明確な意思決定に従い、かつ、国際法規に基づいて行われる場合に限り、これに参加し又は協力することができる。

 

2 前項の規定により、我が国が加盟する普遍的国際機関の要請を受けて国際的な平和及び安全の維持に必要な活動に協力する場合(*2)においては、その活動に対して急迫不正の武力攻撃がなされたときに限り、前条第1項及び第2項の規定の例により、その武力攻撃を排除するため必要最小限の自衛措置をとることができる。

 

3 第1項の活動への参加及び協力を実施するための組織については、前条第3項及び第4項の例による。

 

(*1)現状では国連のこと

(*2)多国籍軍やPKO等、国連軍創設以外の場合

つまり、9条の2では、「自衛権の行使」とそのための「実力行使のための組織」とを明記すると共に、その「自衛権」の範囲には日本防衛のために行動する米軍との共同も含まれるとしている。この場合の自衛権は個別的自衛権で、そこに米軍との共同も含まれるから集団的自衛権を解禁して「世界の果てまで一緒に行くかのようなことには歯止めをかけるという意味である。

また9条の3では、国連の平和・安全維持活動に自衛隊は参加することが出来、その際に武力攻撃がなされればそれを排除する自衛措置をとることができることを予め規定している。

これについて、「首相の案と似ているのではないか」と問われた枝野は、「それはまやかしだ。制定以来、蓄積されてきた9条の解釈を今後も維持するかどうかがポイントになる。……専守防衛で海外での武力行使はしないことを基本線にした私の案とは違う」と述べている(17年5月17日付毎日新聞)。また別のところでは、やはり「首相の考え方とは違うのか」と問われて、「全然違う」「問われているのは自衛隊を(憲法に)明記するかではない。従来の専守防衛という解釈が今後も維持されるかが最大の争点だ」と述べている(7月12日付日本経済新聞)。

これをもう少しわかりやすく語った記事が、14年1月の『通販生活』に載っている。

安倍内閣による解釈改憲は「立憲主義」の破壊。憲法が政権の暴走を止められない状況です。

現行憲法の最大の問題点は、自衛権などを規定した条文がなく、すべてが解釈にゆだねられていることです。

憲法9条が掲げる平和主義が、日本の軍備拡張に対して「歯止め」になったのは事実です。しかし、憲法9条の歯止め機能は、内閣法制局の解釈に依存しているという点で脆弱性があります。法制局も内閣の一部局ですから、内閣が恣意的に解釈を変更してしまうことも可能なのです。

実際は、すでに立憲主義は破壊されています。内閣総理大臣が公然と、従来の憲法解釈と整合性がつかない解釈変更を試みているだけで、権力を拘束する憲法の力は大幅に落ちてしまいました。憲法が政権の暴走を止められない状況です。たとえ条文が変わらなくとも、解釈を変えることで自衛隊の活動範囲などが無原則に拡大していく可能性だって残されているのです。

だからこそ恣意的に変更可能な解釈ではなく、歯止めを「明文化」することで、従来の平和主義の基本を守りながら我が国を取り巻く安全保障環境にも対応できるようにすべきなのです……。

枝野の企図は、専守防衛の立場を守るために条文で自衛権の解釈を明確化するところにある。それに対して前原は、周知のように、専守防衛を踏み越えて集団的自衛権を解禁することに賛成であるし、さらには、

敵地攻撃(能力の保有)については、私は否定的なスタンスではない。

先制攻撃を行う際には、弾道ミサイルと巡航ミサイル、航空機による攻撃という3つの類型のいずれを保有・運用するにせよ、高価になり時間も10年仕事になるが、その是非についての見直しの議論はあってもよい……。

と言っていて(前出『週刊東洋経済』)、これは自民党タカ派の議論とほぼ同じである。

2人の論争になった場合、この微妙かつ重大な違いをマスコミがよく理解して丁寧に報道するかどうかは極めて疑問なので、今から自分で研究しておくようお勧めする。

リベラルvs保守という構図になるならそれも結構

といっても、さすがに前原も、安倍首相と同じような9条加憲論を掲げたのでは代表選を戦えないと自覚しているのだろう、その主張を控えて、むしろ安倍首相の「2020年施行」と日程ありきで議論を早々に打ち切ろうとするかの姿勢に対する批判に重点を置く作戦をとるようだが、そんなことをしても頭隠して尻隠さず、タカ派路線の尻は隠しようもない。妙に迂回せずに正面から議論に応じたほうがいいだろう。

そうすることによって、憲法観のみならず外交政策から次期総選挙へ向けての野党選挙協力、とりわけ共産党との関係まで含めて、「リベラルvs保守決着つける戦い』」(7月29日付朝日新聞の見出し)となるなら、それはそれで大変結構なことである。

野党協力に関しては、枝野は岡田克也代表時代の幹事長として参院選での共闘路線を推進した実績があるし、それをさらに進める以外に自民党に勝てる道筋はないと見切っているようである。しかし前原は「共産党はシロアリ」などと、好き嫌いは別にして現に共闘を組んでいる公党に対して下品かつ無礼な口利きをして、私はその一事を以てしてこの大事な時期の野党第一党の代表に相応しくないと断定する。彼はまた「天皇制自衛隊日米安保消費税で共通認識を持てる政党としか組まない」とも言っているが、そこまで基本的な柱で一致するなら一緒の党になってしまえばいい訳で、統一戦線ということの根本を理解していないことを曝け出している。

また野党協力には「脱原発の合意が不可欠で、この点で枝野は3・11当時、官房長官として毎日の会見で「直ちに影響はない」と言い続けたということで、脱原発派の方々からは悪いイメージで見られている。しかし、私に言わせればそれは余りに子供じみた感情論で、あの状況で何政権であろうと誰が官房長官であろうと、徒に不安を煽るようなことは言える訳がない。彼の脱原発志向はハッキリしていて、蓮舫が「30年代」を「30年」に繰り上げようとして連合とモメて行き詰まったことを「意味がない」と批判し、「できるだけ早く脱原発。民進党が野党でいれば遅れますよ、政権を獲ればどんどん早まりますよ、ということでいいのではないか」と考えている。その通りで、野党間では「できるだけ速やかに脱原発自然エネ拡大で合意すればいいのである。

この際、民進党は、リベラルvs保守が相乗りしたまま路線的には「中道」などと意味不明なことを言ってきた積年の悪弊を払拭して、枝野を代表にスッキリとリベラルの旗を掲げ直し、それが気に入らない前原、野田、細野豪志ら主として松下政経塾系は出て行くなら出て行って貰えばいいのではないか。数は多少減っても、そのほうが次の選挙は遥かに闘いやすくなる。しかし枝野がリベラルに徹し切れないと同党の立ち直りは果たせない。

 

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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